気まぐれ店主 🍜

上月くるを

気まぐれ店主 🍜




 あれ? いつの間にか田んぼの稲が伸びて、チョコザエモンの背を越しています。

 あのなかに分け入ったら、気持ちいい? チクチクする? どっちだろうね~。


 そんなことを考えながら焦げ茶色の背中を移動させてゆくと、ん? まただよ~。

 辻の小さなラーメン店の入り口のガラスに、無骨な手書きの紙が貼られています。



 ――体調不良につき、本日は休みます。



 客商売でいながら、定休日でもないのに休むこと、珍しくないのです、この店は。

 今朝の口上はまだマシなほうで、ときどき生の感情をむき出しにした文言が……。



 ――やる気が出ないので、休みます。



 投げやりなマジック文字がくにゃくにゃ躍っていたときは、さすがに度肝を抜かれましたが、何事も慣れてしまえばどうということもなくなり……。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ


 まあ、あれだよね、青いリードにつながれたチョコザエモンは思いを巡らせます。

 働くために生まれて来たわけじゃないんだから、開けるも開けないも勝手だよね。



 

      🐶




 こう見えて、田園地帯の真ん中のちっぽけなラーメン店にはファンがいるのです。

 近くの農家さんやオフィスビルで働く人たち、遠くからわざわざ車で来る人まで。


 今日のランチはあの店のラーメンにしようと、朝から楽しみにしていたのに……。

 そう思うと申し訳ないような気もしますが、なに、たかがランチですから。('ω')


 サラリーマン時代から心を病んでいる店主の気質を、みなさん、よ~くご承知で。

 入り口の例の貼り紙を見ると、オヤジ、大丈夫かな? 案じながら引き返します。




      🥷




 ところで、チョコザエモンってヘンな名前?

 笑わないでください、本名はさらに長くて。



 ――ヘッピリチョコザエモン。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ



 それが保健所から保護団体を通して引き取られた中型ミックス犬の正式名称なの。

 これでも、時代劇好きなマモル兄さんが、よくよく熟考してつけてくれたのです。


 ねえ、ふざけてんの? 役所の係からそんな感じの視線を送られましたが、マモル兄さんは大まじめで「なんか腰がひけた感じの体型から名前が降って来た」とかで。


 当のヘッピリチョコザエモンとしては、大好きなマモル兄さんのことならなんでも大賛成なので、いたって機嫌よく、この名前で暮らしているしだいでござる。(笑)



 

      🎯




 ま、あれですよね、いっぷう変わったと申しましょうか、大方の方向性と足並みを揃えられない or 揃えない人も犬も存在していいわけで、むしろそれが自然なんで。


 なので、稲に隠れたヘッピリチョコザエモンは、潔癖症の店主がピカピカに磨いた入り口のガラスに「営業中」のプレートがよみがえる日を気長に待っているのです。


  

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