第2章 112 アルベルトの説得
扉が閉ざされ、ダイニングルームは静けさを取り戻した。
「クラウディア……」
食卓テーブルの上のキャンドルに照らされたアルベルトの顔には疲れが宿っているように見える。
「はい、アルベルト様」
返事をすると、アルベルトは深いため息をついた。
「何故……毎回毎回、俺に何の相談もせずに勝手に話を進めるんだ?」
「それは私の問題に巻き込みたくは無かったからです。アルベルト様はこの国の国王で、お忙しいお方ですから」
「確かに俺はまだ即位したばかりで、戴冠式も終わってはないが国王に違いはない。だが、その前にお前を心配する1人の男だということも忘れるな」
「!」
その言葉に驚き、思わずアルベルトの顔を見つめる。
「頼むから俺をもっと頼ってくれ。お前が俺を信用できない気持ちは良く分かるが……」
「アルベルト様?」
何故、アルベルトはそんな風に思うのだろう。
「クラウディア、あんな無謀な勝負に挑むということは、それなりの自信は勿論あるのだろう?」
「はい、あります。ですが……」
「理由は明かせない……と言いたいのだろう?」
「申し訳ございません」
「分かった……。それなら別の質問をする。明後日の勝負だが、誰に馬に乗せてもらうつもりだ」
何故アルベルトはそんなことを尋ねてくるのだろうと思いながら考えた。
「ユダにお願いしたいと思います」
「な、何だと?!またユダかっ?!」
アルベルトが焦った様子で問いかけてくる。
「はい、そうですが……?」
何しろ、今度の勝負で私は錬金術を使うつもりなのだ。私の秘密を知っているユダにお願いするのが1番だろう。それに彼は何より兵士なのだから。
「理由は何だ?」
アルベルトが妙に食いついてくる。
「はい。彼は私を『エデル』まで連れてきてくれた信頼できる仲間ですから」
「また、仲間か……いや、それよりもだ。何故この俺に頼もうとは思わないのだ?」
「ええっ?!」
あまりの言葉に流石に驚いてしまった。
「そんな、頼むことなど出来るはずありません。アルベルト様は国王ですよ?それにこれは私とカチュアさん……いえ、宰相との勝負です。もしここでアルベルト様が私に力を貸そうものなら、大事になってしまいます!宰相とますます対立することになってしまいますよ?それに周りも反対すると思います」
「反対されたって構うものか。何しろお前はいずれ俺の妻になるのだからな。戴冠式が終わり次第、式を挙げようかと考えているところだったし」
「え?式とは……挙式のことですか?」
「ああ、それ以外に何がある?」
腕組みして私を見るアルベルト。
「い、いえ。初耳でしたので……驚いただけです」
まさか本当に私と式を挙げるつもりだったとは……。
「別に驚くことはあるまい?結婚するなら式を挙げるのは当然だ。いや、今はそんな話は後回しだ。俺が駄目ならハインリヒはどうなのだ?とにかくユダだけは認められない」
全力でユダを否定するアルベルトに疑問を感じる。
「アルベルト様、何故ユダは駄目なのですか?彼は信頼できる人物ですよ」
「……どうだかな」
「え?」
「いや、何でも無い。それよりユダ以外にもいるだろう?他にお前をここまで連れてきた者達がいるではないか?彼らも信頼出来る仲間なのだろう?とにかくユダだけは駄目だ。目つきが悪すぎる。こればかりは譲れないからな」
それだけ言うと、アルベルトは手にしていたワインを口にした。それにしても、まさか目つきが悪いと言うだけでユダを認めないと言うなんて……。
けれど、彼に歯向かうわけにもいかない。
「分かりました、それでは誰か別の人を考えてみます」
「そうか?考え直してくれるのだな?」
アルベルトは私の言葉に安心したのか、嬉しそうに笑みを浮かべた――。
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