第25話 着せ替え人形

 お昼過ぎにウォータール公爵家の執事がウチにやってきた。

 宗主のセフェム・ウォータールからの面会要請だ。特に用事はないので何時でも良いと言ったら、それでは2日後の午前中にお願いしますと言われる。迎えの馬車を出してくれるそうだ。


 そういえばサルファ・ウォータールはどうしてるんだろ? ミカの事は諦めたのかな? 気になるから明日確認しよう。


 夕食の時間になりリビングで3人で食事を開始した。

 そういえばナギさんはどうなるんだろ? もうBランク冒険者になったからサポートはなくなるのかな?


「僕はBランク冒険者になりましたが今後ナギさんはどうなるんですか?ギルドに戻るんですか?」


「Bランク冒険者以上の方には冒険者ギルドから専属の職員を付けることになっております。今までは前倒し的に私がサポートさせていただいておりましたが、これからは正式にアキさんの専属になります」


「じゃ今まで通り変わらないんだね。嬉しいな」


「アキさんがアクロで活動している時は全力でサポートさせていただきますので今後ともよろしくお願いします」


 助かったね。ナギさんが作る料理は美味しいからいなくなられると困っちゃうとこだったよ。


「そういえば2日後にウォータール公爵家に行かれるんですよね。礼服を用意する必要がありますね」


「やっぱりそうなるよね。明日買いに行くよ」


 ミカが食い付き気味に口を開く。


「私も行きます。奴隷として主人にはちゃんとした格好をしてもらわないと困るから」


 ミカは僕を着せ替え人形にしたいんだろうな。


「ミカの服も買いに行くよ。ウォータール公爵家には一緒に行くつもりだから」


「奴隷が一緒でも問題ないですか?」


「ミカは僕の護衛でもあるから問題ないよ。先程の執事にも確認しといたからね」


 明日の予定が決まった。反対に僕がミカを着せ替え人形にしてやる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 カーテンの隙間から朝の光が漏れてる。穏やかな朝だな。予定がダンジョンでないと気持ちにも余裕ができる。当分、ダンジョンは良いかな。


 庭に出て剣術の訓練を始める。ミカも既に庭にいて素振りをしていた。

 一通りの素振りの型を終え、木剣に変えてミカと模擬戦を始める。剣術レベルの差があり過ぎて全く相手にならない。日々努力だね。


「ミカ、昇龍シリーズの装備がいっぱいあるんだけどやっぱり売っちゃダメなの?」


「だって知らない人が同じ装備をしているのってやじゃない?お金に困ってるなら売っても良いけど困ってないし…」


「そうなんだけど置き場に困ってね」


「将来的にはクランを作って、それの専用装備にしちゃえば良いのよ。沼の主人ダンジョンはアキくんしか制覇できないから他の人が【昇龍シリーズ】の装備は手に入らないじゃない!」


 ミカは一人で納得した顔をして満足していた。


 朝ごはんを食べてミカと一緒に礼服を買いにいく。お金はいっぱいあるからアクロで一番の高級店に入った。


 すぐに中年の男性店員が愛想良く近づいてきた。僕が話題のB級冒険者と気がついたようだ。

 僕の水色の髪色と年齢、いつも着ている昇龍の装備(深い青色)等が特徴的で分かったのだろう。


「いらっしゃいませ。どのような服を御入用でしょうか?」


「明日、ウォータール公爵家に行くんだけど、それに着て行く服をお願いしたいんだ」


「数点見繕ってきます。色はどのようなのがよろしいでしょうか?」


「僕は髪色が水色だから淡い服の色だとぼやけちゃうよね。やっぱり無難に黒系が良いかな」


「了解いたしました。それではこちらでお待ちください」


 そう言って豪華な応接室に連れていかれた。試着室も備え付けられている。女性の店員がお茶を入れてくれた。


 男性の店員が3着のスーツを持ってきた。その内の一つをミカが気に入りそれに決まった。あとはシャツや靴下、靴などの小物を購入した。

 僕の買い物は終了した。さぁこれからが本番だ。


「明日はこちらのミカもウォータール公爵家に連れて行くんだ。護衛も兼ねるので剣帯をしても問題無い服装で失礼のないように見繕ってくれるかな?」


「了解致しました。スラックスタイプが良いですかね」


「いや、僕の好みはスカートだね。剣帯を装備するから広がり過ぎない膝上くらいのスカートが良いかな。下にレギンスを用意してもらえればスッキリするよね」


「わかりました。上はシンプルなシャツとジャケットにしますか。騎士風にすれば良いかと思います」


 その後、僕は応接室でお茶を飲みながらミカを存分に着せ替え人形にして楽しんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 買った物は全てマジックバックに入れて定食屋でお昼ごはんを食べた。日替わり定食は焼き魚定食だったため、ミカに骨を取ってもらって食べた。


「せっかくだから前に行った武器屋でもいかない?ちょっと気になる魔法杖があるんだ」


「私は素早さを上げてくれる【昇龍シリーズ】に満足してるから装備はいらないけど、暇だから行きましょうか」


 早速、武器屋に行く。やっぱりここは品揃えが豊富だな。

 魔術杖のコーナーに行くと以前相手をしてくれた中年男性が僕に気がついた。


「お、坊主か!いや坊主じゃないな【蒼炎の魔術師】って言ったほうが良いか」


 新しいBランク冒険者の誕生と蒼炎の魔法、僕の外見なんかの噂はアクロで相当広がっているんだな。


「坊主で良いですよ。それよりこないだ買った【黒龍の杖】より魔法の威力を抑える杖は無いですか?」


「どうだろうなぁ。探せばあるかも知れないけど、今はないな。そんなに魔法の威力を抑えたいなんて、お前の蒼炎って威力があるのか?」


「そうなんですよ。それで少し困ってるんですよね。もしそんな杖が出てきたら買いますのでよろしくお願いします」


「おぉ、分かった!任せとけ!」


「あと聞きたいことがあるんですけど」


「なんだ?」


「そこの奥の棚にある【鳳凰の杖】なんですけど、効果が火の魔法の威力を上げるってなっていますがこれは魔法の範囲が上がるのか、攻撃力が上がるのか、どちらなんですか?」


「この【鳳凰の杖】は通常は20セチルほどのファイアーボールの魔法を30セチルほどにするんだ。どちらかと言えば範囲を広げる感じかな。裏の魔法射撃場で試し撃ちするか?」


「魔法射撃場が焦土と化しても良いなら試し撃ちしたいですけど」


「それはさすがに困るなぁ」


「蒼炎の魔法はダンジョン以外では撃たないようにしているんです。一度お借りしてダンジョンで試し撃ちしてきて良いですか?」


「うーん。高価な杖だからなぁ」


「それなら【鳳凰の杖】を3,000万バルで購入させていただきます。それで試してみてイマイチだったら返品対応してもらえないですか?」


「おぉ!それなら問題ないかな。そうだな今日から3日間以内だったら返品対応させてもらうよ」


「それでは【鳳凰の杖】を買わせていただきます」


「あ、そういえば坊主Bランク冒険者になったんだよな。ウチは冒険者ギルドと提携しているから2割引になるぞ」


「そうなんですか。それなら2,400万バルですね。ギルドカードで払いますのでよろしくお願いします」


 大きな買い物をしてしまった。泥ゴーレムをキャリーしてた時にもう少し範囲が広がらないかと思っていたんだよね。


 ダンジョンでの蒼炎の範囲は半径3メトル、直径で6メトルだからこれから大型の魔物のドラゴンとかと戦うことを考えて蒼炎の範囲強化はあったほうが良いね。

 早速、明日の午後にでも試し撃ちしてみよう。

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