第47話 復活の魔獣少女

 なんと、死んだはずの九尾の狐ヘカトンケイルが生きていた。ユキちゃんの身体を借りて。


『ヘカトン、テメエ、生きていたのか!』

「いや。たしかに俺は死んだよ」


 やはり、ヘカトンケイルは死んでしまっているという。


「だが、あのお嬢ちゃんの力を借りて、一時的に復活した」


 イヴキさんが、ヘカトンケイルの魂を呼び寄せたそうだ。


「さて。俺を殺したのがまさか運営だったとはな」

「くそお、ヘカトンケイル。貴様さえ、『魔獣少女バトルの閉幕』を宣言しなければ、生きながらえさせてやったものを!」

「うるせえ。人間を欲望で釣って肉体を乗っ取り、自分の身体と入れ替えるつもりだったくせによ! そのせいで、どれだけの人間がテメエら魔獣の支配で死んだと思ってやがる!」


 ユキちゃんのアイアンクローに、力が入る。


「もう人間を好き勝手させねえ! 地球は、永久に封鎖する!」

「そんなことをして、ただで済むと思っているのか! 我々の力があってこそ、人々は発展しだんだろうが!」

『滅亡もしてやがるんだ! そんなこともわからねえようじゃ、テメエは二流だな!』


 バロール先輩が、オーディンを罵った。


「テメエは絶対に許さん! 地獄に落ちやがれ!」


 ユキちゃんの手から、青い炎が放たれる。


「あれは?」

『鬼火だ。あいつはあの鬼火だけで、魔獣少女との戦いで勝ち上がってきた』 


 オーディンの身体が、ヘカトンケイルの放つ鬼火に包まれた。


「があああああ!」


 最後まで悪びれることなく、オーディンは消滅する。


「これで、黒幕は死んだ。けど、俺の願いが成就したわけじゃない」


 魔獣少女の戦いは、これからも続くかもしれないのだ。


「どうするんだ、バロール? ここにいるだけで、魔獣少女は最後だ。全員倒すか?」

『バロールの勝ちでいいです。イヴキとヒトエの戦いは、見届けましたから』


 サマエルは、首を振った。


「そもそも、お前の願いはなんなんだ?」

『オレサマの願いは、お前を生き返らせることだ』

「うれしくねえよ。そんなの」


 バロールの悲痛な叫びに対して、ヘカトンケイルの回答はそっけない。


「俺は、自分の死を受け入れている。これからは、魔獣は人にとって無害な存在であるべきだ。お前の願いを叶えてしまったら、またバトルが始まってしまう。となると、どんどん俺の願いからは遠ざかってしまうんだ」


 ヘカトンケイルの願いは、人々から魔獣の存在を消すこと。その意思は固かった。


「まあ、お前が個人的に叶えたいことがあるなら、俺も無理強いはできん。どうなんだ?」


 ヘカトンケイルが、問いかけてくる。


『ヒトエ、なにか欲しいものはあるか? オレサマは、お前の言う通りにするぜ。お前がどんな願い事をしても、後悔はしない』

「あなたは、それでいいんですか?」


 せっかくこれまで、仲間を復活させるためにがんばったのに。


『いいんだ。ヘカトンのヤロウを困らせるのは、オレサマの性分じゃねえんだよ。で、どうするんだ? 何が望みだ?』

「何も。しいて言えば、今の平和ですかね?」


 わたしは、バロール先輩と話し合う。


『じゃあ、決まりだな』

「決まったか」

『ああ。魔獣少女と地球との関係を断つ』

「わかった。だそうだ、運営よ。しっかり頼むぜ」


 ヘカトンケイルが、空を見上げた。


「聞き入れられた。ではバロール、さよならだ。この子に、身体を返さないといかんからな」

『あばよ、ヘカトン』

「達者で」


 ユキちゃんの手から鬼火が消えた。ヒザから、崩れ落ちる。


「危ない、ユキちゃん」

 わたしは、ユキちゃんを抱きしめた。

「あれ、ヒトエちゃん?」


 ユキちゃんは、無事のようである。よかった。


「先輩、ユキちゃんはこのとお……」


 よく見ると、バロール先輩の姿がない。


 魔獣少女の関係性が消えたことで、先輩の姿も見えなくなってしまったのか。


「先輩、さようなら」




 こうして、魔獣少女のバトルは幕を閉じた。


 

「今日からこのクラスで世話になる、バロールだ。よろしくな」

「えええええええ!?」

 

 バロール先輩が、こちらに転校してくるという形で。

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