第18話 雨が降っている(6)
「ま、
向坂先輩、つまり部長だ。
部長の仕事で音を上げている?
そんな話ではないと思うけど……。
だから、きく。
「何がですか?」
「三曲、指揮して歩き通すのが」
「ああ」
とは相づちを打ったものの、
「部長は、ドラムメジャーとして、マーチングの先頭に立って指揮をしないといけないでしょ?」
「ドラムメジャー」というのはマーチング全体の指揮者のことらしい。ドラムだけの指揮者ではなく全体の指揮者なのに、なぜ「ドラム」というのかはよく知らない。
先輩が続ける。
「ところが、
あ。
先輩、向坂先輩を恒子と呼んだ。
いいのかな?
晶菜は慣れているけど、大林千鶴がへんに思わないだろうか?
続ける。
「全体合同練習のビデオ、見てみると、二曲めの「ディクシー」で、もう、きつそうなんだ。三曲めはもうバトン振るだけで手いっぱい。もちろんリズムのキープもできてない。だから、「リパブリック讃歌」の最初のほうでその三人に歌を歌ってもらって、その歌ってるあいだは、恒子を休ませる。マーチングも止まることになるから、ほかのパートも休めるから」
晶菜がきく。
「カラーガードが?」
「ほかもだよ」
郷司先輩が言う。
カラーガード以外は、休む必要なんかないと思うけど?
「楽器だって、歩きながら、自由に息ができるわけじゃなくて、ずっと楽器に息入れてないといけないんだから。たいへんだよ。ものによっては、何キロって重さの楽器持って、吸った息で体に酸素を満たしながらしかも音を鳴らさないといけないんだからさ」
そうなのか。
カラーガードは体を動かすからたいへんだとはわかっていたけど、楽器を演奏しながら歩くというのがそんなにたいへんなことだとは思いもしなかった。
「問題は」
と大林千鶴が言う。
「その休みを入れて、マーチングが最後まで到達するか、なんですけど。途中で止まるぶん、進むのが遅くなりますから、ゴールに到着する前に曲が終わってしまう、って可能性があります」
大林千鶴はそのかわいい顔でまじめに言う。
「それは去年のビデオで見てみた」
郷司先輩が言う。
「去年は、ゴール前まで行って、そこで止まって「リパブリック讃歌」の最後のほうを演奏してる。その時間をその手前で使う、ということだから、だいじょうぶじゃないかな?」
「そういう判断でしたら」
大林千鶴の言いかたはとてもけなげだ。
「カラーガードの三人の一年生はアイドル研に送り出しますから、あとの対処はカラーガードパートでお願いします」
郷司先輩が確認する。
「アイドル研のほうは話ついたの?」
「はい」
大林千鶴はうなずいて、不敵に笑った。
「とてもやる気ですよ。じゃあ、アイドル研の
その白坂というひとが部長か何かなのだろう。
言って、大林千鶴は立ち上がった。
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