第17話 雨が降っている(5)
「いや、いいんだ」
「そのかわいい三人、
「はいっ?」
貸し出す、って……。
大林がその三人を「かわいがりもの」にするのだろうか?
それは許せない。
いや。
そういうことはあまり考えられなくて。
考えられるのは、この大林
楽器は上達するのに時間がかかる。だからそれはむちゃだろう。
「大林はアイドル研とつながりあるからね」
郷司先輩が言うと、大林千鶴はかわいらしく笑って見せた。
たしかに、この子もかわいい。
「かわいい一年生」が純粋に二年生へと成長したらこんな感じになるんだろうな、と思う。
大林千鶴がほんとうはどれくらい苦労を知っているのか知らないけど、この子は「何の苦労もなく大きくなった」という感じを身の回りに漂わせている。
郷司先輩が言う。
「そのカラーガードの一年生、席次が下のほうの三人。
アイドル研というのはアイドル研究会のことだ。ここに属する子たちは、在学中から地元で「地元アイドル」として活動することがある。プロデビューを果たしている子はたぶんいないけど、卒業後も地元で活躍している卒業生はいるという話だ。
そのアイドル研に?
しかし、アイドル研は、そういう活動をするだけあって、入会条件が厳しかったはずだが?
「ただ、この計画は、ここにいる三人以外にはないしょ。カラーガードのそのへんに知られたらつぶされるからね」
大林千鶴はまた笑った。「カラーガードのそのへん」がだれを指すのか、わかるのだろう。
「でも」
と
「アイドル研に入部させて、どうするんですか?」
「入部する、ってわけじゃないよ。所属はあくまでうちだけど」
と前置きしてから、
「歌の練習。それと、英語の発音の練習も、かな」
郷司先輩がたんたんと言った。
「つまり、「リパブリック讃歌」の途中で一回休みを入れる。マーチングも演奏も演技もその場で停止。それで、そのあいだ、この三人に歌ってもらう。もともと歌詞のある曲だから歌えるでしょ? ただし、マイクなんかないから、地声でまわりに聞こえるように」
つまり、城まつりの三曲のうち、三曲めで、そういうことをやる。
「はあ……」
たしかに、ブラスバンドの部員が歌を歌って
でも、何のために?
郷司先輩は、息をためてから「はっ」と息をついた。
言う。
「まあこの席は隠しごとなしで行くよ。外に出たら隠してね」
「はい」
千鶴がまじめに答える。晶菜は答えなかった。
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