第52話 怒るソラ
暗くなった講堂の一角に光が集まる。
そして突然そこに1人の人間が現れた。
そして俺はそいつの顔を見て怒りが湧いてくる。
チッ……相変わらずの目立ちやがり屋だな。
そんなに目立ちたいならニート辞めろよバカが。
はぁ……とんだ茶番だな……こんな奴のために時間をかけるなんて最悪だ。
多分同じ様なことを他の人も思っているだろう。
だって皆んなの顔が死んでるもん。
俺が周りの人達を見ながらそう思っていると、第2王子が話し始める。
「お前たちも知っていると思うが、我がこの国の第2王子である、ヒルデブランド・フォン・クーニヒ・メルドルフである! 今日は我が気に入った者には、我に仕える権利をやろう! この我が下賎な平民を選ぶこともあるかもしれんからな。必死に媚びるがいい!」
あまりにも傲慢な物言いに、講堂のあちこちから怒りの感情で溢れていた。
やっぱりこいつは本当にゲームと変わらないな……。
まぁそのお陰で潰すのに躊躇いがなくていいけど。
しかしこんな場所で下賎な平民とかよく言えるよな。
頭おかしいんじゃねぇの? いくらなんでもあり得ないでしょ。
俺は驚きを通り越して呆れてしまった。
いくら王族だからって、他国から生徒が来ているのに堂々と自らの国の民を下賎と言うのはいけないだろ。
どうやらそれは学院長も思っているらしく、物凄く顔を顰めていた。
しかし注意はしない。
俺はそれに関しては英断だと思う。
どうせあのニートオーク、略してニークは何を言っても聞かない。
聞くとしたらそれこそ国王か王妃しかいないだろう。
今は言わせておけばいい。
それからも何十分も話した後、ようやく満足したのか、最後に模擬戦を見せろと言った後に話し終えた。
長い……俺たちを殺す気かって……精神的に疲れるわ!
周りの顔見ろ! 皆んな疲労で痩せこけとる様に見えるわ!
俺は……と言うか皆んなゲンナリしながらグラウンドに移動した。
☆☆☆
俺がグラウンドでの衝撃の光景を教えよう。
グラウンドに家が立っていた。
これには俺も本気でびっくりしてしまっただが。
その家みたいな物のベランダには、豪華な椅子に座っているニークがおり、周りには沢山のメイドがいた。
いやおかしいだろ……何処にいたんだよあのメイドさん達。
見た感じ20人くらいいるぞ。
更にめちゃくちゃ美人。
まぁサラは比べるまでもない。
サラやエレノアの方が断然美人だ。
しかしそれでも上位に入る美人達が、第2王子に喜んで仕えるわけがない。
皆んな目が死んでいる。
どうやら彼女達は尊厳を奪われてしまった様で、壊れているな。
本当に胸糞悪い奴だ。
俺が王族と親戚なら思いっきりボコボコにするのに……。
しかし俺は平民だからここでやらかすわけにはいかない。
サラの死亡フラグもまだまだあるしな。
俺達が集まると、ニークが話し始める。
「集まるのが遅いッ! ……だが、我は優しいから見を瞑っていてやろう。早く始めろ!」
元はと言えばお前のせいだがな。
しかもお前は転移魔法で来たかもしれないが、俺達は歩きなんだよ。
俺は内心愚痴を吐く。
その間に他の生徒がどんどん模擬戦を始めた。
しかし第2王子の派閥以外、皆んなやる気がない。
俺もサラも隅っこで傍観している。
「あいつ嫌い」
サラが急にボソッと言う。
「あいつってあのバカ王子?」
俺は第2王子を見ながら言う。
サラは首を縦に振りながら、いつも無表情のはずなのに嫌悪に顔を歪めていた。
「ん。あいつは自分が1番上だと思ってる。それが気持ち悪い」
そう言って更に顔を歪める。
ゲームでも見たことないくらい顔が変化していますねサラさん。
「でも、俺達は平民だから絡んでこないよ」
サラは世界一綺麗だから絡まれるかもしれないけど。
もし絡んできたら俺はどうなるだろうな?
想像したくもない。
どうかこのまま何事もなく帰ってくれればいいんだが……。
しかし現実はそんなに甘くなかった。
模擬戦が始まってから20分ほど経った時だった。
ニークが近くにいた警護兵に何やら俺たちを見ながら耳打ちしている。
やばい……物凄い嫌な予感がするんですけど……。
俺がそんなことを思っていると、俺の予感が的中してしまった。
ニークが警護兵を連れて俺たちの元まで向かってくる。
それを見たサラは不安そうに俺の後ろに隠れた。
こんな時に不謹慎かもしれないけど……めっちゃ可愛い……ッ!!
しかも俺の服をキュッと握っている。
やっぱりサラは世界一……いや宇宙一可愛いな。
俺がそんなことを思っていると、周りの生徒は憐れみの目を俺たちに向けていた。
まぁ俺たちのことが哀れに見えてしまうのはしょうがないか……。
ニーク達は俺達の、と言うよりは俺の後ろにいるサラに用がある様だ。
「取り敢えずこの下民をどけろ」
ニークがそういうと、兵士達が『すまない』と俺に呟きながら取り押さえてきた。
まぁこの兵士達も上に言われて嫌々やらされているのだろう。
俺は特に抵抗せずに取り敢えず取り押さえられる。
「ソラっ!」
サラが心配そうに俺の名前を呼ぶ。
しかしそれを遮る様にニークがサラの手に無許可で触れた。
あ、あの野郎……ッッ!!
俺は思わず魔力が吹き出しそうになるが、なんとか耐える。
だ、大丈夫だ……まだ何もされていない……。
それにもし勧誘されても、それまでに奴を潰せばいいだけだ。
俺は気持ちを落ち着かせて話を聞く。
ニークがサラに言う。
「我はおまえが気に入ったッ! お前を特別に我のメイドにしてやろう! 光栄に思え!」
俺は唇を噛んでなんとか耐える。
ダメだ……今やらかしたらこの国に居られなくなる。
サラは無表情で断る。
「すいません。私は平民なのでメイドは遠慮しておきます」
「……は? ……我の聞き間違いかもしれぬ。もう一度言うぞ……我のメイドになれ」
ニークがそう言うが、サラは相変わらず無表情で返す。
「ごめんなさい……私は殿下のメイドにあることはできません」
サラがそう言うと、デブがプルプル震え出した。
そして顔を真っ赤にして叫ぶ。
「お前に拒否権などないのだ! 我はお前にメイドになれと言ったのだ! もう許さんッ!! お前には今から罰を与える!」
「い、いやッッ!!」
そう言ってサラは拒むが、ニークはサラの服を無理やり破り、その胸に触れた。
「デュフフ……お前が我の誘いを断るのが悪いのだ……」
「や、やめてッッ!! ソ、ソラッッ!!」
サラが俺を泣きながら呼ぶ。
その瞬間に俺の中で何かがブチ切れた。
「お前を助ける奴などいな……「はぁあ!!」ドブハッッ!?」
俺は一瞬で警護兵を吹き飛ばすと、思いっきりニークを殴る。
そしてサラを抱きしめる。
「ごめん……もう少し早く助けていれば……」
俺は泣いているサラに謝る。
しかしサラは俺に抱きついたまま泣き続ける。
くそッ……やっぱりもっと早く潰しておくんだった……ッッ!!
だがサラを泣かせてしまった俺が1番憎いッッ!
俺は何かの防御魔道具でダメージを軽減させたのか、起き上がるニークに怒りを込めて言う。
「お前はもう少し後に潰す予定だったが……今から潰すッッ!!」
もう、こいつは生かしておけない……。
サラを泣かせたらどうなるのかこの国に教えてやろうじゃないか……ッ!
俺は近くに隠れているであろう国家調査員達にも殺気を放った。
もう俺を止められる奴は何処にも居ない。
俺は魔法の指輪から取り出した闇夜をゆっくりと抜いた。
さぁ……サラを泣かせた罪を償ってもらおう。
この国の王族に世界最強の一角が牙を剥いた。
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次の話で第2王子はジエンドです!
書いていてめちゃくちゃうざかったので、さっさと終わらせましょう!
それと【カクヨム甲子園】用の短編を出しました!
『君を失った俺が、再び君に会いに行くだけの物語』https://kakuyomu.jp/works/16817139557638398973
です!
1話しかないので是非読んでみてください!
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