第58話 アキくん?ご主人様?【ミカの視点】
【第51話〜第57話のミカの視点】
ファイアール公爵家の大ホールで開催されたパーティは予想を上回る華やかさがあった。
まるで夢の中みたい。お姫様になった気分だ。
アキくんには申し訳ないけど、我が儘を言って参加して良かったわ。
パーティが落ち着いたところで、アキくんの過ごしていた屋敷の離れを見に行く。アキくんと冗談を言い合いながら……。
結構、酔いが回っているかな? 楽しくてしょうがないわ。
アキくんが過ごしていた屋敷の離れは静かだった。
パーティの喧騒が僅かに聞こえてくる。パーティの日はこんなところで1人で夕食を食べていたのか……。
「いつもみんながパーティーをしているときにアキくんはこの中で1人でご飯食べていたんだ。気が狂いそうにならなかった?」
「そうだね。僕は一冊の本に助けられたんだ。子どもの絵本にもなっている【白狼伝説】。その小説を何度も読んだよ。白狼と呼ばれていた冒険者が仲間と共に世界中を冒険して神獣の力を借りて化け物を倒す話さ。僕はそれを読んで冒険者になろうと心に決めたんだ。18歳になったら家を出て冒険者になる夢を持てたんだ。それで心は折れなかったね」
アキくんの冒険者に対する熱い想いが伝わってきた。
「そうなんだ。だったら私は【アキくん伝説】を執筆しようかしら」
「【アキくん伝説】は止めてよ。カッコ悪すぎる」
「じゃ【蒼炎の魔術師】なら良いかしら?」
「あんまり変わってないよ」
私は2人で笑い合いながら幸せを感じていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アキくんが住んでいた離れの奥に大木がある。その脇にある祠から、アキくんが1通の手紙を見つけた。
アキくんは興奮しているが、私には実感が湧かない。
ただ、その封筒には堅牢な結界の魔法がかけられていた。
アキくんが必死になって開封しようと四苦八苦している。
私は開封できると良いなぁと他人事のように横からみていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ボムズのギルド長から呼ばれて冒険者ギルドに向かった。
奴隷身分からの解放は丁寧にお断りする。
何度も説得されるが私の決心が固いと思ったようで、諦めてくれた。
これで安心してアキくんの奴隷でいられる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
火宮の宮ダンジョンを一度探索する事になる。
ここのダンジョンに生息するイフリートには水属性の【昇龍シリーズ】装備が効果的だった。
飛行をするイフリートだが、好戦的なためにドンドンこちらに向かってくる。
それを回避と【昇龍の盾】で防ぎながら【昇龍の剣】でイフリートを斬りつけていく。
面白いようにスパスパ斬れていくイフリート。これはストレス解消にはもってこいのダンジョンだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リビングで微睡んでいたらアキくんの部屋に呼ばれる。
真剣な顔のアキくんだ。部屋の椅子に座ったところでアキくんが口を開く。
「ギルド長から奴隷解放について話を聞いてきたよ。良い話じゃない? 僕はこの話は賛成だよ。何でミカは奴隷のままでいたいの?」
この話だったか……。
なんで冒険者ギルドは私達をほっといてくれないのか。
「特に今のままで問題ないから。ただそれだけよ」
私は殊更興味の無い感じで答える。
「それなら尚更奴隷から解放された方が良いよ。僕はミカをパートナーだと思っている。命を預け合う冒険者仲間でもある。以前この件で話した時と違って僕とミカとの間には固い絆がある。奴隷から解放しても何も問題が無いよ」
アキくんは勘違いしている。これは私の本心をぶつけるしかないか。
私は溜め息を一つついて話し出す。
「アキくん、ありがとうね。私の事を考えてくれて。確かに私とアキくんには既に固い絆があると感じている。これは私のわがままなの。アキくんと初めてあった奴隷商会で、隷属の契約の主人をアキくんに変えたわよね。あの瞬間アキくんとの繋がりができたのを感じたの。腕の隷属紋から熱い感情が流れてきたのよ。この熱い感情はアキくんの感情……。その感情が凍っていた私の心を溶かしてくれたの。今でもたまに隷属紋を通して、その熱い感情が流れてくる時があるわ。またこの奴隷の証のチョーカーを触るとその時の感情を思い出させてくれるの」
話しているうちにアキくんから奴隷解放をされる怖さを感じた。
もうなり振りかまってられない。感情の赴くままに行動する。私はアキくんにキスをした。
「私がアキくんの奴隷でいたいのは、私が新しく生まれ変わった証なの。お願いだからその証を私から奪わないで!」
話しているうちに理解してしまった。
私はアキくんに既に囚われている。アキくんが私の全てなんだ。
もう誰かに必要とされたいのではない。ただアキくんだけに必要とされたい。もう代わりはきかないんだ。
アキくんの奴隷から解放されると考えると、自然と涙が溢れてくる。
「ミカ、分かったよ。これからも僕の奴隷としてよろしくね」
この言葉を聞いてホッとしてしまった。
いつもは冗談を言い合っているが、この瞬間は違う。私はアキくんの奴隷だ。それがこの上なく嬉しい。
「了解致しました。ご主人様」
私は自然とアキくんをご主人様と言っていた。
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