第105話 日常に戻す挨拶【ミカの視点】
【第103話〜第104話のミカの視点】
アキくんと話し合いで、私達の家に襲撃をかけてくるならば今夜の可能性が高いと思われた。
アキくんから宿に泊まる事を提案されたが、私としては膿を早く出したい。アキくんは私の提案を受け入れてくれる。
今日は装備を着けたまま、徹夜になる。
刀が振れる庭に出れば10人程度ならどうにでもなる。庭にすぐに飛び出せるようにアキくんの部屋に2人して待機だ。襲撃を中止されないように、明かりの魔道具を全て消す。
アキくんは壁に寄りかかって仮眠を取り始める。毛布にくるまっているアキくん。私も1メトルくらい離れたところで、壁に寄りかかりながら毛布にくるまった。
少し経つとアキくんの寝息が聞こえてくる。
規則的な呼吸音。その呼吸に自分の呼吸を合わせていく。たったそれだけの事で幸せを感じる。
4月末の夜はまだ冷える。私はアキくんのぬくもりが欲しくてアキくんの毛布に潜り込んだ。
あぁ! 幸せだ……。
でも幸せなのに涙が溢れてくる。
なんでなんだろう?
アキくんと心の距離ができたのは、きっと自分が悪いからなんだろう。でもどうしたら良いかわからない。こんな奴隷で本当に申し訳ない。
気がつくと私はアキくんに謝っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
涙を流したせいか、気持ちが落ち着いた。
襲撃されるかもしれない状況なんだと、改めて思い出す。
集中して襲撃に備える。
夜も深い時間になった時に庭の反対側から人の気配を感じた。
窓際まで行って、庭の様子を確認する。確かに賊がいるようだ。
アキくんが起き出して私の横にきた。私はアキくんに話しかける。
「庭の反対側の方に数人の気配がするの。見てきたほうが良いかな?」
「人数が分かれば良いんだけど。それに何人か捕縛できれば良いけどね」
アキくんは捕縛を希望か。なら簡単だ。
「私がここから庭に出て不審者に突っ込んでいくわ。足を一本切り落とせば良いでしょ。それで逃げられなくなるわ。アキくんは周りを警戒しながら庭に出てくれる。なるべく死角がない様にして私に少しずつ近づいてくれれば良いかな」
口をぽかんと開けているアキくん。
「どうしたの?アキくん?」
「いや、簡単に足を切り落とすって言ってたから」
「そっか、アキくんは人を切ったことないもんね。モンスターばかり倒してきたからね。私は戦争経験者だから。たぶん、私が突っ込んで行ったら、向かってくる人と逃げる人、呆然と立ち尽くす人の3種類に分かれるわ。向かってくる人、呆然と立ち尽くす人、逃げる人の優先順位で無力化してみる。その後、アキくんは足を切られた人にポーションで治療してあげて。私は表に行って見張りか指示役がいないか確認するから」
私の指示にアキくんが頷く。
私は念の為、アキくんに釘を刺す。
「アキくんの剣術レベルなら普通の人では敵わないはず。だけど約束して。危なくなるようなら蒼炎の魔法を使うことを躊躇しないでね」
アキくんは私の言葉に頷いてくれた。
「それでは私が庭に出たら、アキくんは周囲を警戒しながら移動ね。それじゃ行くわよ」
私は一つ頷くと庭に出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
庭の反対側に6名の賊を確認する。黒いマスクに黒い装備を付けていた。
私は静かに、それでいて素早く接近する。相手に気づかれる前に攻撃開始だ。
1人目の悲鳴が上がった時には、既に3人の片足を切断していた。
私に気づいた残り3人も硬直している。有無を言わさず片足を切断していく。
まずは6人の賊を無力化できた。アキくんに指示を出して、表門に回る。
門を出ると北に逃げていく2人組がいた。
逃がすわけにはいかない。すぐに追いかけたが、なんと賊はウインドカッターの魔法を撃ってきた。自ら貴族と明かすような行為だ。
吃驚している間に距離を離されてしまった。アキくんが心配の為、これ以上追うのは諦めよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アキくんは負傷した賊の治療をしていた。
この賊をどうにかしないと。
「センタールの警備は第三騎士団だっけ? 良くわからないわ。アキくん1人置いて呼びに行けないし」
その時、隣りの家の明かりがついた。どうやらこの騒ぎで起きたようだ。
「アキくんはこのロープで賊を縛り上げといて。私は隣りの家の人に頼んで騎士団に報告してきてもらうから」
私はすぐに明かりが付いた隣家に向かった。
呼び鈴を押して待っていると年配の男性と女性が出てきた。
そして私の顔を見て悲鳴を上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、騎士団が到着して、事件の処理を淡々としていく。
アキくんは事件の詳細はヴィア主任に相談してから話すことにしたみたい。
アキくんの目が少し虚ろだ。
これは眠いからだけじゃない。戦場で何度も見た事のある目だ。
アキくんをリビングに呼び、温かいお茶を飲ませた。
やはりアキくんはショックが抜けていない状態だ。結局、仮眠を取らずに登校時間になる。
職員室でシベリーさんに報告をし、ヴィア主任の助言を聞きに行く。
その後第二騎士団の詰所に行き、捜査の責任者と話をした。
まだアキくんの目は虚ろだ。早くゆっくりさせてあげたい。
近くの定食屋でお昼ご飯を食べて、晩御飯の弁当を買った。
アキくん1人にするのは気にかかったが、今晩も警戒を解くわけにはいかない。私は夕方まで仮眠をとる事にした。
夕方に私が起きてきてもアキくんの目はまだ虚ろだ。
アキくんは少し眩暈がするようで、お弁当を食べたらそのまま部屋のベッドに入る。
私も昨晩と同じようにアキくんの部屋で待機だ。
アキくんはすぐに寝てしまった。やはり疲れているのだろう。
血に当てられた人は、なるべく早く日常を思い出す事が大切だ。
アキくんは眠った事で頭がスッキリするはず。その時に日常を思い出させる。
起きた瞬間が勝負だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
日が昇って来た。アキくんがベッドの中でモゾモゾしている。もうそろそろ起きそうな感じ。
私はアキくんの瞼が開いた時を見計らって、いつものようにおはようと言った。
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