第37話 いつか必ず訪れる未来があるんだもの
【温泉宿 グレイとアリシアの部屋】
伝説の妖刀を手に入れ、旅館へと戻ってきた後。
湯冷めした体を温めるべく、もう一度溫泉に入る事となった。
そしてそれから、泊まる部屋へと戻ったんだが……
「あらあら、すごいわね。思っていたよりも太くて長いわ……」
「ツンツンしてもいーい? それとも、撫でちゃおっかなー」
アリシア様とフランチェスカ様が、俺を間に挟みながらクスクスと笑う。
そしてその手は……アレへと伸ばされていた。
「しかも、こんなにカチカチ……」
「こんなので突かれたら、一発でイッちゃうよぉ」
「……いや、あのですね」
俺の耳元で、どことなく卑猥な雰囲気で語る二人に……俺はツッコミを入れる。
「それ、妖刀を触りながら言うセリフじゃないですって」
「「えー」」
そう。この二人が先程から弄り回しているのは、さっき洞窟から手に入れてきたばかりの妖刀である。
「しかし、妖刀という割には普通の刀ですね」
鞘から引き抜いて刀身を見てみるが、これといった特徴もない。
とはいえ、俺はどちらかというと両刃の刀しか扱った事がないので、刀に関する知識は薄いんだよな。
俺には分からないだけで、本当は物凄い名刀なのだろうか。
「取り憑いていたっぽい奴も倒してしまいましたから。ですが、私の見る限り……この刀はとても素晴らしいように思います」
「へぇ、やっぱりそうなんですか?」
「はい。手にした者は死ぬという言い伝えもありますが、呪いの元凶が消滅したのなら問題もないでしょう」
「「「そういうのはもっと早く言え!!」」」
さっきからイブさんが頑なに触れようとしなかったのはそれが理由か。
案外、彼女も怖がりなのかもしれない。
「まぁまぁ、よいではないですか。このレベルの刀があれば、グレイ君の力はより一層増すと思いますよ」
「……ならいいんだけど。グレイ、その刀で大丈夫そうかしら? 不満なら、もっと別の剣を用意するけど」
「……いえ、重さもいい具合ですし、この刀を使います」
それに、この刀の強さを証明し続ける事で多少なりとも……あの刀鍛冶さんへの手向けになればいいと思うんだ。
「いーなー。刀使いの騎士なんて滅多にいないし、姉様ってば学院で目立ちまくれるよー」
「ふんっ、別に目立ちたくなんかないわよ」
「学院……そうか。アリシア様は学院に復学なされるんでしたね」
そして騎士である俺も一緒に登校する必要がある。
大勢の貴族達が通っている……王立魔法学院に。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。別に他の連中と関わる必要もないし」
「それは、そうかもしれないですけど」
俺としてはアリシア様が【氷結令嬢】という悪名で呼ばれている現状をどうにかしたいと思っているわけで。
叶うなら、どうにかファラ様やリムリス様のようなご友人を増やせるように……
「チッチッチッ! ダメだよ姉様。継承順位を上げる為にも、地固めをしておくのは大切なんだから。少しでも仕える下僕を増やさないと」
「下僕……そうね。勢力は広げるに越した事がないわ」
「そうそう! だからさ、早速だけどアレにグレイを出場させちゃおうよ!」
「……アレにグレイを?」
……アレ? アレとは一体なんの事だろうか。
フランチェスカ様の口ぶりからして、学院内での何かっぽいけど。
「たしかにワタクシも……それは考えたわ。でも、流石にまだ早すぎるでしょう?」
「えー? お兄さんなら大丈夫だと思うけどなぁ。手に入れたばかりの妖刀をお披露目する機会だし!」
「とにかく、この話は終わりよ。グレイも……気になるでしょうけど、いずれ話すから今は忘れておいて」
「はぁ……分かりました」
なんだかよく分からないけど、アリシア様なりにお考えがあるんだろう。
俺は特に追求する事もなく、大人しく頷いておく。
「さぁ、話は終わりよ。ワタクシとグレイはもう寝るから、貴方達は自分の部屋に戻りなさい」
「うぇー!? それはないよぉアリシア姉様!!」
「そうです!! 私達も一緒に寝させてください!」
部屋から追い出そうとするアリシア様に対し、猛反論を始める二人。
「は? どうしてそうなるのよ?」
「当然じゃん! フランちゃん達は伯父様の命令で、姉様達を監視に来たんだからさ!」
「私達が見ていなければ、お二人は……それはもう、えげつない(ピーッ)をするに決まっています。なんてうらやま……けしからん事を!!」
徹底抗戦だと言わんばかりに、二人は俺の右腕と左腕にそれぞれしがみつく。
それを見て、アリシア様のこめかみの血管がピクピクと動き出す。
「……覚悟は出来ているんでしょうね?」
「うるさぁーい!! こればっかりは譲れないもん!!」
「そうです! アリシア様は普段からグレイ君と一緒にいられるではないですか! たまには私達にも美味しい思いをさせてください!」
「…………」
黙り込むアリシア様。
マズイ、このままだとアリシア様が再びデビル化してしまうかもしれない。
「あの、離れてください。俺はやっぱり……」
「いいわ。この部屋に泊まりたいなら、好きにしなさい」
「「「えっ!?」」」
まさかまさかの、アリシア様からのオーケー宣言。
許可が貰えると思っていなかっただろう二人はともかく、俺までつられて驚きの声を上げてしまった。
「どうせ追い出して部屋に鍵を閉めても、イブがいるなら無意味だもの。それなら、条件付きで泊まらせた方が得だわ」
「うわーい! ありがとぉー! 姉様、だぁいすき!」
「ですが、その条件というのは……?」
「グレイとワタクシは同じ布団で寝るわ。というより、ゲベゲベがいないから……グレイを抱っこしていないとワタクシは眠れないの」
ああ、それは前にも言っていた事だな。
ただまぁ、ただアリシア様に抱きつかれて眠るよりは……近くにフランチェスカ様達がいてくれた方が、俺の理性も持つかもしれない。
「ぶぅー! 姉様だけずるーい!」
「条件が飲めないのなら……そうね。貴方達をまた氷漬けにして夜を明かすだけよ」
呟いた直後、アリシア様の髪がふわっとたなびき……周囲の温度が下がり始める。
「「文句はありませーん!!」」
その恐ろしさが身に沁みている二人はすぐに降伏。
むしろ問答無用で凍らされなかっただけでも、御の字といったところだろう。
「そう。なら、そういう事で。寝る準備をしましょ」
「は、はい……」
スタスタと寝室に向かうアリシア様を、俺は慌てて追いかける。
一応、ちゃんとフォローはしておかないと。
「あの、アリシア様。すいません、俺がしっかり断らないから……」
「ううん、いいのよ。イブはともかく、貴族のフランチェスカを拒絶するのは心苦しいでしょうし」
「でも、俺はやっぱりアリシア様と……」
「ふふっ、そんなに思い詰めた顔をしなくても大丈夫。どっちにしても、あの子達の乱入のせいで……この旅行はすでに台無し気味だし」
「それはそうですが」
「だからね、二人きりで過ごす夜は……また今度にしましょ。焦らなくても、確実に訪れる未来なんだから」
パチンとウインクをしてから、アリシア様は俺の手を握ってくる。
指と指を絡め合う、恋人同士の繋ぎ方だ。
「それと、一つだけ言っておくけど。邪魔者がいるからって、ワタクシは手加減なんかしないわよ」
アリシア様に手を引かれるように、俺とアリシア様は布団の上にボフンと倒れ込む。
この体勢は俺がアリシア様を押し倒しているような形だ。
「グレイ……おいで♡」
布団の上で両手を広げ、俺を誘うアリシア様。
俺は彼女の誘いに応じるように、彼女の上に覆いかぶさった。
「あんっ……おもぉい♡」
「す、すみません」
「ううん、違うの。これは幸せな重みだもの」
ぎゅぅぅぅぅぅぅっと、俺の背中と足に絡みついてくるアリシア様の両手両足。
完全にホールドされて密着した状態で、俺はアリシア様の柔らかすぎる体の感触を堪能する。
「あはぁっ……♡ グレイの匂いだぁ」
一瞬にして甘えん坊モードのスイッチが入ったアリシア様が、俺の首に口元を埋めてスンスンと匂いを嗅いでくる。
うぅっ、それはちょっと恥ずかしいです。
「ああああああああああああああっ!! なんかいつの間にか盛ってるぅー!!」
「ほんの一瞬目を離した隙に……!!」
遅れて寝室に入ってきた二人が、不満げに声を張り上げるが。
アリシア様はもはや止まらない。
「ちゅっ、ちゅちゅ……ちゅーうっ!」
「フランちゃんも負けないんだからー!!」
「ここで負けるわけにはいきません!!」
「おわっ!?」
アリシア様に抱きつかれて身動きの取れない状態のまま。
三人の美少女達によって、俺の体がベタベタと触られていく。
「みぎみみにぃ、かぷーっ!」
「ひだりみみに……かぷっ!」
「ちゅっちゅっちゅちゅー!!」
「あっあっあっあっあーっ……!」
決して、欲望を爆発させてはいけない状況の中。
世界最高クラスの美少女達が、俺の体を弄んでくる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
俺の天国のような苦しみは、まだ始まったばかり。
この苦しみから開放されるのは、この美少女達が疲れて眠る時まで訪れない。
だが、俺は確信していた。
彼女達は決して、朝が来るまで眠る事はない。
そしてその予想は……しっかりと現実のものとなったのだった。
【とある貴族の屋敷】
グレイがアリシア達による快楽拷問を受けている頃。
リユニオール郊外の屋敷で、一人の青年が夜空の月を眺めていた。
「……例の話は本当だったのかい?」
「はい。来週から復学されるようで」
「ああ、やっとだね」
後ろに控えている初老の執事の返事を聞き、青年は笑みをこぼす。
そして再び、夜空を見上げ……熱の入った吐息を漏らす。
「はぁ……君にまた会えるのが待ち遠しいよ。何せ、ボクと君は運命で結ばれた恋人同士なのだから」
「……」
初老の執事がスッと、一つの映像水晶を差し出す。
そこに映し出されているのは……アリシア・オズリンド。
「ボクの愛しい【氷結令嬢】よ。さぁ、今度こそ永遠の愛を誓い合おうじゃない……くくっ、はははっ……アーッハッハッハッハッハ!」
男は笑う。
もうじき再会出来る愛しいアリシアとの、輝かしい未来を想って。
だが、彼は何も知らない。
今頃その愛しい相手が、世界で一番大好きな男の子を全力で抱きしめながら全身にちゅっちゅを繰り返しているという――揺らぎない事実を。
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