第3話 とんでもスキルとちょっとした仕返し

 完全に伸びてしまった男たちを無視してイオに確認する。


「イオ、お前、使えるスキルは無いって王宮で……」

「あそこは守護獣ビーストがいなかったにゃ。守護獣ビーストがいないとスキルは貰えないにゃ。

 今のはあの守護獣ビーストから貰ったスキルを使ったにゃ」

「今のは突進スキル?」

「そうにゃ!ぶつかったら、吹っ飛ぶにゃ!」


 イオの小さな体でもあんな威力だなんて……男の守護獣ビーストは強いスキル持ちだったようだ。


「あの……助けて頂き、ありがとうございました 」

「あ、忘れてた」


 イオがスキルを使ったことに驚いて、女の子がいたことを忘れていた。


「大丈夫?俺はレオ。こいつは俺の守護獣ビーストでイオだ」

「私はフェイジュン、ラカータ族のものです」

「ラカータ族ってなににゃ?」


 イオが首を傾げた。


「ふふ、各地を転々とする遊牧民族です。守護獣ビーストに乗って移動するので騎馬族ともよばれています」

「フェイジュン!」


 ムキムキの大男がやってきた。フェイジュンの知り合いのようだ。


「レオさん。私の守護獣ビーストのタイタンです」


 タイタンが俺を見て頭を下げた。

 その後、伸びてる奴らと、タイタンが背負っていた男の仲間を一緒に拘束した。


「フェイジュン無事か?速度スキルを使われて手間取ったが、奪い返したぞ」


 タイタンがキラキラしたボールのようものを見せた。


「魔物狩りの証拠?」

「はい。魔物のコアです」

「初めてみた」

「キレイだにゃ」

「魔物狩りをしなければ一生見ることはありませんからね」


 そう言ってフェイジュンが、コアを魔法陣の描かれた袋へとしまった。

 あれは知っている。コアが暴走しないように封印するものだ。


「騎馬族たちが魔物狩りをしてるって本当だったんだな」


 俺が感心すると、タイタンが不満そうに話した。


「王国がムチャなノルマを出したせいで、騎馬族同士で成果の奪い合いが始まった。いい迷惑だ」

「ラカータ族の他にも騎馬族はいるのにゃ?」

「いくつかあります。あの男もどこかの騎馬族のようでした。

 ノルマが達成できなくて、焦っていたのでしょう。どこもみんなヘトヘトですから……」


 フェイジュンは辛そうに答えた。


「ノルマを達成出来ないとどうなるにゃ?」

「街にしかない野菜や、お薬が買えなくなったり、街へ入る通行料が上がります。

 王国の発展した技術は、私たちにもなくてはならないものですから。特にお薬が買えないと、とても困るのです」


 知らなかった……そんなに大変なことになるのか。

 自分の国の闇を見てしまった気がした。


「タイタン?さっきから俺の顔を見てどうした?」


 実はずっと、タイタンから視線を感じていた。


「お前、さっき貴族に悪口言われた奴だろ?」

「うっ!?」


 嫌なところを見られていた。


「あいつら!ご主人をバカにしたにゃ!許せないにゃ!」


 ムキー!とイオが思い出して怒り出した。

 毛が逆立ったシッポが、ピンッと立っている。


「なるほど。フェイジュンを助けてもらったお礼と言ってはなんだが、手伝うぞ」


 タイタンは大きな黒馬になった。その上にイオが飛び乗る。


「ご主人!ちょっと行ってくるにゃ!」

「イオ!行くってどこに!?」

「仕返しにゃ!!」


 そう言ってイオはさっそうと走り去った。

 ……主である俺を置いて。


「…………」

 そわそわそわそわ。

「…………」

 そわそわそわそわ。


 俺を見かねたフェイジュンが口を出す。


「そんなにソワソワするなら、見に行けば良いのでは?」

「いや、フェイジュンを一人にするわけには……」

「!」


 拘束したとはいえ危ないだろう。

 フェイジュンは何故か顔を真っ赤にした。


「わ、私は、だ、だだ大丈夫ですので!!」

「大丈夫じゃなさそうだぞ」


 ドカーンッ!!!


「なんだ? イオか!?」

「大通りの方です!一緒に見に行きましょう!」


 フェイジュンと音がした方へ走って行くと、すでにアルベルトと貴族の男の子が伸びていた。

 馬車は無事だったので、馬車から降りたところを狙ったらしい。

 イオとタイタンを探すと、アルベルトたちから離れたところに隠れている。

 貴族相手に攻撃をしたから当然か。

 俺が来たのを見て、ふたりともガッツポーズをした。


「タイタン、さすがです!」


 フェイジュンもガッツポーズをしていた。

 さっきまで、俺なんて……とやさぐれていたのに、俺のことで怒ってくれる人を見て、嬉しさが込みあげてくる。

 そして気絶したアルベルトのマヌケ面を拝めて気持ちがいい。


「ご主人ー!仕返ししたにゃ!」


 飛びついてくるイオを受け止めて、よしよしと撫でてやる。


「ありがとう、イオ」

「当然だにゃ」

「スキルが使えない……」


 離れたところにいたアルベルトの守護獣ビーストが呆然としている。


「ついでにスキルも貰ったにゃ!!」

「さすが俺の守護獣ビースト!」

「うにゃにゃにゃ!」

「騒ぎが大きくなる前にさっさと逃げよう」

「そうですね」


 俺の提案にフェイジュンが同意した。

 一度だけ、アルベルトを振り返る。

 “スキルを持たない守護獣ビースト持ち”のレッテルで、せいぜい苦しむがいい。


「アルベルト、これからお前には俺が受けた苦痛を味わってもらおう」


 そうして俺たちは、その場を後にした。

 さっきの路地裏へ戻ると、男たちが起きていた。


「申し訳ありませんでした!!あまりにもノルマが多くて!つい魔が差しました……」


 拘束されたまま頭を下げる男たち。


「ノルマって何体討伐するんだ?」


 好奇心で尋ねた。

 魔物は強いから、王国の騎士団でもようやく1体討伐出来るくらいだと聞いている。

 だから俺の元父親が持つような、強いスキルの守護獣ビーストが求められているのだ。

 

「うちは月50体です」

「50!?」


 想像以上のクソノルマだった。


「そんなの無理だろ!」


 俺が驚くと男たちもうなずいた。

 なるほど、コアの奪い合いが起こるわけだ。

 フェイジュンが俺を見つめる。


「レオさん、彼らを許してあげたいのですが、良いでしょうか?

 騎馬族はみんな苦しんでいるのです」

「たしかに50体討伐はノルマが酷すぎる。

 反省しているようだし良いんじゃないか?」


 タイタンが拘束を解く。


「ありがとうございます!」

「ありがとうございます。……それで俺のスキルは……」

「そっか、イオが奪ったままだな……」


 スキル無しの守護獣ビーストなんて何もできない。

 魔が差したとはいえ、元はと言えば王国のせいだ。

 俺と同じように苦しむなんて可哀想すぎる。


「じゃあ、返すにゃ」


 イオが男の守護獣ビーストに手をかざした。

 男の守護獣ビーストがほわんと光ってから、驚いたように声を上げた。


「スキルが戻った!」


 試しに突進して、周りのものを蹴散らす男の守護獣ビースト

 男も自分の守護獣ビーストにスキルが戻ってホッとしていた。


「スキルになら何でも出来るにゃ!」


 えっへんと胸を張るイオ。


「スキルを自在に操るなんて反則だろ」


 俺はイオの恐るべき力にただただ呆然としていた。



 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。 

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