同級生の相談事(その8)
「藤木ビルの401号室の殺人を玲子さんが目撃したのはまちがいないです。犯人は、殺人を見せつけたかったのです」
「へえ」
「玲子さんが翌日の同じ時間に見た時は、窓もカーテンも閉じていました。殺人の時に、わざと灯りを点け、窓もカーテンも開け放って、殺人を見せつけたのです。犯人は、地下鉄の車内から401号室の室内がはっきりと見えると分かっていたのです」
「玲子さんに見せつけるために?」
「分かりません」
「では、見せつけ殺人だという確率は?」
「100%」
これにはうなるしかなかった。
「へえ、見せつけ殺人ねえ。さすが東條くん」
翌週の日曜日の午後、いつものカフェで会って見立てを言うと、玲子はしきりに感心した。
「あの夜の天気はどうでした?」
「たしか会社を出る時、冷たい雨が降っていた。季節外れの霙みたいな雨だったかな」
「そんな寒い夜に、窓もカーテンも開け放っているのはおかしい。しかも灯りを煌々と点けて・・・」
「たしかに」
「こころ当たりはありませんか?」
「何に?」
「殺人を見せつけたがる犯人に」
「まさか、・・・ありえない」
玲子は、開けた口を手で押さえた。
「すみません。でも真っ先にそれをたずねなければならないので」
「ええ、まあ、でも、それって探偵小説の常道でしょう。まず、目撃者を疑えって」
あわてて目の前で手を振り、
「玲子さんを疑っているわけではありません」
と言った。
「では、同じ車内で殺人を目撃したひとはいませんでした?」
「さあ、どうかしら。すごくショックだったので、隣の人がどうだったかまでは気が回らなかった」
「込んでました?」
「終電ってけっこう込むのよね」
「同じ車両で左側の吊革にぶら下がっていたのは?」
「ほとんど塞がっていたけど・・・」
「見知ったひとはいなかった?」
「朝なら、同じ駅から乗るひとの顔を知ってもいなくはないけど、帰りとなるとどうかしら?・・・ああ、ちょっと待って。そういえば、朝の通勤時に同じ駅で見かける男のひとが同じ車両にいた。すこし離れた吊革にぶら下がっていた。終電どころか、帰りの電車で見かけたのは初めてだった」
「そのひとはサラリーマン?」
「いつもきちんとスーツを着てネクタイを締めて、大企業の幹部クラスなのかな・・・」
「そのひとも殺人シーンを見た?」
「さあ、そこまでは・・・」
玲子は小首を傾げた。
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