十話 【腐っても商売人!】

ススの森では二度も滅多に遭う事も無い魔物に遭っている。


二度あることは……


っとフラグを立てるも、何事も無く森を抜ける。


本来この街道の危険度は低い、これが普通なのだろう。


もう一晩、野営を覚悟していたが順調過ぎて、夜までにはムイの町に着きそうであった。




結局一度も戦うことなく、初の依頼は終わりを迎えた。


ムイの町に着き、姉弟は町に入る為に税金を払う。


キチンとした子供である。



ふたりを親戚の家まで送り届けると、叔母にあたる膨よかな女性が突然の訪問に驚いていたが、優しく姉弟を迎えいれてくれた。


ふたりに別れを告げ、惣一郎達は宿に向かう。


「いらっしゃい! 宿屋グリアミルチノウエリへって…… あら、早いお帰りだったねぇ、用事は済んだのかい?」


女将を見て疲れも吹っ飛ぶ惣一郎。


無事、キネスの街に行って来たと報告し、前と同じ部屋を借りる。


異世界に来て初めてのこの町にも、顔見知りができた事が嬉しかった惣一郎は今後の事を考えていた。


「ベンゾウ、これからなんだが、どうしたい?」


質問が下手な惣一郎の問いに、


「ベンゾウは、ご主人様と一緒」


と、これまた下手な答えのベンゾウさん。


ただほっこりする雰囲気だけが伝わっていた。


「じゃ、旅にでも出るか!」っと、どうしてその答えになったのかは不明だが、今後があっさりと決まった瞬間であった。


ここで、ジュグルータさんからの情報を待っていても、[サトウ]の情報が来ることが無い事を、知っている。





翌日、次の目的地を探そうと朝から冒険者ギルドを訪れていた。


お決まりの絡んで来た冒険者を、ベンゾウがあっさり一蹴し、それを気にも止めなくなった惣一郎が掲示板を見ている。


[セルネル城]へ物資の搬送依頼、報酬500ギー


おっ、丁度いいじゃん、これで行こう!


依頼書を取り受付で話を聞くと、荷車二台分の物資を街を三ヶ所程越えた先にある、セルネル城に届けるだけとの事。


荷物は依頼者から受け取るそうだ。


大きなマジックバッグに入らなくても、惣一郎のアイテムボックススキルがあれば、手ぶらで行けるし丁度いい。


依頼受ける旨を伝えて、依頼者宅に向かう……






依頼主はジュグルータさんでした。


数日ぶりの再会に、お茶を飲みながら応接室で、惣一郎はここ数日の事を話す。


「いや、驚きましたよ、まさか惣一郎殿が[銀の疾風]をお連れとは」


銀の疾風? ベンゾウの事かな?


「ベンゾウはご主人様の奴隷! 過去は過去、今はベンゾウ!」


言いたい事を上手く伝えられない苛立ちを、隠せないベンゾウが言葉を挟む。


会話もない長い牢屋生活で、ベンゾウの語彙力は落ちていた。


「そうですな、失礼。こちらとしても依頼をこなせるかどうかが分かれば、問題はありません。惣一郎殿の人柄は問題ありませんが、依頼をこなせる強さはお示しいただきたいのです。失礼ですが、特にそちらのベンゾウ殿は、戦えなくなったから奴隷落ちしたと聞いております。護衛は務まるのですかな?」


まぁ、もっともな言い分だな。


「では、どう示せばいいでしょうか?」





庭に案内されるふたりの前に、ニールさんがサーベルの様な武器を手に立っていた。


そういえば元冒険者だったね……


「この執事長ニールと戦っていただきたい。元冒険者だが、いまだ現役に劣らぬ強さを持っております。手加減は無用!」


ニールさんの強さがわかるのか、冒険者の顔になっていくベンゾウ。


「殺すなよ」


ベンゾウはコクンと頷き、両手に包丁を構える。


「始め!」


合図と同時に疾風と化すベンゾウ! 


その素早い攻撃に反応するも、防御が遅れるニールさんの首には、包丁が鈍く光っていた。


えっ、はや!


「素晴らしい!」っと、大興奮のジュグルータさん。


冷や汗をかき、参りましたと頭を下げるニールさん。


それを見もせず褒めて!っと、擦り寄るベンゾウさん。


これ大丈夫か? 惣一郎さん……




キラッキラした目でジュグルータさんがベンゾウを見ている。


「こんなにあっさり負けたニールを見たのは初めてだ、素晴らしい! 依頼の件、改めてこちらから指名依頼でお願いしたい!」


あっさり合格と言う事で、運ぶ荷物を検める事になる。




荷物は木箱に入っており、城で使われる高価な布など、調度品も含まれている。


高価な物だし、ジュグルータさん本人が冒険者雇って届けたいそうだが、今回は都合がつかず、赤字覚悟の高額で依頼を出したそうで、料金は城に着いてから受け取り側が払うそうだ。


こんな高価な物を…… 持ち逃げされないのか?


惣一郎の疑問にジュグルータさんは、


「他所で売るより高額ですし、ちゃんと分かるようにはしてありますので」


わかるように? 何それ怖い……


ニコニコ笑うジュグルータさん。


これ以上聞くのは、やめておこう……




マジックバッグに詰め込めるだけ詰め込み、残りはリアカーに乗せる惣一郎。


そのリアカーを見て、またもキラッキラな目のジュグルータさん! 


散々世話になったし、お礼も兼ねて二台ほど、リアカーを出す。


このリアカー、サスペンション付きで静かな走行を実現!


アルミカーボンのボディーは美しく、硬くて丈夫! 


軽量の上、ノーパンクタイヤと、この世界では最高級の荷車だろう。


仕入れ先は絶対に内緒と強調して、一台100ギーで売れました。


お礼じゃなかったの? あはは……


喜んでいるので、全てよし!


200ギーの臨時収入を得て、セルネル城を目指す旅に、いざ!







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