同級生の相談事(その7)
目覚めると日はすでに暮れかかっていた。
これはいつものことだ。
夜昼が逆転した生活が丸4年続いている。
寝るのを惜しんで読書に明け暮れているうちに、いつしかそうなった。
真理探究のための勉強とかじぶんには言い聞かせているが、これは引きこもりを正当化するための言い訳でしかない。
最初は高尚な西洋の哲学や文学の古典を読んでいたが、次第に推理小説だか犯罪小説などの安直なエンタメ小説に耽溺するようになった。
すっかり怠け癖がついてしまい、この泥沼から抜け出そうと焦った。
だが、・・・もがけばもがくほど、非生産的で自堕落な人間に墜ちて行った。
ともかく起きて、居間のタンスの上の財布を持って近くのスーパーへ走り、簡単なおかずをたくさん作り置きした。
寝たきりの母のめんどうをみるというと聞こえはいいが、正も負も何の感情もなく、ただ惰性ですべてが回っているだけのことだ。
あれほど「学校へ行け」と口をきわめて罵倒した母は、その後も脳卒中で何度か倒れ、今ではアーとかウーとしか言えない。
寝床の母を起して、なんとか食堂の椅子に座らせ、スプーンでご飯を食べさせてから、じぶんはキッチンで立ったままご飯を流し込んだ。
ドリップしたコーヒーを大きなマグカップに入れて自室に持ち込み、朝刊を読んだ。
新聞を隅から隅まで読むと、PCを立ち上げてネットニュースを見た。
若い女の死体が見つかったとかのニュースはどこにもなかった。
電源を入れると、アラジンの魔法使いよろしく、
「おはようございます。ご主人さま」
と可不可が間の抜けたあいさつをした。
洒落のつもりか?
「玲子さんの相談事だが、その後何か気がついたことがあるかね」
とたずねておきながら、昨日あれからすぐに電源をオフにしたので、何も考えているはずがないと分かって、思わず苦笑した。
「あります」
と可不可が答えたので、ちょっと驚いた。
電源はオフだとからだは動かないが、スタンバイ状態でも可不可の頭脳は働き続けていることがはじめて分かった。
死んだ親父も大した遺品を残したものだ。
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