第二十二話③
「普通にやりすぎではないでしょうか」
「そんな筈はない。俺はこうやって強くなった」
図書館までスペシャリスト、もといルナさんを探しに行って無事に見つけたので戻ってきた。
流石にまだ潰れてないだろうと思ってゆっくり来たのだが……
「……なんか漏れてるな」
「漏れてますね、冷気が」
もしかしてこの部屋、断熱性がクソなんじゃないだろうか。
前もルーチェのメンタルブレイク冷気が漏れ出てたし、案外適当かもしれない。でも確かにそうか、完全密室状態で炎とか規模によっては死ぬから対策してるのか。
納得した。
隣のルナさんが早くしろと言わんばかりのジト目で俺を見てくるので仕方なく扉を開く。
別に死んでも蘇生出来る設備だし大丈夫だと思うのだが、世の中の人間は案外丈夫ではないらしい。
俺がおかしいだけか。
あ、涙出そう。かつての英雄はこんな目に遭っても後に覚醒してメンタル最強になったが俺はそんな汎用性は無い。メンタルなんて常にボロボロの自虐マシーンである。
もっと世界は俺に優しくしてほしい。
「…………ふむ」
扉の隙間から覗き見る。
氷で包まれた世界の中で、ステルラの膝枕で安眠しているルーチェ。
既に片は付いたか……
「世はかくも儚きもの、か……」
「嗾けたのロアくんですよね」
細かい事はいいんだ。
扉を思い切り開いて中に入る。
じんわり氷が解け始めてるのを察するに、周囲の温度を保ちつつゆっくりと室内を温めているのか。冷やされた空気が外に流れ出して代わりに生温い風が室内へと流れ込む。
「怪我はないか」
「あ、おかえり。怪我はそんなに、魔力も途中で切れちゃったからそこで止めたんだ」
「気絶するくらいやったならそれでいい。五百本はあくまで脅しだからな」
「……本当かな」
懐疑的な目線で見られている。
俺と同じ量の修行をすればぶっ壊れるのは理解しているし、世間の常識で考えれば普通でない事も知っている。だがそれとは別問題で俺が耐えられたのだからそれよりハードルが低い鍛錬内容程度なら皆出来るだろうと思っていたのだ。
「どれくらい精度は増した」
「前半はそこそこ、後半は殆ど弾かれたから少しずつ硬くしたよ」
伝えなくても本質を理解している辺り流石だ。
「……今のうちに落書きしとくか」
「ロア?」
「冗談だ。その氷を収めてくれ」
ニコニコ笑顔で圧力をかけてきた。
くそっ、計算外だ。いつの間にここまで仲良くなったんだ。
俺はただ普段の仕返し(※いつも殴られてるのは自分が悪い)がしたいだけなのに……!
「おのれ女の友情。ルナさん、ステルラを抑えろ」
「お断りします。あ~あ、トラウマ刺激されて涙出そうですよ」
こいつっ……!!
「ルーチェ! 起きろ、俺にはお前しかいない!」
「見苦しいですね……」
「本当に、こう……普段が酷過ぎて……」
前門のステルラ、後門のルナ。
こうなればルーチェに助けを請うしかないが未だ目を覚まさない眠り姫仕様である。
眠り姫は人を殴ったりしないんだよな。ていう事は別に眠り姫じゃないしヒロイン扱いしなくてもいい節がある。深窓の令嬢ってのはルナさんみたいな人の事を指すのであってやはりルーチェは違う。おてんばお姫様というより武闘家である。
「誰が野盗ですって……?」
「そこまでは言ってない。落ち着け」
ルーチェが目を覚ました。
魔力が切れて既に身体強化は使えない筈なのに他二人に比べて迫力が増している。
「フ…………訓練の成果が出」
「ふんッッッ!」
この後、日が暮れてから俺は医務室のベッドで目を覚ました。
顎に殴打の跡があった。
痛みはないし変形もしてないが、恐らく一撃で沈められたのだろう。
よく一回真正面から戦って勝ったな。過去の自分を思わず褒めたたえてしまった。
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