9:交われない(馨の眼)

 エルフの身体はとても不自由だ。

 少し動くたびに胸にある重い物が揺れてバランスが崩れるし、首や肩が痛い。だいたい、朝よりも少し胸が大きくなってきている気がする。そのうちにZカップ(?)などというサイズになっていそうで怖い。そうなったら四足で暮らさないとマズいのかとも思ってしまう……マジな話だ。

  

 やっとの思いをして脱衣所で裸になると、足下が全く見えない。Aカップの頃には簡単にできたことができないのは不便極まりない。すり足のような歩き方で何とか浴室に入っていった。


「凄い」


 先輩から出てきた言葉はそれだけで、固まってしまっていた。

 自分で見ても確かに凄い。浴室にある姿見で改めて全裸の自分を見ると笑ってしまうほどだ。

 グラビアアイドルで二次元体形と言われている人達が子供に見えてしまう。

 全く垂れていない大きなお椀が二つ、ドーンと存在を主張している。

 横向きになれば、私が下を向いても何も見えないことが納得できるだけのものがある。お尻もお椀型に盛り上がっていて、腰を振ればブルブルと大きく揺れる。


 身体を洗おうと椅子に座ると正直洗いにくい。胸の下から股間まで手が届きにくくて、洗い残しがないかと心配になる。更に今まで股間にあったジョリジョリとした感じがなくツルツルなので、妙に刺激が強い。身体を洗うたびこんな風に感じるのだろうか。

 股の間そのものも胸が邪魔で手が届きにくいから臭いが残っていないか非常に気になる。


 巨乳や巨尻に憧れる人達にぜひ替わってもらいたい。


「そ、その…」


 上擦ったような声で先輩から声が掛かった。


「あ、あの~…さ、さ、触らせてもらっても、い、いいかな~」


 いつもの先輩らしくない、妙に落ち着きのない声でそう頼まれる。

 私のカラダに最近触れたのは悠生しかいない。正直、誰のせいでこんなことになっているんだという怒りもあるけど、色々と発見もあるから触らせてあげる。私って素直に実験台にされたり、こうして先輩を許したりと随分優しい人間だったと気付いてしまう(悠生は絶対にそう思っていないだろうけど)。


「先輩だけ、特別ですよ」


 コクリと頷いた彼女が浴槽に手招きする。

 ギリギリ二人で入れる大きさなので、対面に座るように足を入れると私の身体を先輩の手で半回転させられ、先輩を椅子にして座る格好になった。


「あ、これだと…」


 尻尾が彼女の臍の下に当たり、スルリと先輩の股間に入っていく。自分では感じなかったジョリジョリした触感が尻尾の先にある。自分の意思で僅かに動かすのことができるそれをその場所からどけようとしたが、先輩の手が邪魔する。


「この尻尾可愛い……撫でてみたい」


 そう言いながら尻尾を揉むように撫でてくる。


「あ…」


 気落ちが良い。こんな簡単な言葉でしか表現できないのがもどかしいけど、悠生にカラダを触られている時よりも感覚としては数段上だ。場所が尻尾だからか、それともエルフ化して刺激に敏感になっているのかはわからない。ただ、こんなことだけで悠生に抱かれている時よりも股間から漏れ出している感覚はある。


「あの、先輩…あ、あの…ですね」


 先輩の左手が胸まで動いていく。右手は相変わらず尻尾を擦り続けている。


「ひ…ひっ…い、い」


 乳房を掴まれ、先端が掌に触れると、カラダに電撃のような刺激が走った。

 Aカップの頃は感じなかったもの凄い快感だ。爆乳化すると感じやすいカラダになるのだろうか。


「ごめんね。ちょっとやり過ぎたかな」

「あ、あぁ、はあ…」


 言葉にならない。この程度の刺激でこうなるならば、悠生とセックスをしたらどうなるのだろう。


 薄々感じてはいたことだけど、この時、ハッキリと気が付いた。

 悠生が臨戦態勢になった時に常に貧血になってしまうとしたら私と交わることなんてできない、と。

 いや、正確には彼が貧血で倒れていようと柔らかい時に私が跨がればヤることは可能だ。しかし、さっき搾精した時のように彼の意識外で交わるのは嫌だ。言葉による愛情確認も彼からの行動も行うことができなくなるのだ。

 そして、仮に意識があった場合、少しでも大きくなればあのサイズでは私のに入らない。私が壊れてしまうのは自明で、そこまで命がけでないとができないなんて間違っていると思う。


 要するにこのカラダのままでは悠生とずっと交われないセックスできないことになってしまったのだ。


「あの、先輩」


 快感が一気に消えて、私は現実に戻った。


「このカラダ、本当に元に戻るんですか」

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