第86話 国王陛下からの招待状とシズカ再び

 次の日は朝からダンジョンに蒼炎を撃ちに行く魔法実技の授業という名のヴィア主任の蒼炎の研究だ。

 僕は最近少しダンジョンに行くのが憂鬱に感じていた。

 3月のダンジョンで蒼炎を撃っていたが、何とも言えない違和感が日に日に増えてきている感じなのだ。前はそんな事無かったのに。蒼炎の威力は特に関係無かったので問題は無いと思うけど。


 次の日の午前中は前日出来なかった呪文解析概論をサイドさんが講義してくれた。呪文の文言の内容は前にもやっている。

 その他には魔法の威力や射程、貫通力、爆発力、スピード、持続力等の測定方法などを勉強した。


 午後はクラスに戻り、魔法実践の座学の授業だ。

 どのように魔法を運用していくかの勉強だった。上は大規模魔法の運用方法から、下は魔法を使った掃除方法等がある。残念ながら蒼炎しか使えない僕にはあまり必要性を感じないものだ。

 あ、でも蒼炎の魔法でゴミを焼くのはどうなんだろう? 一瞬で無になるから良いかも。

 明日は【無の日】で休みになるな。やっぱり慣れるまで疲れる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 【無の日】になった。午前中に魔道具屋にミカと出向いた。

 魔道具屋の中は多種多様な道具がいっぱい売っている。年配の男性の店主に家の防犯の魔道具にどのようなものがあるか聞いてみた。


 僕はドアや窓に設置する魔道陣に興味を持つ。

 魔法陣に予め登録された魔力を流さないで、ドアや窓を開くと風属性である電流が流れて気絶してしまうと説明を受けた。


 店主は売り文句で「今年発売された魔法陣ですよ。かの有名な【緑風の乙女】が開発した優れ物の魔法陣だ!」と言っていた。

 ヴィア主任作成の魔道陣か! 寝坊ばかりの怠け者では無いようだ。家の防犯についてヴィア主任に相談した方が早いかなっと少し思った。

 この魔法陣を全ての家の窓とドアに取り付けることにした。


 その他に腰に付ける小さなポーチタイプのマジックバッグを2つ購入した。左側の腰に付けておけばすぐに【昇龍の剣】が取り出せる。さすがに【昇龍の盾】は入らないが、携帯しておくマジックバッグとして優れ物だ。


 店主に家を覆うような結界の魔法について聞いてみる。そのような結界の魔法陣は、高度な魔法知識が必要であり、そんな物があるのは王宮と王都魔法学校の魔法射撃場くらいだと言われた。

 どちらの結界も王都魔法研究所が監修しているそうだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帰宅して早速魔法陣を家の扉と窓に設置した。

 平民は魔法は使えない人が多いが微量の魔力は持っている。

 ユリさんも問題なく魔法陣に登録できた。


 登録が終わると来客が来た。


 王国魔法管理部部長のケーキ・ウォーターズさんだった。後ろにもう1人の男性がいる。

 自己紹介をされ、王国外交部のピーター・ウォーターズさんとの事。

 手土産はクッキーだった。ケーキじゃないんだ……。


 2人をリビングに通してお茶を出す。


 王国外交部のピーター・ウォーターズさんが豪華な封筒に入った招待状を僕に渡し、話し始めた。


「まずは国王陛下との謁見をご了承いただきありがとうございます。こちらが招待状になります。急な話で恐縮ですが日程についてなんです。来週の4月19日の【無の日】に設定させていただきました。陛下の予定が詰まっていて、その日にしか都合がつきませんでした。アキ様のご都合は大丈夫でしょうか?」


 一国の国王陛下ともなれば忙しいよね。特に何もないね。


「わかりました。4月19日に王宮に行かせていただきます」


 そう僕が言うと王国外交部のピーターさんはホッとした顔を見せた。


「本当に助かりました。陛下から早くアキ様の話を聞きたいと再三言われてまして。最近陛下はアキ様との約束を早く取らないと、もう仕事をしないと言われてしまっていたんです」


 横からケーキさんが「良かったなピーター」と言ってピーターさんの肩を叩く。それに対して涙ぐんでいるピーターさんは「ありがとう、兄さん」と返していた。

 この2人兄弟か。顔も似ているし、家名が同じだからな。


 ケーキさんが僕の顔を見て口を開く。


「陛下との謁見が決まりまして私も安心しました。私からのご報告ですが、以前から研究所のヴィア主任から出されていた、研究のためのダンジョン外での蒼炎の魔法を使う許可がおりました。明日研究所に許可が降りた事を伝える予定です。安全確保のための基準は研究所から詳細を確認してください」


 蒼炎の魔法のダンジョン外の使用許可が降りたんだ。少し心配だけど安全確保されているなら良いかな。


 その後、ピーターさんとケーキさんと雑談をした。ダンジョン制覇の話は皆んな結構興味があるみたい。

 僕の話に満足して2人は帰っていった。


 招待状の中を見ると昼食を一緒に取るため謁見の時間は午の刻11時からとなっていた。また同じBランク冒険者のミカも招待されていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 休みの明けた4月14日の朝はなかなか起きられなかった。学校生活が始まって1週間。まだ慣れていないのかな?

 重い身体を起こして着替えをしていく。


 実は僕とミカは誕生日が5月19日で一緒だ。何かミカに内緒でプレゼントを用意したいが外出の時はほとんど一緒にいるため現在どうしようか悩んでいる。僕は個人的に人の誕生日を祝った事がない。祝う人が周りにいなかったせいだ。ミカと会って初めての誕生日。何かしたいと思っていた。


 結論が出ないまま登校する。朝のホームルームに出席してヴィア研究室に行く。扉をノックすると勢い良くボサボサ頭のヴィア主任が出て来て言った。


「アキくん、待ってたぞ! 早く準備をするんだ! サイド、何してる! 馬車の手配をしろ!」


 何事かと思っていたら、呆れた表情のサイドさんが現れ、ヴィア主任をたしなめる。


「落ち着いてくださいヴィア主任。今日は無理ですよ。明日にしましょう。細かい準備も必要ですし、アキくんの学校にも申請しないとダメですから」


 サイドさんに言われたヴィア主任は少しだけ気落ちした表情をしたが、すぐに僕に向かって話し始めた。


「アキくん! 前から申請していたダンジョン外での蒼炎の魔法を使った研究の許可が下りたんだよ! 今日はダメだが明日は実験をしに郊外に行くぞ! こうしてはいられない! 明日の実験の準備をしないとな! アキくんも明日は体調不良で休んだらダメだからな!」


 そう言って研究室の奥にヴィア主任は消えていった。

 サイドさんが申し訳無さそうに口を開く。


「ごめんね。朝1番で許可申請が下りた連絡があってね。あぁなったヴィア主任はどうにもならないね。今日も僕が魔法実技の授業をするから許してね」


「問題ないですよ。サイドさんの講義は面白いですから」


「そう言ってくれると助かるよ」


 いつも講義に使っている机に移動してサイドさんの講義が始まる。

 ミカは少し離れたところで、サイドさんから渡された金属性魔法の資料を読んでいた。


 結界の魔法はやはり高度な知識も必要で一朝一夕では使えないとサイドさんが言っていた。

 結界の魔法は魔法ではあるが魔法陣との併用が欠かせない。この魔法陣は術者の魔力が篭ったものでないと結界が発動しないため、自分で作成しないとダメとのこと。

 魔法陣の知識も必要になるのが結界の魔法だそうだ。


 その日のサイドさんの講義は呪文の文言についてだった。覚えることがたくさんあり、新魔法の開発はまだまだ大変な道のりだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午前中の授業が終わり食堂でお昼ご飯を食べていたら横にシズカが座ってきて話しかけてきた。


「ねぇアキさん。お願いだから私とダンジョンに行ってくれないかな? 行ってくれたら何か1つアキさんの望みをきくから」


 今日のシズカはいつもと違い、しおらしい雰囲気を出している。トレードマークの大きな目は上目遣いにして僕を見つめてくる。

 いつもとは違ったパターンで来たか。そう思い口を開いた。


「その件は以前断ったはずだよ。それにシズカさんにしてもらいたい事は僕にはないよ」


 この程度で引き下がったら普通の人だ。そしてシズカは普通の人ではない。


「それなら私と1日デートってどう? 今度の休みの日にしましょう。そうだ! 王城に行きましょうよ! 一般に解放されているところがあるし、美術館が併設されているわ」


「別に君とデートをしたいとは思わないよ。なにが楽しくて弟の婚約者とデートしなくちゃダメなんだ」


「私がアキさんをいっぱい楽しませるから。それにガンギくんとは婚約破棄をするようにお父様にずっと頼んでいるから問題ないわ。ね、行こうよ」


「悪いけどその日は既に先約が入っているんだ。人と会う用事がある。悪いけど諦めてくれるかな」


 それでもシズカは食い下がる。


「その用事を別の日にできないの? 私からその人に頼むから」


「それはやめておいたほうが良いと思うよ」


「誰と会う予定か教えなさいよ。私が頼んだら別の日に変えてくれるに決まっているんだから」


この子は何を思って生きているんだろ? まだ世の中が自分中心に動いていると思っている。

 僕は口を開いた。


「国王陛下だ」


「へ?」


「だから僕が次の休みに会うのはリンカイ王国の国王陛下だよ。試しに君から別の日に変えてくれるように頼んだら」


 その言葉を聞いたシズカは怒り出した。


「そんな話あるわけないでしょ! 私とそんなにデートしたくないからって、意味不明な作り話をしないでよ!」


 そう言ってシズカは席を荒々しく立って食堂を出て行った。


 僕はミカに聞いてみた。


「ダンジョンに一緒に行きたいと言っていたのに、最後はデートに行かないことを怒っていたよね? なんなんだろ?」


「自尊心が傷つけられたんじゃないですか? 多感なお年頃ですから」


女性って難しいなぁ。

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