四話 【安いのには訳がある!】
その後惣一郎は応接室でゴルゾから、奴隷について色々な話を聞かせてもらう。
最初はとっつきづらかったがこの男、話してみるといい奴で面白い!
ゴルゾが話しながら、先程渡した紹介状を見て睨んだり離したりしている。
最近老眼が進んで来て小さい字が、非常に読みづらいそうだ。
老眼鏡をかけないのか尋ねると、目を丸くして頭の上に、大きなクエッションマークを浮かべていた。
この世界には眼鏡がないらしい……
そう言えばまだ、一人も見てないなメガネ。
ん? 待てよ......
睨む? メガネを知らない。
こちらを睨んでいた元冒険者の獣人の女、もしかして視力が落ちて戦えなくなったんじゃないだろうか?
もしそうなら、安く買えるかもしれない。
でも、直接聞けないし違ったら......
「あのゴルゾさん、先程の獣人の女性はいくらなんですか?」
「ほぉ、気に入りましたかな? 若いが戦えないし、身の回りの世話も出来ませんので、お客様の希望には合わないのでオススメはしませんよ。ジュグルータ氏の紹介でなければ、早く売ってしまいたいのですが…… ん〜 いや、しかし......」
当初の予定とは別にと購入の意思を伝えると、渋々金額は200ギーと相当安い額を提示してくれた。
「確認したい事があるので、もう一度会えませんか? 直接話がしてみたいのですが」
ゴルゾが従業員を呼び出し指示をすると、数分後に獣人を連れて帰って来た。
灰色の髪をした獣人の少女は、部屋に入るや睨みを効かす。
特別に直接話す事を許してもらい、惣一郎は獣人の前に立ち「これ何本?」っと指を立てる。
獣人はさらに睨みを効かせて……
「4...8......?」
「この子、買います!」
このやり取りが理解できないゴルゾは、驚きながらも「気に入った!」と膝を叩いて大笑いする。
惣一郎はマジックバッグから麻袋を4つ取り出し机に並べた。
床に魔法陣が描かれた部屋に通され、部屋の中心に獣人と向かい合って立つ惣一郎。
ゴルゾが魔法を呟くと部屋が光りだし、獣人の喉に模様が浮かび上がって消えていった。
無事契約が出来た様だ。
その後、いくつか書類にサインをし、今後の説明を受ける。
税金や俺が死んだ後、奴隷をどうするかの取り決めがおもだ。
「では、これで譲渡成立です。変わったお人に買われて、お前もよかったな」
コクンと頷く、獣人の少女。
挨拶を済ませ、獣人を連れて奴隷売買所を後にする。
宿屋までの道中、何度も獣人は俺を見失っては知らない人について行こうとしたり、ぶつかった柱に頭を下げていた。
重症だな......
何とか宿屋に到着し、女将に事情を説明して二人部屋に移る。
女将のニヤニヤが心に刺さる......
部屋に入ると無口な獣人を椅子に座らせ、ネットショップスキルで視力検査のキットを購入する。
獣人は訳も分からず、戸惑いながらも素直に指示に従った。
視力検査の結果にあったメガネをスキルで注文し購入すると獣人にかけさせた。
牛乳瓶の底の様な分厚いメガネ。
「えっ、えっ、え〜! 見える、見えます!」
驚き、喜び、顔くしゃくしゃにしながら獣人は、大粒の涙を床に落とす。
暗い地下で自分を呪い世界を憎み、いつしかそんな感情も失い、他人に人生を委ねる事しか出来ない少女は、大粒の涙を流し大泣きする。
忘れていた感情が、溢れる様に……
少女は……
早くに親を鉱山の事故で亡くし、歳の離れた弟の為に危険な仕事についた。
だが、奴隷に落ちる。
弟の餓死の知らせがなければ、彼女は性奴隷の道を選んだかも知れない。
だが彼女の心は暗い地下牢へと落ちていった。
そんな少女に今、全てを失うにはまだ若いと、分厚いガラス越しに世界が輪郭を顕にする。
先の見えない暗い過去に別れを告げ、見える未来に歩き出す少女は、目の前の惣一郎に片膝を突き、頭を下げていた……
「ご主人様、私に名前下さい。忠誠を誓う!」
凛々しい態度の元冒険者は、ボサボサの頭を下げたまま、惣一郎の返事を待っていた。
奴隷契約の説明でも聞いていたが、名前か......
ボサボサ頭に分厚い眼鏡。
昔よく見たTVアニメで、似た様なメガネのキャラがいたな……
キテ○ツ大百科に出てた、確か......
「よし! 今日からお前は[ベンゾウ]だ!」
惣一郎に名付けのセンスはなかった。
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