8:発見と誤算(雛子の眼)

 私は小学校に上がる前から変な子だと皆に言われてきた。

 とにかく疑り深い子で、あらゆる事象に「なぜ」、「どうして」と疑問をぶつけてきた。

「なぜ食事を摂らないと生きていけないのか」、「なぜ自動車は走るのか」、「どうして総理大臣がいるのか」、「どうして私は今生きているのか」

 日常のことから哲学的なことまでとにかく考え続けていた。


 両親は忙しい人達だったから、もっぱら家政婦さんと家庭教師さんにありとあらゆる疑問を投げつけ、沢山のことを教えて貰った。そして、欲しい本や様々な工具、実験の機材を両親に頼み込んで買ってもらい、いつしか私の部屋は学校の工作室や実験室もかくやという状態になっていった。


 小学校四年生の時に、私はとある発明をした。普段使っている文具のクリップにあった不満を直した物だが、これがヒットして、初めて自分でお金を稼ぐことを覚えた。それからあれこれと身近なものからマニアックな物まで発明をし、パテントを売り、豪華なマンションを即金で買って、充分なお金が残るまでになった。中学三年頃の話だ。

 自分で買ったタワーマンションは別荘として使っている。たまに見る夜景は気分転換には最高だし、上層階の住人しか使えないラウンジやジムも居心地が良いから、月に数日はここで寝泊まりするようにしている。


 中学一年生の時に初めて読んだライトノベルにはエルフやドワーフという異世界人が登場していた。この時、私は閃いてしまい、現在に繋がっている。

 伝唱や伝説にはモデルがあるものがあると言われている。例えばノアの箱舟は当時洪水が起こったことから本当にそれに備えるための船を作ったとかバベルの塔は巨大建築物を実際に作りかけたとか──だったら、エルフやドワーフも類似の存在が実在したのではないかと。


 エルフは作品ごとに容姿や知性と言った特性が違うけど、それでもかなり現代人に近い存在だと思えた私は、遺伝子を少し変えられれば、ヒトはエルフになるのではないかという結論に達した。

 この仮説を普通に証明するには何代もに渡ってエルフに近い特徴を持ったヒトを選抜するのが良いのだろうが(実際、肉牛なんてそんなことをしている)、そんなことをするのに私の人生は短すぎる。


 そこで、周りにある物を使って、今生きている人の遺伝子を操作できないかと考えたのだ。

 その結果、「エルフ変身薬」を開発し、鬼城院君と能条さんをエルフ化させたのだ。


 そして、いくつかの発見と誤算があった。


 物語中のエルフは男性が出てくることが少ない。私は男性目線で物語が作られているのだろうと思っていたのだが、違っていた。

 最初にエルフ化した鬼城院君の性器を見て息を飲んだ。私は処女だが、こんなものを身体に受け入れることはできないと。エルフの男性は人間と同じ方法セックスでは子孫を残せないのだろう。そうなれば生物学的には無能なのだ。だから男性は間引きをされるか、あるいは遺伝的なキラーとなって生まれてこないか。そんな仮説を立てた。


 一方、能条さんの身体は私が見ても息を飲むほどだ。ミロのビーナスだって、マリリン・モンローだってとても相手にならない。母性とセックスアピールが美事に両立している。尻尾……そんなものが気にならないくらいに美しくて、溜息が出る。嫉妬なんてレベルを遙かに超えた尊敬と羨望の域にあるカラダだ。

 私自身も容姿に多少の自信はあったけど、とてもじゃないが今の彼女と比べようとは思わない。



 鬼城院君が貧血で倒れてしまった。身体を見れば股間が凄いことになっている。萎んでいる状態でああだったのだから、膨らめば血液が脳から奪われてしまうのだろう。悪いとは思ったが、遺伝的に調べたいので、能条さんの協力を得て、彼から搾精した。

 彼女は鬼城院君と付き合っているのは知っていたけど、とても手慣れた手つきで搾り取っていった。後で聞いたら処女ではないと真っ赤な顔で教えてくれた。


 そして私は推測した。エルフの成人男性はそもそもが存在できないのではないかと。

 年頃になって子孫を残せるようになった時、いつも気絶していたのではセックスなぞ出来るわけがない。よしんば女性が跨がったとしても、あの状態の物を体には入れられない。能条さんのお尻がいくら大きくても無理だ。仮に妊娠させるとすれば、今みたいに搾精して女性の身体に入れることだが、そこまでして純粋なエルフを残すよりも他から人間の男を連れてきた方が話が早いと思う。

 その結果、エルフの血が薄まって、現代に至っていると考える方が自然だろう。



 この二人をこのカラダのままで自宅で暮らして貰うには無理があるので、私が責任を持って暫く一緒に暮らすことにした。

 幸い、住まいとお金はあるし、事情を話した学校の九重先生とうちの両親からは協力を取り付けた(親には相当怒られたけど)。


 当面は二人のデータを取り、日常を観察する予定だ。

 ただし、鬼城院君はあんなに簡単に貧血を起こされると非常に危険だ。男性の生理現象とは言え、いつも私達が溜まっている物を吐き出させるわけにはいかない。

 とりあえず病院長をしている父に頼んで、を処方して貰おう。日常生活をちゃんと行うためにはこれは絶対に必要だ。


 能条さんには、どこまでカラダが発達するのかを見届けたい。万が一異常があれば万全の医療体制でサポートできる体制はあるし、何となれば鬼城院君も含めて生涯暮らせるだけのものを用意する覚悟もある。


 私しか知らない、エルフの真実を解き明かしたい。

 それができるのは私しかいないのだから。


 第一歩として、彼女のカラダを隅々まで調べるのだ。

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