第4話 愛する者には駄馬を教えよ―4

 リサンのとりなしで、知人として接してもらえることになった王子。

 リサンに耳元で『この件を国王ちちおやにバラす』と言われ、身分を明かすこともできない王子は、山の生活に憧れる辺境貴族<ラクス>として二人に紹介された。


「へえ~貴族様なのですか? もしかして、ここの領主様と知り合いで?」


「ああ、ララ・トーラ子爵は、顔を合わせば良くしてくれるな」

 ラクスは、ルモンド山のふもとの町トーラにある子爵の別荘を、王子の特権でその息子から借りている。

 トーラ子爵本人が、国外で遊び呆けている為、顔などこの数年見ていないし、会っても話などしないのだが、『仲は良くはない』とも言えず、『それなりに仲が良い』と説明したラクス。


「おお! そうなのですね!」

 気色ばむロウ。


「あっ、そう」

 素っ気ないフェリ。


 『商売に結びつくかも』と考えるロウと『距離を置きたい』と思うフェリ。二人の態度は対照的だ。

 フェリに好かれないラクスは不満顔であるが、二人共に嫌われていた先程より『随分マシ』だとリサンは思う。


「ラクス様。何か必要なものがあれば我が『ロウ商会』をよろしくお願いいたします。ラクス様の担当としてフェリを付けますので」


「ちょっと! 父さん娘を商売の為に差し出す気なの!!」

 娘をエサに、ラクスを釣ろうとする父に抗議するフェリ。


「おおっそうか! ならば私の専属商人として王宮に……」

 リサンの鋭い視線に気づき口ごもるラクス。


「王宮ですか?」

 首を捻るロウ。


「い、いや私は王宮でも仕事をするからな、王宮にも出入り出来るように取り計らうとの意味だ」

 急いで取りつくろううラクス。


「そ、それは是非ともお願いします! リサン様がやめてしまい夢の王宮入場証をあきらめてましたから!」

 リサンは苦笑しながら、ラクスが口を滑らさないように補足した。


「王宮入場証の発行はオラクスウェル第一王子の所管ですね。私も懇意にしてもらってますから、それとなしに口添えしておきますよ」

 ラクスに向かって片目をつむるリサン。


「お、おう! そうだな、そうしてやってくれ」

 顔を引きつらせながら答えるラクス。

 ホクホク顔のロウに、仏頂面のフェリ。三人の顔を見て(三者三様だな)と思うリサンはロウの為に馬の鑑定法を紙に書く。


「はい、これがロウに合った馬の鑑定法だ」

 リサンが書き終えた紙を差し出した。


「私に合った? どれどれ……」

 ロウは渡された紙をじっくりと読み進める。しかし、それを横からのぞき見していたフェリが突然席から立ち上がった。


「どういうことよ! これ駄馬の鑑定方法しか書いてない!」

 リサンに詰め寄るフェリ。その様子に後ろから覗いていたラクスも渋い顔だ。


「これは確かに私にくれた名馬の鑑定法とは全くの別物だな。本当に駄馬の特徴しか書いてない」

 それを聞いてフェリは怒った。


「この山賊貴族には教えて、商人の父には教えないって事なの!? やっぱり貴族は特別で、平民は差別をするのね!!」

 険しい顔でリサンを睨みつけるフェリ。リサンはすました顔で水を飲み答えない。


「グッ! この!」

 リサンにつかみ掛かろうとするフェリ。


「やめんか馬鹿者!」


「えっ?」

 その娘を叱りつけたロウ。機先を制されほうけるフェリ。

 ロウは何とか止まったフェリを見て一息つくと、フェリを諭した。


「よく考えろ。私が名馬の鑑定法を知ってどうする? 私には名馬を買う金はないのだぞ? それよりも駄馬と思われ安くなっている馬から、消去法で普通の馬を探して安く買える方がありがたいのだ」


「あ……」

 ようやくリサンが意図することを理解したフェリ。あわてて『ごめんなさい』と頭を下げる。


「いや、わかってくれたのだろ? なら問題ない」

 リサンは反省するフェリに『ニッコリ』と笑うのだった。







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