第41話 呼び覚まされた力

 雄叫びに膝を震わせながらも、懸命に麗の回復にあたる夢里と華歩。


「みんな、絶対に前に出るな」


(ここはおれがやる。おれがやるしかない)


 決死の覚悟でフィを含めた四人の前に立つ翔。


「翔! ぐっ、げほっ、げほっ。やめろ、無理だ。たとえ、君、でも、勝てる相手では、ないぞ!」


 後方からの麗の言葉を半ば無視し、翔は化け物と正面から向き合う。


「ハァ……ハァ」


 その圧倒的存在感を前に呼吸を乱す翔。かつて似た魔物と散々戦った経験があるからこそ、今の自身と目の前の化け物との戦力差が理解できてしまう。


(大丈夫だ、冷静になれ。似たような奴ならいくらでも倒してきたじゃないか。出来る、お前なら出来る。お前は、勇者だろ!)


 自分を奮い立たせ、仲間を守るために翔は化け物に向かっていく。


「うおおおお!」


──ヴォォオオオオ!!


「ぐあぁっ!」


「翔!」

「かーくん!」


 翔が化け物に近付こうとするも、咆哮ほうこうの圧に耐えられずすさまじい勢いのまま壁に激突する。


(ちくしょう、今の<ステータス>じゃ吠えられただけで飛んでしまうのかよ!)


「麗さん! その傷で立っちゃダメです!」


 そんな翔をあんじ、下腹部から血を垂れ流してフラフラならがも麗は立ち上がる。周りからはどう見ても戦える状態ではない。それでも、麗が持つ自身の誇りが彼女を立ち上がらせる。


「翔、あとは、任せるん、だ」


「麗さん! ダメだ!」


 麗は翔や夢里の言葉にも耳を貸さない。


「あそこを見ろ。君たち三人の全力、ならば、壊して外へ行けるかもしれない。この子を、背負い、今すぐ逃げろ。私は、こいつを倒した、あとで、追いつく!」


 麗はまともに声を出すことすらままならない。


「そんな見え見えの嘘に騙されませんよ! おれは必ず麗さんも助けます!」


 口ではそう言うものの、翔の頭の中に打開策は一切浮かんでいない。


(ちくしょう、おれは何のために異世界で鍛えられたんだよ! こんな時にみんなを守る為じゃないのかよ!)


 自分の弱さに腹を立てる翔。


──ヴォォオオアア!!


「くっ!」

「ぐぅっ!」

「きゃああ!」


 化け物が顔を左右に傾けながら翔たちに狙いを定めた。終わらせる気だ。


(くそっ! おれに、おれにもっと力があれば!)


「ちょっと、シンファちゃん!?」


 華歩の声に反応して翔が後方を振り返る。そこには自分の足で立つシンファ。

 

「……」


(シンファ?)


 だが翔から見れば明らかに様子が変だ。体を起こしはしたものの、目がうつろで、まるでまだ意識を取り戻していないかのようである。


「カケル」


「!」


 言葉を発した後、シンファの虚ろな目に金色の光が灯る。


「なに、なんなの、これ……」


 シンファの目に光が灯った瞬間、部屋内に教会の鐘のような音が鳴り響く。その音と同時に翔の上方に出現したのは、縦に四つ連なる金色の巨大な魔法陣だ。


「四重、魔法陣……だと? 世界でも魔法陣を二つ重ねられるものは、数えるほどしかいないのだぞ……それを、どうやって」


 魔法陣についても知識を持つ麗。だからこそ彼女は驚きを隠せない。


 そして、もう一度教会の鐘のような音が鳴り響いた時、一番上の魔法陣にまばゆい光が集まっていく。

 光が集まり、魔法陣の中が飽和し始めた時、それはやがて一筋の光の道となり、翔へ向けて四つの魔法陣を通って突き刺さるように注がれる。


目覚めてリバイヴ


 それはシンファ自身の意志か、もしくは彼女の生存本能がそうさせるのか。シンファが何かを唱えることで、翔に注がれる光は翔の中に取り込まれていく。


──ヴォアァァァ!!


「カケル!」

「翔!」

「かーくん!」


 翔を包む光に向かって漆黒の巨大な手を伸ばす化け物。

 しかし、化け物の手が光に突っ込んだ瞬間、それはいとも容易たやすく切断された。 


「よくも、麗さんを傷付けたな」


 光の中から徐々に姿を現す翔。だが、今までの翔とは何かが決定的に違う。


「帰って来た……」


 フィの言葉に耳を傾けつつも光から目を離すことが出来ない麗、夢里、華歩。


「この感じ、間違いない。帰って来たのよ、勇者“カケル”が!」


 光が全て取り込まれ、翔がようやく姿を現す。

 剣を軽く下に振っただけで、翔を囲うように風が巻き起こる。


「みんな、ここはおれに任せてくれ」


 それはかつての勇者の姿、“カケル”であった。

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