第114話 ミカ、【白狼伝説】にハマる!&誕生日
学校の授業が終わり帰宅した。
ミカに5月19日【無の日】は2人で街に出かけ2人の誕生日を祝おうと誘う。
実は僕はまだミカを誘ってはいなかった。薄皮1枚の壁がある状態では、何か言い出しにくかったのだ。
ミカは僕の提案をとても喜んでくれた。
誕生日までの2週間は特に何もなく日常生活を過ごした。
そう言えばサイドさんからは僕の詩的センスが壊滅的とお墨付きをいただいた。
ミカはこの2週間、時間があれば【白狼伝説】を読んでいる。
ミカと徹夜で話し合った時、【白狼伝説】は僕が冒険者になりたいと思った原点だから、是非ミカにも読んで欲しいと僕は熱弁した。あまり気乗りしてなかったミカだったが、【白狼伝説】を読み始めるとハマってしまったようで何度も読み返している。全5巻の小説なのに既に3周目に入っているようだ。だから面白いと言ったのに。
白狼伝説の主人公のウルフは赤色の髪色をしていて1〜3巻までは通常の火属性の魔法の使い手だ。4巻以降は魔法の研究成果で髪色が白くなり強い白炎の魔法を操ることになる。
人の髪色が変わると言う事はありえない、また白髪の人がいないと言うことが【白狼伝説】が架空の物語とされている原因だ。
そして5月19日【無の日】になった。
朝の鍛錬で汗を流し、シャワーを浴びて軽い朝食を食べる。
今日は快晴だ。街をぶらつくには最高の天気!
思い返せばあれから1年間か。
止まっていた僕の人生が動き出した。これからどうなっていくのだろう。
向かいの席ではミカがパンを食べていた。その姿を見て、これからもミカとは一緒だと、安心する気持ちが湧き出てきた。
ミカからはどうしたのと聞かれた。どうやら僕は微笑んでいたようだ。
朝食後、街に出かける用意をする。今日は全体的にカジュアルにした。
ミカの今日の服装は白のワンピースに麦わら帽子を被っていた。日差しがだいぶ強いからね。
首には水色のチョーカーと水色の石のペンダント。腕には水色のブレスレットをしている。
ペンダントとブレスレットは以前ボムズでお揃いで買ったアクセサリーだ。僕もペンダントとブレスレットを身につけた。
僕、今日で16歳。ミカ、今日で20歳。楽しい1日にしようと思い、僕は自宅のドアを開けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
家を出て向かったのは王城だ。以前、シズカが言っていたが、一部分が一般に公開されている。それに併立されている美術館と博物館に行く予定だ。
王都は広いため、今日は馬車を1日借りた。馬車に乗り込む。
ミカと馬車で2人でいると、ファイアール公爵家から呼ばれてアクロからボムズの移動をした時を思い出す。
僕は顔が赤くなった。それを見たミカが不思議そうな顔をしていた。
王都には多数の馬車置き場が設置されている。王城近くの馬車置き場に馬車を置き、そこから王城まで歩いて移動した。
まずは美術館を観て回る。
さすが芸術の都である王都センタールだ。迫力がある絵画や彫刻がたくさん展示されていた。
僕は神話時代を題材にした絵画の前で足を止めた。多種多様なモンスターと魔物に、それと戦う人々を描いているものだ。
現在、モンスターや魔物はダンジョンにしかいない。神話時代には普通にモンスターや魔物が外を徘徊していたと言われている。そんなの危ないよね。
何で今はモンスターや魔物はダンジョンにしかいないのだろう? 本当なのかな? 俄には信用できないな。まぁ神話の時代だからな。
【白狼伝説】は神話時代の話のため、主人公のウルフは各地域で魔物討伐をする話だ。
僕はこの絵画を観て、【白狼伝説】の舞台はこうだったのかと想像していた。横で観ていたミカも、「この絵画は【白狼伝説】ね」と言っていた。
その後、博物館に行った。
国宝級の剣や鎧、歴史ある陶器類、古代の解明されていない魔法陣などが、ところ狭しと並んでいる。
王家所有のステータスカードがガラスケースの中に展示されていた。
僕が使っていたステータスカードとは少し形が違っている。このステータスカードはまだ使用できるのかな?っと何となく思った。
お昼ご飯は博物館にあるレストランで食べる。
王都名物のパスタ料理を美味しく食べる事ができた。
ミカは終始、笑顔だった。たぶん僕も笑顔だったと思う。
その後、馬車でセンタールの南側地域に移動した。
商店が多く立ち並ぶ地域だ。馬車置き場に馬車を止めて街をぶらつく。ミカとは手を繋いで歩いた。
記念になる物としてはやはりアクセサリーかな? お揃いのペンダントとブレスレットはあるから今日の記念品は指輪と思っていた。
最初に王都で有名なアクセサリーショップに入る。
値段が安くとも金製よりも銀製が好きなため素材は銀製にした。石を指輪に埋め込む事ができるため、いつもの様に僕は黒色の石、ミカは水色の石を選んだ。つける指は小指にした。
サイズ直しと石の埋め込みは夕方には出来上がるそうだ。
時間潰しのため近くの小物や服などを見て歩く。そのうち歩き疲れたので休憩のためにお茶を出すお店に入った。注文したお茶を飲みながらミカは言った。
「去年の誕生日、私は奴隷になった頃。身代金が支払われず、国と家族から捨てられたと感じていた。誰からも必要とされないんだなって思って心を閉ざしたわ」
僕を見つめながらミカが話を続ける。
「それが今年の誕生日は最高な誕生日。私は一生この日の事を忘れない。アキくん、ありがとう」
そう言って素敵な笑顔になるミカ。
綺麗なミカを見て僕は心の中で【白狼伝説】にお礼を言っていた。
【白狼伝説】が無ければまだ僕とミカとの間には薄皮の壁があったかもしれない。
ありがとうウルフ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アクセサリーショップに寄り、リングを受け取る。早速2人で指輪を嵌めた。ミカと顔を見合わせて笑顔になった。
夕食は王都で有名なレストランを予約している。レストランは少し高い位置にあるため景色が綺麗だ。ガラス張りの向こう側には街の魔道具の光が見える。
個室で予約をしているため、ゆっくりできる。
王都では水色の髪が珍しいため、僕が街を歩くと結構ジロジロ見られる。冒険者引退後、僕はアクロに住もうと思う。
今夜のミカはワインを飲むペースが早い。止めようかと思ったがやめた。だってミカがとても楽しそうだったから。
明日、ミカは二日酔いかな。
水属性の魔法で、ある程度お酒は抜けるようだが。確か解毒ポーションも効き目があるはず。
今日持ってきたポシェット型のマジックバックには入れてこなかった。
料理はとても繊細で美味しかった。焼いた肉にかかっていたソースが絶品の味だったが、何をベースにしているのか全く分からなかった。
ミカは一人でワインを2本空けていた。立ち上がると足がふらついている。
肩を貸そうとするが「大丈夫、大丈夫」と言って一人で歩き始める。ふらつきながら。
馬車まで何とか戻り、自宅に向かった。
ミカが僕の肩を枕に目を閉じた。起きているのか眠っているのか分からない状態だ。
家に着くまでミカは「アキくん、ありがとう、今日はありがとう」とずっと言ってた。
自宅に帰るとミカは殆ど眠っている状態だった。
何とかミカの自室のベッドに運んだ。解毒ポーションを飲ませるのは明日の朝だなと思った。
僕は眠っているミカに「おやすみなさい」と言って、ミカの部屋を出た。
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