第35話 冒険者ギルドボムズ支店

 リンカイ王国南方守護地域の中央都市ボムズ。アクロを出発してから10日目の昼についた。馭者には帰る前の日に連絡すると言って別れた。


 前方にファイアール公爵家の馬車が止まっている。ファイアール公爵家の屋敷はボムズの南門から出て3キロルほど進んだところにある。


 僕が借りている馬車を降りたのは東門だ。ファイアール公爵家までは、まだまだ距離がある。

 シズカが馬車を停めているのも僕達がファイアール公爵家の馬車に同乗すると思っているんだろ。

 シズカが馬車を降りて話し出す。


「どうぞお乗りください。屋敷まで送ります」


 そう言ったシズカを無視して馬車を通り越して歩く。

 びっくりした顔をしたシズカに声をかける。


「後ほどこちらから連絡する。じゃあな」


 「あっ!」っと言葉を詰まらせたシズカを無視して歩き去る。目的地は冒険者ギルドボムズ支部。

 その前に腹ごしらえしてからだな。


 安くて美味い定食屋に入る。僕はミカがいるので焼き魚定食を頼む。焼き魚定食は苦手だったがミカがいるので今は好物になった。


 定食屋を出て冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドは基本街の中央付近にあることが多い。ここボムズでも中央付近に建っている。ついでに冒険者ギルドの向かいにある高級宿に予約をいれる。


 冒険者ギルドにはいると閑散としていた。空いてる時間帯だね。

 受付にギルドカードを見せてからボムズのギルド長に面会を頼む。手が空いていたようで、すぐに面会してくれる運びになった。


 ボムズのギルド長もがたいの良い中年男性だった。がたいの良い中年男性じゃないとギルド長にはなれないのだろうか?


「初めまして、Bランク冒険者のアキ・ファイアールです。急な面会の要請に迅速に応えていただいてありがとうございます」


「冒険者ギルドボムズ支部ギルド長のインデルだ。噂のBランク冒険者だな。【蒼炎の魔術師】」


「本日はアクロ支部のギルド長より手紙を預かっております。ご確認のほどよろしくお願いします」


 そう言ってアクロ支部のギルド長の手紙を渡す。


「その若さでBランク冒険者になったというのに、驕ることなく丁寧に話せるな。感心するよ。それでは読ませてもらうよ」


 じっくりと読んでくれているようだ。頼りがいがありそうなギルド長で良かった。


「なるほど、Bランク冒険者の君を実家のファイアール公爵家が取り込もうと画策しているかもしれないんだな。それに対してしっかりと阻止して欲しいって書いてあるな」


「お恥ずかしい事に私は2ヵ月前に家出をしまして。まだ15歳で成人していないのでファイアール公爵家の干渉を受ける場合がありそうなんです」


「冒険者ギルドは15歳から登録できるが子供のFとかGランクの小遣い稼ぎだからな。15

歳がBランク冒険者になるなんて前代未聞だよ。しっかりとお金を稼げても法律上は18歳からが成人だからな。確かに難癖はつけようと思ったらつけれるな」


「30日前くらいにも呼び出しを受けまして。Bランク冒険者を盾にしてかわしたんですが、面倒になってきましたので、この辺で決着をつけたいと思いやってきました」


「取り敢えず冒険者ギルドとしてはどうすれば良い?」


「まずは私がファイアール公爵家の代表者と会う時に立ち会ってもらいたいのです」


「そんな事はお安い御用だ」


「あとはどのような話になるかわからないので相手の話次第になると思います」


「まぁ交渉事だからしようがない」


「あとは交渉場所に冒険者ギルドを使わせてもらえないかと思いまして。相手の慣れているところで交渉すると不利になりますから」


「それは問題ないな。冒険者ギルドとしてしっかりした交渉を取り仕切る事を約束する。早速相手の予定を聞いて調整するか」


「できればこちらから日にちを指定しちゃってください。明日か明後日にしましょう。それ以降は私がアクロに帰ると言ってください」


「強気の文面と強気の内容だな。その方が君や冒険者ギルドが怒っているとわからせることができるか。分かった。君の連絡先はどこだい?」


「冒険者ギルドの向かいの宿に泊まっています。名前は竜火亭でしたっけ?」


「竜火亭に泊まっているのか!最高級の宿じゃないか。さすがBランク冒険者だな」


 冒険者ギルドを出て竜火亭でゆっくりする。交渉が終わるまで竜火亭で待機しておくか。

 その日の夕方に冒険者ギルドから連絡が来た。交渉の日程は明後日の午前中からに決まった。

 明日はミカと軽くボムズの街をぶらつく事にした。


 朝になってミカとボムズの街をぶらついていたが明日の事が頭から離れず上の空だった。ミカが気を遣ってくれて早々に切り上げた。


 明日、僕はファイアール公爵家の人達と会う。15年間いないものとして扱われてきた。僕は冷静に話す事ができるのだろうか?

 考えていてもしょうがない。明日になればわかるさ。無理矢理そう思いながらミカと過ごした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 会合の当日は予定より早めに冒険者ギルドに行った。

 宿にいても落ち着かないからだ。

 冒険者ギルドの会議室に通される。出されたお茶を飲んでいると、ミカが僕の手を握って口を開いた。


「アキくん。私は何があってもアキくんの味方だから。またアキくんから離れることもないからね」


 強い意志を持った目で見つめられた。


「まぁ最悪はまた家出するから大丈夫だよ」


 軽い調子で言葉を返した。


 少し経つとギルド長のインデルが入室してきた。

 立ち会い人のため議長席に座った。

 僕は軽い挨拶をした。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


「おぉ!優秀なBランク冒険者の君をファイアール公爵家に取り込まれるわけにはいかないからな」


 その言葉を聞いて僕は少し安心した。僕には味方がいる事に気がついたからだ。

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