第72話 エルフ!?

 サイドさんとの話が盛り上がっていて、研究室の奥から人がこちらに向かってきてるのに気が付かなかった。


「とても盛り上がってるね。アキくん、良く来てくれた」


 僕は呆気に取られた。前回会った時はボサボサの髪で見えなかったが今日は確認できる。耳の上が尖ってる。


 ヴィア主任はエルフだ!


 エルフは長命の種族の少数民族。エルフには美男美女が多いと言われている。人間の社会にはほとんど関わらない。僕は初めてエルフを見た。


 今日は髪を洗ったばかりのようでストレートの緑色の髪がサラサラしている。この間とは違って綺麗な白衣を前を開けて着ていた。整った目鼻立ち。知性を感じさせる雰囲気。こないだの残念美人とは思えない変わりようだった。


 呆然とした僕に気が付くと不思議そうな顔でヴィア主任が口を開いた。


「アキくん、どうした? 何かあったのか?」


 僕はその声で正気に戻る。


「すいません。ヴィア主任はエルフだったんですね。初めてエルフと会ったのでちょっとビックリしてました」


「初めて会ったと言うのはおかしいな。アキくんは先日私と会っているだろ?」


「確かにそうですね。すいません」


「謝ってばかりだな。エルフは珍しいのは分かっているよ。皆んなビックリするからな。でも何で先日私がエルフだと気がつかなかったんだ?」


 そこでサイドさんが言葉を挟む。


「主任はいつもボサボサ頭ですからエルフの特徴の耳が確認できなかったんでしょ。お願いだからもう少しシャワーを浴びてくださいね」


「相変わらずうるさい男だなお前は。そんな些細な事にこだわっているからダメなんだよ」


「シャワーをしっかり浴びるのは社会人として最低の礼儀ですよ。よれよれの白衣のままでいるのも止めてくださいね」


「あぁ、分かったから。次からは気をつけるよ。折角アキくんが来てくれているからもう説教は止めてくれ」


 そういうと僕の前にヴィア主任が座った。


 改めて見ると綺麗な女性だな。実は僕はエルフに憧れを持っている。【白狼伝説】の主人公の仲間の一人がエルフなのだ。


「サイドくん、蒼炎の研究スケジュール案が私のデスクにあるから持ってきてくれ」


 ヴィアさんはサイドさんに指示を出した。サイドさんが研究室の奥に向う。

 僕はその前に封筒の件を切り出した。


「蒼炎の研究も良いのですがこちらを見ていただけますか?」


 そう言って開封のできない封筒をヴィア主任に渡す。

 ヴィア主任は封筒を見て言葉を呆れた声を出した。


「宛名は【祠を開けた方へ】、差出人は【ウルフ・リンカイ】。この封筒が何かしたのかい? 【ウルフ・リンカイ】が差出人なんて子供のイタズラかな?」


「実はこの封筒が開封できなくて困っているのです。知り合いがこの封筒には結界の一つである封印の魔法がかけられているんじゃないかって」


「開けてみても構わないかな?」


 僕は頷く。

 ヴィア主任は封筒を開封させようと封筒の上の辺りを手で捻る。


「なるほどビクともしないね。確かにこれは封印の魔法がかけられていそうだ。ちょっと待っててくれるか。結界を消滅させる魔法陣があるから試してみよう」


 ヴィア主任はそう言うと蒼炎の研究スケジュールを持ってきたサイドさんに今度は結界を消滅させる魔法陣を取りに行ってくるように指示した。

 そして封筒を見ながらヴィア主任が言った。


「結界を消滅させる魔法陣は研究所の倉庫にあるからもう少し待っててくれ。それにしても悪戯で封印の魔法を使う意味がわからないな。この封筒の出どころを教えてもらえるかな」


「この封筒は私の実家の祠の中にあったものです。【祠を開けた方へ】とは私のことなんです。だからどうしても開けたくて」


「まぁそういう事なら開封してみようか。でも伝説の人物である【ウルフ・リンカイ】を使うなんて悪ふざけなんじゃないのかな?」


 さして興味のない顔をするヴィア主任。やっぱり種族が違っていても女性は男のロマンがわからないんだな。

 ヴィア主任にも【白狼伝説】の小説を送ろうかと考えていたらサイドさんが戻ってきた。

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