同級生の相談事(その10)

「川崎氏は有能な経営者で、家族思いのマイホームパパ。接待とかで夜の街へ繰り出すこともない堅物というか生真面目なひとのようだ」

「絵に描いたようなマスオさんですか」

「へえ、マスオさんを知ってるんだ」

これにはちょっと驚いた。

「あなたのお父さまに仕込まれましたので」

なるほどそういうことか。

「川崎さんは、殺人を見せつけるような犯罪に巻き込まれるタイプではないようだ」

「とすると、玲子さんの他に目撃者はいなかったということでしょうか?」

「駅でビラでも配って目撃者を探すしかないね」

「へえ、ビラなんか配るんですか?」

「まさか」

そんなことを口にしておいて、じぶんで否定して世話はない。


「演技というのはどうだろう。君は50対50と言ったね・・・」

「どうして演技する必要があったかです」

「秘密の恋人の気を引いてよりをもどすとかね」

「そこまでするものでしょうか?」

「動機はともかく、誰にその殺人演技を見せつけたかだ。・・・地下鉄の最終電車が、401号室の真ん前にほんの一瞬停止して、部屋の中を覗けるのは、最後尾の車輛の後ろの左側の吊革にぶら下がった30人ぐらいの乗客だけかな。だが、これだと確実に毎晩最終電車の最後尾の車輛の左側に立っている相手と分かっていなければならない」

「そんなひとは、玲子さんぐらいしかいないようです」

「断定はできないよ。演技であろうが本物の殺人であろうが、その30人を特定するのは大変だ。よしんば特定できたとして、『殺人を見ましたか?』と、いちいちたずねなければならない。『見ました』と正直に答えるひとが、果たしてどれだけいるだろうか?」

「30人を特定するのも含めて、確率は1%以下です」

可不可がどんな計算をしたのか、たずねる気にもならない。


「ああ、401号室のルミノール反応を調べる手がある」

これは、われながらいい思いつきだ。

「それはありですね。でもマンションの暗証コードと部屋の鍵をどうやって手に入れます?」

「不動産屋に入り込んで鍵を盗むしかないね。ああ、・・・危険だな」

「犬のヤコブソン器官の嗅覚は、3メートル以内なら人間のそれの1000倍から1億倍あります。血の匂いをかぎ分けることなど屁の河童です」

「ふ~ん」

これは使えると思った。

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