10:股間の恐怖

 シャワーを浴びながら俺の股間をつくづく見てしまう。

 こんなに大きくなったことを本当なら喜ぶべきなのかも知れない。


 エルフ化する前に見たことのあるアダルトビデオの男優達はそれはそれは立派な逸物を持っていた。皮が剥けきらない自分の情けない持ち物と比べ、いつになったらああなれるのか、あと何年かしたら自然にああなれるのかと思いながら溜まっていた物を吐き出していた。


 そして今、股間に目をやれば萎んでいる状態でもどこの男優よりも立派な物が付いている。

 トランクス型のパンツを穿いていても収まりきれないほどのモノだ。トイレに行けば片手ではそれを取り出せないくらいだし、ぶっちゃけ普通のズボンだと窮屈すぎる。ジャージのような伸縮性があるものじゃないとムズムズして困る。

 

「これじゃ…」


 女性を歓びに導く武器として、持ち物は大きければ大きいほど良いとずっと思っていたのに、過ぎたるは猶及ばざるが如しとはこの事だと思ってしまう。

 

「馨ともうできないのか」


 萎んでいる状態でも昼間よりも大きくなっているのがわかる。どこまで大きくなるかは知れないが、血液が集中した時には意識が保てないだろう。それは昼間の経験で良くわかる。そうなると馨と言わず誰とも交われないことを意識してしまう。


「このカラダ、元に戻らないと生き地獄だ」


 丁寧に股間を洗い、身体を拭いた後、ベッドに腰掛ける。


「馨……俺は、このままじゃ…」


 貧乳の馨はいつも大きな胸が欲しいと言っていた。「育乳」や「バストアップ」と言った情報に敏感で、彼女を抱くたびに小さくてゴメンねと言われていた。

 俺は特別巨乳が好きだというわけではないが、それでも掴み応え、揉み応えがある方が好ましいと思っていた。

 馨自身がどう思っているかは知らないが、コンプレックスから解き放たれた今、以前よりももっと色々な事ができるだろう。俺の家でアダルトビデオを見ながら「胸が大きければああいうことだってしてあげられるのに」と言っていたプレイが頭に流れてくる。


 途端に下半身が反応し、頭から血液が吸い取られていく感覚がある。

 このままだと死ぬかもと本気で思う。

 死の恐怖をこの歳で味わうとは思っても見なかった。同時に下半身は落ち着いて、意識がハッキリしてくる。


「ハア……」


 最終的には平時でもビール缶位になってしまうのだろうか。そうなると普段から意識が飛びやすくなるのだろうか。明るい未来が待っているとは思えない。

 だとすると、持ち物を切り落とすのも選択肢の一つか──いや、それは極端すぎるか──でも、先輩に責任を取ってもらい、人工のモノを造って装着すればある程度の満足感は得られるか、そんなことを考えていたら眠ってしまった。


 若い男性は朝になると下半身がどんな状態になるか、などと考える余裕はないままに。

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