第24話 メンバーが家に来る
目の前の少女は、名案だとばかりに得意げだ。
……だけど普通に待て。どう考えても頭おかしくね?
「いや実は俺予定が……」
「そうですか、残念です。でもさっき予定のことより先に私を心配しましたよね?」
「つまり嘘だと言いたい、と」
「えぇ、普通なら真っ先に予定があるから無理だ、と断るはずだと思うんですよ」
作家らしく頭が回るのか、香月はペラペラと反論してくる。これは手強い。手強いっていうか、そもそも知らない男子の家に急に上がりこもうとする時点でだいぶやべぇやつだ。
「……そう。予定を思い出したんですよ。思い出したから、心配の後に話が出てきたといいますか……」
「……そうですか。では、後日にするとしましょう」
「えっ、絶対来るんですか?」
「どうしても行きたいので……ダメですか?」
「ダメっていうか、あまり自分のパーソナルスペースに知らない人を入れたくないっていうか。そもそもなんでそんな人の家に上がりたいんですか?」
「うーん、貴方にとても興味が湧きました。だからです」
「興味……」
「えぇ。私の小説は、それこそ担当さんでさえ気づかないような伏線を散りばめています。これは完全に自己満足のためだったので、気づく人などいないと思っていました。けれど貴方は気づいてくれた。初めてなんですよ。本当に初めての体験なんです。人間誰でも、未知のものに出会えば知的好奇心が湧き、徹底的に調べたくなるものじゃないですか」
そうだろうか。
俺はそこまで好奇心旺盛なタイプじゃないから、気になることもないし調べようとも思わない。
彼女は調べようと思うからあれほどの小説が書けるのだろうか。綾瀬が香月を天才肌だと称していたのは、そこら辺にあるのかもしれない。
「私は貴方の人となりにとても興味があります。どのように生活し、そこからどのような人柄が形成されているのか。迷惑だと言われればそれまでですが、私には他に貴方を知る方法が思い浮かびません。それであの提案になったわけです。それに貴方にどうされてもいいと言ったのは、そういう意味で私が貴方をとても気に入ったからです。私は気に入った人にはどうされてもいいというスタンスで生きてるので。あっ、もちろん、気に入った人が無数にいるとは限りませんよ。異性は貴方が初めてです」
「なるほど……」
どうにか相槌を返したものの、どう答えればいいのか分からない。
俺は男だから大丈夫だろうけど、知らない人を家にあげるの怖いし、てか『犯されてもいいし、殺されてもいいと思ってる』ってそれ、どう考えてもメンヘラとかそっち系じゃん。
だけど……
「それに単に自分の作品が人の家に並んでいるところを見たいんですよ。本当に一度だけでいいので、ただ見せてもらいたいんです」
「そう、ですか……」
こんなにも一生懸命なんだし、そもそも俺の一番好きな作家なわけだし。
「分かりました。あまり綺麗な部屋ではないですけど……」
「ありがとうございます……!!」
香月の顔がパァっと輝く。
「では、お互い飲み物飲み終わったらすぐ移動しましょう!」
「そうですね」
音海が変人だとは言ってたけど、こんな破天荒な人だとは思わなかった。苦笑すると、俺は残っていたメロンソーダを飲み干した。
「貴方はいつもあのカフェで勉強してるんですか?」
「いえ、たまたまです。今日は勉強になかなかやる気が出なくて……」
「そうなんですね。私も家がここからそれなりに距離があるところなので、普段は違うカフェにいます。今日は書店巡りをしていたので、あのカフェに」
「じゃあ、偶然ですね」
「えぇ」
本当に偶然がすぎる。
今日カフェで隣り合う確率だってだいぶ低かっただろうに、その人がラブアートの最後のメンバーで、しかも俺の好きなラノベ作家の『香月 湊』だとは。
もし神がいるのだとしたら、どうしてこんなにも偶然を重ねたのか聞きたいくらいだ。
そのまま喋っていると、家にはすぐ着いた。エレベーターに乗り込み、俺の家のある階までいく。
「ここ、なんだけど」
「ここってもしかして……」
表札を見て、香月が顔面蒼白になる。
そして隣の家を見て、もっと真っ青な顔になった。
「春野さん、だったんですよね……」
「現在進行形で春野ですね」
「隣の家は、綾瀬、ですよね……」
「そうですね」
「貴方が噂のはるっち……!? 私も同じトラップに……!」
「トラップ?」
「
「俺、貴女のお姉さんとは会ったことないんですけど……」
「そうですよね。そうなんですけど、会ったことあるんです!」
「は、はぁ……」
支離滅裂だ。
俺、絶対この子のお姉さんに会ったことないはずなんだけど。香月っていう苗字も同学年にいなかったし。いたら珍しいから、覚えているはず。
あとトラップって一体なんのことなんだ。
「いや、でもまだアイナが残ってる……」
「あっ、アイナって綾瀬さんのことですか?」
「えぇ。そうですよ。希望の光です」
「希望の光……!?」
なんか綾瀬がいつの間にかすげぇ存在になってる。
話の文脈というか、どこでどうなってこんな会話になってるのかはさっぱり分からないけど、香月はさっきとは打って変わって俺を睨みつけてきた。
「お姉ちゃんは絶対渡しませんからね! たとえ貴方が私の気に入った存在であろうと! お姉ちゃんは私だけのものなので!」
「は、はぁ……?」
とりあえず……お姉ちゃんって誰だ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます