第十六話②
「おーい、ルナ!」
「…………お邪魔します」
俺の寝室なのだがナチュラルに侵入してきた事についてはまあ気にしない方にする。同年代の異性に見られて困るものは一つもないからな。ステルラとルーチェを招待した時に色々漁っていたみたいだが残念だったな。
俺は自分の敗北に繋がる要因を極力身の回りから削減している。
マウントを取っていいのは俺だけだ。他の誰にだって取らせねぇ……!
そんな俺の思考は置いておいて、ルナと呼ばれた人は静かな所作で扉を閉めた。
キョロキョロ部屋内を見渡してから、俺に一礼する。
人の部屋に入る時に一礼出来る時点で滅茶苦茶礼儀正しいな。この時点で好感度は連中の数倍上にランクインしたのだ。
「ルーナ・ルッサです。ルナでもルーナでも構いません」
「ロア・メグナカルトです。好きに呼んでください」
「ではロアくんで」
「じゃあルナさんで」
「ルナちゃんでもいいですよ」
ふ~~ん。
陰キャの皮被った陽キャだな? さては。
俺にはわかるぞ。こんな軽快なやり取り陰キャには出来ない。俺はかつての英雄の記憶があるから何とか受け答えできるだけで、一番最初にステルラにボコされた時とか
『あっ……あ、ああ……』
みたいな感じで呻く事しかできなかった。
「どうしました?」
「少々苦い思い出が沸いた。気にしないで欲しい」
「不思議な人ですね」
そうだろうか。
人間誰しも苦い記憶はあるだろう。
「で、何の用でしょうか。痛くて苦しいのは遠慮します」
「そんな物騒な用じゃないですよ。一つお願いがありまして」
紅蓮の髪を靡かせて、彼女は軽く告げた。
「英雄と認められるあなたに興味があります。お友達になりませんか?」
「てな事があった」
「…………刺された方がいいんじゃないかな」
何故だ。
アルにすらそんな顔をされるのは納得いかない。ていうか俺悪く無くないか。全部魔祖が付けた異名の所為で迷惑被っているんだが。
「ルーチェ。おまえはどう思う」
「……知らない」
めっちゃそっぽ向かれたんだが。
えぇ~~~~。これやっぱ俺が悪いのか。
どんだけ拒んでもグイグイ来る奴は居るんだよ。ヴォルフガングとか、十二使徒門下は常識が欠如してる事で有名だからな(当社比)。
「第三席のお弟子さん、ねぇ。
「ああ。先輩と呼ぶのが相応しいんだが」
「あと後輩を揃えればコンプリートだ!」
「ぶっ飛ばすぞ」
ルナさんは戦うのが好きじゃないと言っていた。
だが異名が存在するという事は戦った経験があり、そこで名付けられた過去がある。
ていうか当然のように全員名前継いでんのヤバくね? 俺以外全員十二使徒の一番弟子なんだけどどうなってんだろ。デスマッチとかで決めてんのかな。
「結構有名だよ。この学園じゃあ特にね」
「なんかあるのか」
「うん。一回戦ったっきり一度も順位戦やってないんだ」
……なるほど。
思っているより面倒くさい事になって来たかもしれない。
仮に戦いたくない理由が『痛い思いをしたくない』とか『傷つけたくない』とかだったらそれはもう面倒くさい事になってくる。俺に興味がある、その言葉の意味が少し変わるぞ。
「訳は知らない。本人が話そうとしないらしいからね」
「やっぱり面倒事じゃねぇか。いい加減にしろよ全く」
俺はカウンセラーじゃない。
ただのヒモ男だ。解決策を持ってくるのはステルラとか周りの人間で、俺はあくまで解決される側なんだよ。
「……ていうか、順位戦戦わなくてもペナルティ無いのか」
「今のところは一切存在してないよ。魔法を学ぶ場所ではあるけど、今の時代は平和そのもの。ほんの数人くらいはそう言う人が居てもおかしくないさ」
それもそうだ。
今のところは平和そのものである現代、戦いたくない人間を無理矢理戦わせる必要は無いのである。思い違いをしていた、というより少し思考が引っ張られていた。良くない傾向にある事だけは確かだな。
「そうだな。その通りだ」
「君みたいなトラブル体質は別だと思うよ」
「越えた。ルーチェ、手を貸せ」
「嫌。汚れるし」
「君達僕の扱いが雑過ぎない??」
自業自得だ。
「おーい三馬鹿。朝礼始めるぞ」
「誰が三馬鹿ですか」
ここで黙るのは認めるみたいで癪だが仕方がない。
ニヤニヤ笑うアルを後でボコる事を決意しつつ、件の先輩に意識を傾ける。
昨日部屋で話した時に抱いた印象は、『慎ましいがジョークを話す』タイプ。
陰キャの皮を被った陽キャである。俺はまぁ? 根本が明るいからさ、そこら辺の嗅覚は鋭いンだよね。キョドる少年ロア・メグナカルトは時代を経て陽キャに進化したんだよ。多分。
読書が趣味って言っていてああいう会話を好むなら頷ける。
『英雄』って名前に興味を持つ、か。
ヴォルフガングより面倒じゃなさそうでいいや。アイツ俺に負けたけど既に順位は二十位くらいだし、バカくそ強いんだよな。いい加減俺に絡むのやめて欲しい。
英雄、英雄ねぇ。そんな大層なモンじゃないけどな、この称号。
俺には重たすぎる。
仲間がいたとは言え戦争を止めた魔法剣士と、魔法の一つすら使えずに誰かに手を引いてもらわなきゃ何も出来ない俺。対比するのも烏滸がましい雲泥の差だ。
努力を重ねた事なんて何にもならない。誰だって努力してるのだから、そんな事なんの自慢にもなりゃしない。
かつての英雄を知る人たちは誰も否定しないが、かつての英雄の記憶を持つ俺は否定する。
俺は英雄には程遠い。
これ以上の期待なんて背負ってられねぇよォ~~~~!
本音はこれだが。俺の両肩はそんなに耐えきれないし両手からも零れ落ちていくからさ、英雄を知る人間からすればその内落胆するような事も出てくるだろう。だって俺だもん。
無理無茶通せる彼とは違うんだ。
「ハ~~~~~~……」
溜息が零れてしまうのは仕方がない事だ。
どんなに頑張っても無理なものは無理。大嫌いな努力をこれ以上重ねるのは嫌なんだ。
…………でもさぁ。
チラつくんだよな、ああいう口調でああいう事言う人。
むかしむかーし、遠い記憶の中で一人だけ居たんだよ。
因縁か宿命か運命か、神の悪戯か。
どこまで行っても過去の記憶が付き纏ってくるのは諦めた方が良いのかもしれない。
全部師匠の所為だな。
本来の自堕落な俺を残しつつ真面目にやるよう訓練させたあの人の所為だ。そういう事にしておこう。
今日の晩飯は豪勢にしよう。
肉だ肉。高級肉たらふく食いたい。
油乗った肉と赤身を交互に食べれば胃にも財布にも優しい親切仕様だ。俺は金無いから師匠の奢りなんだけどな。
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