19話 お嬢様と添い寝02

 

 練習後、安野三原さんがお風呂に入ってる間にさっき教えてもらったことを復習していた。

 参考がてらネットでバスケの映像を見ていたら、あるプレーが目に入る。


「これがダンク、シュート……」


 鍛えあげられたその体躯がリング向かってボールを叩き込む姿に目を奪われていた。

 バスケってこんなことしてもルール違反にならないのか。


「……暇つぶしにちょっとだけ。いいよな」


 自分で興味を持ったなんて知られたら小っ恥ずかしいから、こっそりボールを手に取って庭に出る。

 ライトを点けて、ゴールを見上げた。


 俺の身長ならきっと行けるはず。

 トラベリングにならないよう1.2のリズムで踏み込み、リングに向かって飛んだ。


「……っ!」


 やけにボールを重く感じる。

 リングに向かって手を伸ばせば伸ばすほど、その重さが響いてきて、結局映像のような派手なダンクができるはずもなく、リングギリギリのところで届かなかった。


 イメージが足りないのか?

 映像だともっと高いところから一気にリングへ叩き込んでいたし……。

 俺がゴール下で熟考していたら家の中から声が聞こえてきた。


「忠邦〜、忠邦〜?」


 やばっ、安野三原さんだ。

 せっせとライトを消してボールを縁側の下に隠した。


「あら忠邦、お庭に居ましたの? お風呂、お先にいただきましたの」

「う、うん」


 庭で不自然に棒立ちしてる俺を気にせず、安野三原さんは縁側に座った。

 俺もなんとなく隣に座って一緒に月を見上げてみる。


「今夜は……月が綺麗ですの」


 安野三原さんは、お風呂上がりで少し火照った顔をこちらに向ける。

 ピンクのリボン付きヘアバンドで髪を纏め、純白のワンピースパジャマが身を包んでいた。


「……心地良い風ですの」

「そう、だね」


 夜風に金色の髪が靡いて甘い香りが広がる。

 今日一日ずっと一緒にいたけど、常に彼女は上品で端麗で。

 人前では隙がないと思わせて、俺の前だと甘えん坊で。裏表も無く、可憐で可愛らしくて。


「どうしましたか忠邦?」

「……え」

「ずっとわたしのことを見ていらしたので」

「な、なんでもないっ。俺、風呂入ってくるよ!」

「忠邦っ」


 焦って縁側を上がって中に戻ろうとしたら、安野三原さんに呼び止められた。


「先に寝室へ行っておりますので」

「……う、うん」


 な、何でそんなことわざわざ言うんだよっ。

 これじゃまるで、新婚夫婦の初夜みたいじゃないか。


 俺は何度も何度もジャンプーとボディーソープを繰り返して念入りに身体を洗い流した。


 ✳︎✳︎


 風呂上がりに濡れた髪をタオルで拭いながら階段を上がる。


 へ、部屋の奥では安野三原さんが、その、色々と準備してるのか……。


『ご安心ください。仮に行為に及んだ場合は目と耳を塞ぐので』


 ナツメさんの言葉が脳裏をよぎった。


「す、するわけないだろ! 俺たちは、まだそう言う段階じゃないわけだし」


 ……でも、いずれは安野三原さんと。


 端麗な金色の髪に指を通しながら、生まれたままの姿の安野三原さんを抱きしめる自分を妄想する。


「安田様」

「うぉっ!」


 またしても突然背後に現れたナツメさん。

 俺のピンク色の妄想が見透かされていたのか、冷たい眼差しを向けられる。


「な、なんですか、ナツメさん」

「別に……部屋の前でビビってたので少し揶揄ってあげようかと」

「そ、そりゃビビりますよ。恋愛経験も0だし、色々と知識に乏しいですし」

「では初恋もまだなんですか?」

「ま、まぁ」

「……じゃあ裕香様が初恋の相手だと」

「そうならないとヤバいですもんね」

「当たり前です」


 ナツメさんは一礼すると「約束通り席を外します」と言って階段を降りていった。

 だから何もしないって。


「……もう、寝ないとな」


 大丈夫、安野三原さんは純潔なお嬢様だからまだ早いって分かってるはず。

 あ、あくまで俺は添い寝してあげるだけだ。


「よしっ」


 意を決して部屋に入ると、ベッド上に歯ブラシを咥えた安野三原さんが座っていた。


「ただくに〜、歯磨き手伝ってくださいっ」

「……」


 ……は?

 心の奥底では少しだけアレを期待していた俺を待ち受けていたのは、この現実。


「ただくに、早くしてくださいまし〜」


 あ、赤ん坊お嬢様……。

 安野三原さんの隣に座って歯磨きを手伝ってあげると、彼女は嬉しそうにそれを受け入れていた。


 才色兼備なのに一人で鼻かめない、歯磨きもできない、寝れないとかどんな教育したらそんな女の子になるんだよっ!


「ふふんっ」


 けど、嬉しそうなんだよな。

 安野三原さんって普段は裏表が無いからこそ、本当に出来ないのか、それとも甘えるためにわざとやってんのか分かんないんだよなぁ。

 ……いや、お母さんの話を聞く限り多分前者なんだけど。


「はぁ」


 とりあえず、あと10年は大人な恋愛を期待するのはやめようと強く思った。


 ✳︎✳︎

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