第13話 雨が降っている(1)

 雨が降っている。

 でも、古代エジプトの神様に雨を降らせるようお願いした日は四日後だ。だから、もしあの雨乞あまごいがほんとうに効くとしても、この雨はあのときお願いした雨ではない。

 まだ梅雨だから、雨が降る。

 雨乞いなんかしなくても、その日は半々以上の確率で雨が降るのではないか?

 晶菜あきなは、高校北棟きたとうの窓からその雨を降らせている雲を見上げている。

 「あきなっ」

 後ろから声をかけられる。

 すきを見せた。でも、その隙につけ込んでくるような声のかけ方ではなかった。

 声をかけたのは郷司ごうじ先輩だ。

 「よかったら部室来て」

 そのことばのかけ方が、ことばの内容を裏切っている。

 「よかったら部室来て」ではなく、「よくなくても部室来なさい」だ。

 これがいやみにならないのがこの先輩のいいところだと思う。

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