第27話 刺激

 国立探索者学校、校舎内。

 来客者専用受付にて見学者用のネックストラップをもらい、いざ校内を回る。


「授業や研究なんかをしているところは邪魔にもなるから入れないけど、他は大抵どこでも見れるよ! “国探”、いざ行かん!」


「国探って、そんな呼び方するのか?」


「そうだよ! 特に受験生にはね。いちいち呼ぶには少し長いから」


 ウキウキで案内してくれる夢里ゆりに付いて校内を回る。


 さすがにうちの古びた校舎とは何もかも違うな。なにからなにまで全部綺麗だ。

 そう見えるのは、全体的にまるで高級ホテルのような、そんなおしゃれさも相まっているからだろう。


「本当にパンフレットで見てた通りだあ。いや、それ以上かも。すごい、私もここにこれたらなあ」


「華歩ならきっと大丈夫だよ! 勉強も出来るんでしょ? 問題はわたしだよ~」


 自分で言って自分でがっくりしている夢里。それでも、彼女の目は輝いている。来たのは三度目だと言うけど、よっぽど志しているんだろうな。


「かーくんはどう? 興味持てそう?」


「おれはー……」


 興味はある。こんな豪華なものを前にしてワクワクするな、という方が無理だ。だけど、


「とにかく、もう少し見てみるよ」


「うん。そうだね」


 彼女たちほど情熱がないのも確かだった。








「あそこだよ! あそこが世界でもここにしかない場所なんだ!」


「そんな場所が?」


「まあまあ入ってみてよ!」


 校舎内色々なところを見て回った後、夢里が最後に案内してくれた場所。

 

 図書館やダンジョンについての最新展示施設、その他多くの場所を見回ったが、正直二人ほどはしゃぐことは出来なかった。ここも、どうせ同じなのだろう。




 そんなおれの冷めた目とは裏腹に、先程までとは打って変わって長く続く広い通路。ちらほらと見るだけだった他の来客も、この通路ではかなりの人数とすれ違う。この先に一体何があるというのだろうか。


「これが、ダンジョン環境を再現した“ダンジョンドーム”だよ!」


 通路の先、おれたちの前に広がるのは巨大なドーム型の施設。普通の学校でいう体育館のような造りだ。もちろん規模感は段違いだが。


 

 現代のダンジョンにおける絶対のルール。

 “ダンジョン内では<ステータス>のパラメータによって自身の人間性能が決定づけられる”。



 そして、ダンジョン内に充満している“魔素”。それが魔物を生み出す原因であると共に、人間が人間を超えた性能を手に入れることが出来る要因とも言われている。


 その環境を、人の手で再現したっていうのか? 

 現代よりも幾分かダンジョンについて研究が進んでいる異世界でも、こんなものは存在しなかった。異世界では地上にも広がる“魔素”をなんとか浄化して人間の居住する場所を作っていたのだ。


「こんなことが……」


「可能なんだなあ、これが。どうやってるかは知らないけど!」


 この施設に感動している中、ドームの上方、体育館の上の通路のような場所にいるおれたちの目に飛び込んできたのはこの学校の生徒だ。


「あれは一体何を?」


 邪魔にならぬよう出入口から少し行った先の通路で、おれは夢里に聞く。


「模擬戦だよ。<ステータス>の能力が適用されたこの環境で、生徒同士で戦い、高め合うんだ」


「生徒同士で……」


「もちろん生徒同士だけじゃないよ。情報を読み込ませれば、ホログラムと実際のダンジョン産の鉱石を合わせて疑似的な想定魔物も創ることが出来る。安全に魔物対策が出来るんだよ」


 なんて画期的なシステムなんだ。


 ドームはここだけでなくいくつかあるようだし、まさに現代の最先端だな。現代人の技術には驚くばかりだ。


 ! なんだあの人。

 そして多くの者が模擬戦をする中でも一人、特に目を惹く存在がいる。セミロングの黒髪を自身の速い動きに揺らしながら、細長い剣で戦う女性だ。


「あれは“剣聖”だね」


「“剣聖”?」


「うん。彼女は“剣聖”清流せいりゅう れい。二年生ながらこの国探で今一番強いと言われてる人だよ。すでに複数のプロ探索者パーティーとダンジョンに潜ってるとも聞く。同世代では間違いなくナンバーワンだよ」


 華歩と夢里が会話をしているのを返事をせず耳にだけ入れる。それほど、彼女の戦闘からは目を離せない。


「使っているのは模擬戦用の武器だからね。多少痛いかもしれないけど、武器で大きな怪我になることはないよ」


 夢里の補足を聞き、一層鼓動が早くなるのを感じる。模擬戦用の武器であの動き?


 やり合っているのは男。こちらもかなり手練れだ。異世界で騎士をやっていてもおかしくないレベルのもの。

 だが、彼女はそれをものともしない。



 全ての攻撃を見切り、かわす。

 ──! 男が多少大振りになった、反撃は?


 懐に潜り込んで……六、七、八連撃!? そんな<スキル>が!?

 いや違う。<三剣刃トゥリア・ラミナ>に、自身の剣筋を一つ挟んで<四点斬撃クリスタル・アーツ>!


 あの動き、全盛期のおれなら……出来るか? いや、多分出来るが、それでもおれには自身の動きを<スキル>の間に入れる発想は無かった。



 それに、彼女だけじゃない。ここで戦っている生徒全員が紛れもない猛者。

 <スキル>は一朝一夕で身に付くものではないのはおれが一番よく知っている。それを、ダンジョンに潜る認可が下りる中学三年から数年でここまで……。


 これを「才能」という言葉だけで片付けてはいけない。


「かー、くん?」


 華歩が何か言った気がしたが、心臓の音がうるさくてまるで聞こえない。


 鼓動が早くなるのを感じる。


 ずっと羨んでいた。生まれながらにおれは外れ、負け組だと思っていた。

 探索者なんて、才能のある奴が金を稼いで気持ちよくなってるだけだって。


 けど、ここにいる全員が最上位職業ジョブなんてことはありえない。


 ここにいる全員が他人の才能をじかで感じ、羨み、妬みながらも努力を重ねて、自分で身に付けた各々の<スキル>で戦っているんだ。


 全員、努力でここまで上がってきているんだ。


 おれはこれまでなんとなく生きてきただけだった。ダンジョンンへ潜ったのも、おれ自身が強いとわかっていたからだ。本気で挑戦したわけじゃない。


「すごい……」


 自然と口から出た言葉だった。


 おれは、ここに来たい。ここで、こんな人達と高め合いたい。

 本気でそう思った。

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