第71話 前座

 「よし! 頼むぞ、フィ!」


「任せて!」


 敬礼のように右手をびしっとおでこに当てたフィは、感知能力を存分に発揮しながら全力で飛んでいく。


 大阪ダンジョン第1層。

 当然このダンジョンにも転移装置ポータルは存在するが、ここに足を踏み入れるのは初めてのため、どこにも転移する事が出来ない。


 よって、おれは第1層から順番に階層を進んで行くしかないのだ。

 目的の階層はまだまだ先。

 フィの感知を余すことなく使い、今は一心に突き進むのみ。


「今日中に第15層は突破したいな」


「かなりハードになるわね。しっかり付いてきなさいよ!」


「フィこそな!」


 フィの感知能力で極力魔物を避けながら、おれはフィと共に通常ではありえないスピードで目的地を目指す。

 

 一週間は長いようで短い。ダラダラしている暇はない!







 かけるが大阪ダンジョンにて探索を進めている頃、月曜朝の国立探索者学校。

 ここ、一年Aクラスでは変わらぬ光景があった。


「なんか最近、模擬戦多くない?」


「そうだね。元々それなりにあったけど、最近は以前にも増して多いかも」


 いつも通りに夢里ゆり華歩かほが話をしている。


「オレたちが意図せず、学校側から組まれることが増えたのは確かだな」


 そこに混じるのは豪月ごうつきだ。

 彼も同じ事を感じていたのだろう。


「それは多分、“東西対抗戦”に向けて、だろうね」


「「東西対抗戦?」」


 凪風なぎかぜから発せられた単語に疑問を浮かべる夢里と華歩。


「うん。東西対抗戦は毎年恒例の行事、“東西交流会”の一環らしくてね。“関西探索者学校”から選ばれた人たちと、国探から選ばれた人たちが模擬戦をするみたいなんだよ」

 

「へー、関西から」


 さらに、


「それで、興味深い事を聞いちゃったんだけど」


「興味深い事?」


「うん。なんでも去年の東西対抗戦、最終種目。一対一の大将戦で麗さんが負けてるみたいなんだ」


 凪風からの言葉に周りは驚きを隠せない。


「麗さんが!?」

「うそでしょ……」

「ほう」


 凪風は続ける。


「相手の名はすめらぎ聖斗あきと職業ジョブの詳細は分からないけど、槍を持って戦うことから騎士系の職業ジョブだって言われてるみたいだよ」


「麗さんが、負けてる……」


 夢里ははっとする。


「そういえば翔、今大阪にいるけどその皇さんと会ったりしてないかな」


「どうだろう。そんな偶然、中々無いと思うけど」


 四人が話している中で朝の予鈴が鳴り、教室の生徒たちはそれぞれ席に着く。


「全員席についてるなー」


 予鈴から少し経って担任の先生が入ってくる。

 授業前、朝のホームルームだ。


「では、お知らせを一点だけ。突然だが来週、上級生との“対抗戦”が決定した」


(対抗戦?)

(上級生と?)


 予想外のお知らせに少しざわつく教室。


「すでに知っている者もいるかもしれないが、もうすぐ東西交流会が行われる。そして、その中の目玉種目として東西対抗戦がある。それに向けたものだと思ってくれ」


 それから先生はちらっと華歩や夢里、よく翔と共に行動している面々を見た。


「本来ならこの対抗戦に出場するメンバーは二・三年生から選ばれる。だが、今年は学校の方針により、一年生も候補に入れることに決めたそうだ」


 クラスの中でも、なんとなく納得の雰囲気が漂う。

 間違いなく翔たちの活躍を考慮して、というのが共通認識としてあるだろう。


「だが、もちろん反対意見も出る。そこで今回のような“上級生との対抗戦”が決定した。ここで実力が認められれば、正式に一年生もメンバー候補になり得る。詳細は別途知らせるので、各自準備をしておくように」


 ホームルームはこのお知らせで締められ、先生は教室から出ていく。


 もうすぐ行われる「東西対抗戦」。

 その代表メンバーを決める第一歩として「上級生との対抗戦」。

 これで燃えない生徒はこのAクラスにはいない。


「これはやってやるしかないな」


 一番左後ろの席で腕を組んでいる豪月がぼそっと言葉を発した。

 この言葉を皮切りにクラスは盛り上がる。


「うおおー! 上級生との対抗戦だ! 燃えてきた!」

「これはチャンスだ!」

「私だってやってやるんだから!」


 顎に手を当て、表にはクールな表情を見せつつも、人一倍燃えているのは凪風。


「これは面白くなってきたね」


 また、華歩と夢里は同じことを考えていた。


((ちょうど……))

 

(かーくんが帰ってくる頃か)

(翔が帰ってくる頃だ)


「わたしも成長している姿を見せないとね」

 

「翔から提案された今の役割、もっとこなしてみせる!」


 ぼそっと決意を呟く二人であった。

 

 翔が帰ってくると同時に行われることとなった「上級生との対抗戦」。

 翔の武器、それぞれの成長。

 まだまだ可能性に溢れ、学校内においても今最も注目されていると言っていい彼らは、この対抗戦で何を見せてくれるのだろうか──。

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