第5話 奴隷購入

 朝に寝て朝に起きる。丸1日寝ていたようだ。顔を洗って一階の食事処でご飯を食べる。今日は奴隷を見に行こう。


 アクロの西門から東門までの道路は中央通り、北門から南門の道路は大通りと呼ばれている。

 冒険者ギルドは中央通りの西門側、カンナギ奴隷商会は中央通りの東門側にあるとのこと。


 夜中に活動していたため久しぶりの日中の日差しが気持ち良い。

 カンナギ奴隷商会の場所はすぐにわかった。店構えが周りの商店の倍はある。白色の煉瓦造りが清潔感を与える。

 中には中年の恰幅の良い男性がいた。


「こんにちは」


「いらっしゃい。格好からすると貴族じゃないよね。悪いけどここは子供が来るところじゃないんだよ」


「あ、冒険者ギルドで紹介状を書いてもらいました。こちらになります」


 そう言って紹介状を男性に手渡した。


「びっくりしたね。この歳で冒険者ランクDなのか!それならお客さんになるね。これは失礼した。私は商会長のパウエルだ」


「アキと申します。奴隷の購入をしたいのですが見せてもらえますか?」


「あぁ問題ない。奴隷の種類は知ってるかな?」


「犯罪を犯した犯罪奴隷、借金が払えなくて身売りした借金奴隷、戦争で奴隷になった戦争奴隷ですよね」


「それで間違い無いね。どのような奴隷を御所望かい?」


「戦闘ができる奴隷が欲しいんです。前衛で出来れば盾役かな」


「さすがDランクの冒険者だね。それならば良い奴隷がいるよ。ガンダス帝国の戦争奴隷だね。今年の春の戦争で捕虜になったんだけど身代金が払われなくて奴隷になった騎士がいるね。地下にいるから見てみてよ」


 パウエルのあとに続いて地下に降りて行く。1つの部屋に4人ほどの奴隷が入れられている。4つ目の部屋の前でパウエルが止まった。


「ミカ! お客さんだ! こっちに来い!」


 一番奥にいた黒髪の女性がこちらを向く。切長な目、鼻筋が綺麗に通ってる。唇の厚さもバランスが良く、はっきり言って綺麗な女性だった。白色のワンピースタイプの簡易服を着ている。


 ミカと呼ばれた女性は無表情のまま立ち上がり、こちらに近寄ってきた。身長は平均の女性より高めのようだ。(僕より少し高い)


「ミカ! お前は相変わらず無愛想だな。少しは笑顔ぐらい見せろ!」


「………。」


 ミカはパウエルの叱責にも無表情、無口で通す。


「アキさん、こいつはミカ・エンジバーグ。帝国のエンジバーグ公爵家の長女だ。さっきも言ったとおり、身代金を家から払ってもらえず戦争奴隷になった女だ」


「貴族なら魔法は使えるのでしょうか?」


「黒髪でエンジバーグ家だから防御系の魔法が使える」


「防御の魔法が使えるなら良いですね。だけど予算がオーバーしそうです」


「それがね、この奴隷は帝国のエンジバーグの長女だから貴族連中が怖がって買わないんだよ。帝国貴族の中でも戦争強硬派の武闘派のエンジバーグ公爵家でしょ。みんな睨まれたくないみたいでね。今なら80万バルで売りますよ」


「うーん。パウエルさんも早く売りたいんですよね。50万バルでどうですか?」


「50万はキツいなぁ。装備も付けるから70万バルでどうだい?」


「了解しました。それでお願いします」


 ミカを連れて一階の応接室に移動した。

 パウエルはテーブルの上に魔法陣がかかれた紙を広げる。


「隷属の魔法の主人を変えるから血を一滴こちらの魔法陣に垂らしてください」


 指に針を刺し、血を一滴垂らす。パウエルが呪文の詠唱を始める。


【汝はこの血によって新たなる主を得るものとする。縛鎖荊!】


 ミカとの間に何かしらの力が繋がった感じを受けた。主人の書き換えが終了したみたいだ。


「これで主人の書き換えは終了です。戦争奴隷のため特に制約は無いです。何か質問はございますか?」


「大丈夫です。また何かありましたらよろしくお願いします」


「こちらこそ優秀な冒険者様とは縁を長く持ちたいですな」


 支払いはギルドカードをオーブに接触させて済ませた。

 ミカの着替えが終わりカンナギ奴隷商会を出た。

 ミカの装備はライトアーマーに片手剣、それにカイトシールドだった。盾役が欲しいって言ったから盾はしっかりしたのにしてくれたのかな。


 ミカに話しかけてみる。


「お腹は空いてない? 少し早いけどお昼ご飯にしようか?」


「………。」


「返事が無いなら肯定とみなすね」


「………。」


 そう言って近くの定食屋に2人で入った。

 中年の女性がカウンターの奥にいた。


「いらっしゃい! 注文は?」


「僕は日替わり定食かな。ミカは何にする」


「……。同じで」


 やっと声が聞けた。少し嬉しくなった。

 カウンターの奥に聞こえるように注文する。


「日替わり定食2つお願いします」


「はいよ!」


 改めてミカを見る。長めの黒髪をポニーテールにしている。切長な目と鼻筋が綺麗に通っている。唇の厚さもバランスが良い。見つめていると吸い込まれそうな瞳。帝国の上級貴族のため所作にも品を感じる。


「まずはお腹をいっぱいにしてから宿を取ろうか。僕はまだ冒険者ギルドの宿泊施設を使っているんだ。そろそろ移ろうかと思っていたからね」


「………。」


「本当に喋らないんだね。まぁ良いか。宿についたらいろいろ話そう。まずは腹ごしらえだね」


 笑顔で話しかけるがミカの反応は無い。ちょっと心が折れてくる。

 日替わり定食を食べ定食屋を出る。

 中央通りを冒険者ギルドに向かって西に歩く。ミカは歩いている時も全く口を聞かない。

 会話の無いまま冒険者ギルドに着いた。


 冒険者ギルドの受付でいつも応対してくれる職員がいた。


「宿に移ろうと思うんですけどお勧めの宿はありますか?」


「それならば北区にある安らぎ館がお勧めですよ。価格も手頃ですし、ご飯も美味しいですよ」


「ありがとうございます。それではそこに行ってみますね」


「中央通りから大通りを北に曲がってすぐだからわかりやすいと思いますよ」


 ミカの無表情に気疲れしていたのか女性職員さんの笑顔に癒されてしまった。


 冒険者宿泊施設に残していた私物を持って安らぎ館に向かった。

 中央通りから大通りに入ってすぐに安らぎ館は見つかった。4階建てのシックな建物だ。


 部屋はシングル2部屋で一泊5,000バルだった。

 まぁこのくらいなら大丈夫だろう。食事は一食です400バル、身体を拭くお湯は無料だ。


「ミカ取り敢えず装備外したら僕の部屋まで来てね」


「………。」


ミカは何も言わずに自分の部屋に入っていった。

「ハァー」っとため息をついて僕は自分の部屋に入った。

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