第四十七話「ロックブラウン」
ライズ王国に入国した僕たちは、馬車に乗ってライズ王国中央部にある王都までやってきた。
なぜ王都にやってきたのかといえば、情報収集のためだ。
スナイデル団長から聞いた話によれば不法入国したブラックポイズンの冒険者は迷宮探索をしているという話だったが、ライズ王国内には迷宮が各地に点在しているため、どこの迷宮を探索しているのか分からない。
まずはブラックポイズンの冒険者が、どこの迷宮に入ったのか情報を集めるべきだ。
そのために一番情報が集まるであろうライズ王国の中心地である王都にまでやってきたのである。
そして、行先は既に決まっている。
冒険者の情報を得るのに一番適した場所は当然、冒険者ギルドである。
「ロック……ブラウン?」
ハンナが目の前の建物の看板を見て首をかしげていた。
目の前にはごつごつした岩でできた大きな建物が
大きさだけでいえばブラックポイズンの事務所よりも大きい。
「ここがライズ王国で一番大きな冒険者ギルド『ロックブラウン』だよ。
まずは、ここで情報収集だ」
そう言って、僕はギルドに入った。
中に入ってみると、沢山の冒険者で賑わっていた。
受付には多くの冒険者が並んでいるし、掲示板の前では依頼を吟味している冒険者も多くいる。
まだ昼だというのにギルド内に並ぶ机で酒を飲んでる冒険者までいる。
冒険者で溢れている大ギルドといった印象だが、ギルド内は何やら喧騒で溢れていた。
「例の魔神の情報はねえのか!?」
「俺は西の転移迷宮の最深部にいるって聞いたぞ!!」
「ええ!?
私は東の天空迷宮の最上階にいるって聞いたわよ!!」
「聞いた情報なんて当てになるわけねえだろ!
誰か魔神を自分の目で見たって奴はいねえのか!
もし噂の魔神を他国の冒険者に先に仕留められたら、俺らの面目丸つぶれだぞ!
死ぬ気で探せ!!!」
ギルドの中心で喧嘩でもするかのように叫び合っている冒険者の声だった。
聞くところによれば、噂の魔神を探しているようだ。
まだ見つかっていないのだろうか?
僕とハンナがギルドの入口で冒険者達の喧騒をぽかんとしながら眺めていると。
「ん?
あんた、見たことある顔だね。
確かブラックポイズンの……」
喧騒の輪に入らず、机で一人お酒を飲んでいたお姉さんが酒瓶を片手に話しかけてきた。
大きな胸にビキニの水着を着けて、下はだぼっとしたサルエルパンツを履いている、スタイルの良い褐色肌のお姉さん。
いくらライズ王国の気温が高いとはいえ、露出の激しい人である。
確かこの人は……。
「ブラックポイズンだと!?
お前らはライズ王国を出禁になってるはずだ!!
去年あんなことをしておいて、何しに来やがった!!」
お姉さんの声に反応して、ギルドの中心で一番大声で叫んでいた大柄の男が僕の方にづかづかとやって来て掴みかかろうとしてくる。
すると、お姉さんが男に酒瓶を持っていない方の手を向けた。
「やめな、みっともない。
お姉さんがそれを口にした瞬間。
お姉さんの指から拳サイズの岩が生成され、僕に掴みかかろうとしてきた男めがけて勢いよく真っすぐに飛ぶ。
そして飛んだ岩は男の顎に命中し、男はその場に倒れ伏した。
その一瞬の出来事に、先ほどまで喧騒に溢れていたのが嘘だったかのようにギルド内は静かになった。
隣でハンナも口に両手を当てて驚いている。
「ありがとうございます、パストリカさん」
僕は、岩の魔法で男を一瞬で気絶させた目の前のお姉さんに感謝の言葉を告げた。
彼女の名前は、パストリカ・バッキーニ。
ライズ王国で一番大きい冒険者ギルド『ブラウンロック』のギルドマスターである。
岩の魔法を放ったことから分かる通り、彼女は魔法使いだ。
ライズ王国一の魔法使いとして評判で、冒険者ランクもA級の実力者である。
今の攻撃も当たり前のように行っていたが、高等技術である詠唱破棄をした上で、正確な狙いのもと、必要以上にダメージを与えないよう岩の大きさを調節して攻撃していた。
それらを一瞬のうちにまとめて行ったのはもはや神業的所業であり、パストリカさんの魔法が相当洗練されていることが分かる。
「はは。
若い子に褒められると悪い気はしないねえ。
確か名前は……コットだったっけ?
迷宮に一人で潜って、とんでもないスピードで迷宮攻略するボルディアの使いっぱしりの若いギルド職員がいるって一時期話題だったから、よく覚えてるわ」
そう言ってにへらと笑うパストリカさん。
確かに僕は、ブラックポイズンがライズ王国を出禁になるよりずっと前に、ライズ王国の迷宮に一人で潜っている時期があった。
五年ほど前だ。
ボルディアにライズ王国の迷宮に行って迷宮内の地図を作ってこいと命令されたのである。
それから何度も死にそうな目にあいながら半年かけて計二十の迷宮の地図をマッピングしたのも、今では良い思い出である。
しかしまさか、あのときの活動がロックブラウンのギルドマスターであるパストリカさんにまで知れ渡っていたとは。
あのときは死にものぐるいで仕事をこなしていたから周りが見えていなかったが、いつの間にか目立っていたらしい。
すると、パストリカさんはテーブルに持っていた酒瓶を置いた。
「それで?
何をしに来たんだい?
あんたはブラックポイズンの職員だったはずだから、ライズ王国には入国してはいけないはず。
もし理由なく入国しているのなら、あたしは不法入国しているあんたを捕まえなければならないんだけど?」
言いながら、僕に指を向けるパストリカさん。
僕が何か変なことを言えば、すぐにでも先ほどと同じ岩が物凄いスピードで飛んでくるだろう。
僕はすぐに両手の平を上げた。
「落ち着いてください、パストリカさん。
僕はもうブラックポイズンの職員じゃないです。
ビーク王国の東区に『ホワイトワークス』という冒険者ギルドを新設しまして、今はそこでギルドマスターをやっています」
僕が弁明すると、パストリカさんは目を丸くした。
「ホワイト……ワークス……?」
僕と数瞬見つめあった後、パストリカさんは僕に向けていた手を下げた。
そして、テーブルに置いていた酒瓶を再び手に取る。
「なるほどねえ。
ソロで迷宮を踏破できる噂の若き天才が、ついにボルディアの束縛から離れて新しい冒険者ギルドを作ったってことかい。
ふふ。
面白いね!
じゃあギルドマスター同士、話でもしようじゃないか!
ボルディアの悪口なら大歓迎さ!
誰か、追加の酒を持ってきてちょうだい!!」
パストリカさんは急に元気になって、僕をテーブルの方へと手招きしてきた。
「え、ええと……。
じゃあ、お言葉に甘えて?」
僕は急な歓迎に戸惑いながらも、パストリカさんと同じ席に着いた。
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