第71話 前座
「よし! 頼むぞ、フィ!」
「任せて!」
敬礼のように右手をびしっとおでこに当てたフィは、感知能力を存分に発揮しながら全力で飛んでいく。
大阪ダンジョン第1層。
当然このダンジョンにも
よって、おれは第1層から順番に階層を進んで行くしかないのだ。
目的の階層はまだまだ先。
フィの感知を余すことなく使い、今は一心に突き進むのみ。
「今日中に第15層は突破したいな」
「かなりハードになるわね。しっかり付いてきなさいよ!」
「フィこそな!」
フィの感知能力で極力魔物を避けながら、おれはフィと共に通常ではありえないスピードで目的地を目指す。
一週間は長いようで短い。ダラダラしている暇はない!
★
ここ、一年Aクラスでは変わらぬ光景があった。
「なんか最近、模擬戦多くない?」
「そうだね。元々それなりにあったけど、最近は以前にも増して多いかも」
いつも通りに
「オレたちが意図せず、学校側から組まれることが増えたのは確かだな」
そこに混じるのは
彼も同じ事を感じていたのだろう。
「それは多分、“東西対抗戦”に向けて、だろうね」
「「東西対抗戦?」」
「うん。東西対抗戦は毎年恒例の行事、“東西交流会”の一環らしくてね。“関西探索者学校”から選ばれた人たちと、国探から選ばれた人たちが模擬戦をするみたいなんだよ」
「へー、関西から」
さらに、
「それで、興味深い事を聞いちゃったんだけど」
「興味深い事?」
「うん。なんでも去年の東西対抗戦、最終種目。一対一の大将戦で麗さんが負けてるみたいなんだ」
凪風からの言葉に周りは驚きを隠せない。
「麗さんが!?」
「うそでしょ……」
「ほう」
凪風は続ける。
「相手の名は
「麗さんが、負けてる……」
夢里ははっとする。
「そういえば翔、今大阪にいるけどその皇さんと会ったりしてないかな」
「どうだろう。そんな偶然、中々無いと思うけど」
四人が話している中で朝の予鈴が鳴り、教室の生徒たちはそれぞれ席に着く。
「全員席についてるなー」
予鈴から少し経って担任の先生が入ってくる。
授業前、朝のホームルームだ。
「では、お知らせを一点だけ。突然だが来週、上級生との“対抗戦”が決定した」
(対抗戦?)
(上級生と?)
予想外のお知らせに少しざわつく教室。
「すでに知っている者もいるかもしれないが、もうすぐ東西交流会が行われる。そして、その中の目玉種目として東西対抗戦がある。それに向けたものだと思ってくれ」
それから先生はちらっと華歩や夢里、よく翔と共に行動している面々を見た。
「本来ならこの対抗戦に出場するメンバーは二・三年生から選ばれる。だが、今年は学校の方針により、一年生も候補に入れることに決めたそうだ」
クラスの中でも、なんとなく納得の雰囲気が漂う。
間違いなく翔たちの活躍を考慮して、というのが共通認識としてあるだろう。
「だが、もちろん反対意見も出る。そこで今回のような“上級生との対抗戦”が決定した。ここで実力が認められれば、正式に一年生もメンバー候補になり得る。詳細は別途知らせるので、各自準備をしておくように」
ホームルームはこのお知らせで締められ、先生は教室から出ていく。
もうすぐ行われる「東西対抗戦」。
その代表メンバーを決める第一歩として「上級生との対抗戦」。
これで燃えない生徒はこのAクラスにはいない。
「これはやってやるしかないな」
一番左後ろの席で腕を組んでいる豪月がぼそっと言葉を発した。
この言葉を皮切りにクラスは盛り上がる。
「うおおー! 上級生との対抗戦だ! 燃えてきた!」
「これはチャンスだ!」
「私だってやってやるんだから!」
顎に手を当て、表にはクールな表情を見せつつも、人一倍燃えているのは凪風。
「これは面白くなってきたね」
また、華歩と夢里は同じことを考えていた。
((ちょうど……))
(かーくんが帰ってくる頃か)
(翔が帰ってくる頃だ)
「わたしも成長している姿を見せないとね」
「翔から提案された今の役割、もっとこなしてみせる!」
ぼそっと決意を呟く二人であった。
翔が帰ってくると同時に行われることとなった「上級生との対抗戦」。
翔の武器、それぞれの成長。
まだまだ可能性に溢れ、学校内においても今最も注目されていると言っていい彼らは、この対抗戦で何を見せてくれるのだろうか──。
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