第88話 誤算続きの乙女心【シズカの視点】

【第81話〜第86話のシズカの視点】


 入学式の後、シベリー叔母さんの後に続いて教室に移動だ。

 赤い髪色の中を鮮やかな水色の髪色が見え隠れしている。

 アキだ!

 やっと明日から授業が始まる。午前は全て魔法実技の授業だ。同じクラスなら蒼炎の魔法を見る事もできるだろう。

 教室に入ると席順が決まっていた。どうやら受験の成績順のようだ。

 アキは窓際の1番後ろの席にポツンと座っている。

 私の席はその前の席だ。アキの隣りと後ろには誰もいない。前には私。私は最高の状況に歓喜した。

 私が席に近づくとアキの顔が強張ってくる。私は無言で自分の席に座り、後ろを振り返り笑顔を見せた。

 楽しい学生生活になりそうな予感がした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 自己紹介が終わり解散になると、アキは素早く教室を出て行ってしまった。

 逃げられたと思ったが焦る必要はない。明日からは一緒の学校生活を送れるのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日から学校の授業が始まる。

 昨日の夕食は最悪だった。お父様と叔母のシベリーさんが口喧嘩を始めてしまった。

 私の入学祝いの食事会なのに台無しだわ。

 私はアキの顔を見て気分を良くしたくなる。教室に入ると真っ直ぐアキのところに向かった。


「おはようございます。アキさん。クラスメイトだから、さん付けで呼ばせてもらうわ」


 アキは無表情だ。


「おはよう、シズカさん。さん付けで構わないよ」


 アキは無表情のまま……。


「アキさん、休みの日に一緒にダンジョンに行ってくれないかしら。私ダンジョンに興味があってね」


「悪いけど僕は休みの日は結構忙しいんだ。それに一応僕はBランク冒険者だ。君はダンジョン経験がない初心者。その立場で言えば僕が引率する事になる。通常、Dランク冒険者に初心者が引率をお願いするのは大変お金がかかるよ。ましてやBランク冒険者だといくらに設定すれば良いのかわからないね」


 まるで取り付く島がない感じだ。めげずに会話を続ける。


「そこはクラスメイトだと思って助けてくれると嬉しいんだけど」


「それなら僕が良い人を紹介させていただくよ。火の魔法属性の有望なこの学校の2回生だ。2回生ならダンジョン探索経験もあるし問題ないと思うよ。何より君に好意をいだいているのだから」


 カイ・ファイアージの小太りで脂っぽい顔で細い目と丸い鼻の顔が浮かんだ。

 カイに引率してもらうなら、こちらが金をもらっても割に合わないわ。

 しょうがない。ここまでにべもない対応をされたら今日は諦めよう。

 大人しく自分の席に座る。

 アキとの会話を諦めたら、今度はアキから話しかけてきた。


「担任のシベリー・ファイアードってシズカさんと関係のある人? 家名が一緒だったから。」


 私は座ったまま身体を捻りアキの方に振り向いた。


「お父様の妹になるわ。私たちが生まれる前に15歳で王都魔法学校に入学して、そのままここの教員になったのよ。ボムズには全然帰ってこないから私も会うのは久しぶり。シベリーさんがボムズに帰ってこないと見合いもできないって、いつもお父様がこぼしてるの。もう行き遅れになってるんだけどね。お父様が昨日入学式に来てたんだけど、家族で夜に会食したの。昨晩、お父様とシベリーさんが言い合っていたわ」


 昨晩の光景を思い出し、ついアキに苛立ちをぶつけてしまった。その時、担任のシベリー叔母さんが教室に入ってきた。


 シベリー叔母さんが機嫌の悪い声で連絡事項を伝える。

 この後はシベリー叔母さんの魔法実技授業か……。気が重いがアキの蒼炎の魔法が見られるならと思っていたら、アキは1人で教室を出て行ってしまう。

 えっ! どういう事!?

 廊下に出るとアキは従者の待機室に入っていく。すぐに女性の従者を連れて外に向かって行った。

 私は慌てて魔法実技授業の準備をして、魔法射撃場に向かった。

 しかし水色の髪はどこにもいなかった。

 私は疑問に思い、シベリー叔母さんに確認をする。


「首席のアキ・ファイアールはどこなんですか? 彼の魔法を見たいのですが」


「あぁ、彼の魔法か。あれは危ないから王国がダンジョン外での使用を止めているはずだ」


 ダンジョン外での魔法の使用が止められている!?

 私の動揺が収まる前にシベリー叔母さんの追撃がきた。


「魔法実技の授業がここではできないから、アキ・ファイアールは王都魔法研究所の主任研究者のヴィア・ウォレットが受け持つ事になっているかな」


 は? どういう事? それでは魔法実技の授業ではアキの蒼炎の魔法を見る事ができないって事!


「そんな事より、早く並びなさい。授業を始めるわよ!」


 私は呆然としながら列に並んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 この1週間で良くわかった。アキの蒼炎の魔法を見る為には、一緒にダンジョンに行くしか無い事が。

 一度は断られたが、再度挑戦する事にした。アキは従者の女性と食堂で昼食を食べていた。

 意を決してアキの隣りに座る。


「ねぇアキさん。お願いだから私とダンジョンに行ってくれないかな? 行ってくれたら何か1つアキさんの望みをきくから」


 秘技、捨てられた子犬の目だ。これで私の頼みを断った男性はいない。必殺の作戦。


「その件は以前断ったはずだよ。それにシズカさんにしてもらいたい事は僕にはないよ」


 アキは全く動じない。こうならば女の意地でもある!


「それなら私と1日デートってどう? 今度の休みの日にしましょう。そうだ! 王城に行きましょうよ! 一般に解放されているところがあるし、美術館が併設されているわ」


 私はアキとデートする事を思って興奮してきた。


「別に君とデートをしたいとは思わないよ。なにが楽しくて弟の婚約者とデートしなくちゃダメなんだ」


「私がアキさんをいっぱい楽しませるから。それにガンギくんとは婚約破棄をするようにお父様にずっと頼んでいるから問題ないわ。ね、行こうよ」


「悪いけどその日は既に先約が入っているんだ。人と会う用事がある。悪いけど諦めてくれるかな」


 先約? それならきっと大丈夫だ!


「その用事を別の日にできないの? 私からその人に頼むから」


「それはやめておいたほうが良いと思うよ」


「誰と会う予定か教えなさいよ。私が頼んだら別の日に変えてくれるに決まっているんだから」


 私が頼めば丸く収まるに決まっている。よし! これでアキとデートができる!


「国王陛下だ」


「へ?」


「だから僕が次の休みに会うのはリンカイ王国の国王陛下だよ。試しに君から別の日に変えてくれるように頼んだら」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。ようやく頭に言葉の意味がついてきた。それと共に怒りが溢れる。


「そんな話あるわけないでしょ! 私とそんなにデートしたくないからって、意味不明な作り話をしないでよ!」


 いくらなんでと酷い嘘だ。そこまでアキは私とデートしたくないのか……。

 私は怒りと悲しみに溢れて席を離れた。

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