第2章 109 不敵な笑み
「全く失礼な男だ。こちらは食事中だというのを分かっていながら訪ねてくるとは……どうする、クラウディア。追い払うか?」
アルベルトはとんでもないことを問いかけてきた。
「いいえ、そんな追い払う等と……。仮にも宰相である方なのですから、中に入れて差し上げるべきだと思います。それに、リシュリー宰相は私のことでいらしたのですよね?」
宰相は私がここにいることを知った上で訪ねてきたのは分かりきっていた。
「分かった。お前がそう言うなら仕方あるまい。宰相を中に入れてくれ」
「承知致しました」
フットマンはすぐに扉へ向かうと一言二言、言葉を交わし……やがて宰相が部屋の中に現れた。
「陛下にお目通り願います……おや?クラウディア様も御一緒でいらっしゃいましたか?本当にお二人は仲がよろしいようですな?」
リシュリーはわざとらしい言葉を口にする。
「ああ、そうだ。見ての通りクラウディアと食事中だ。だから用件なら手短に話してくれ」
「さようでございますか。ですが陛下。お二人だけで食事をするのではなく、時にはカチュア殿を交えて食事をされてはいかがです?」
「何故、お前にそのようなことを言われなければならない?」
宰相の口からカチュアの話が出てきたのが余程気に入らないのか、アルベルトは彼を睨みつけた。
「僭越ながら、陛下はあまりにも『聖なる巫女』を軽視されているように感じられます。彼女はこの国の宝なのですぞ?『エデル』が強国であるのは、神殿の力添えがあることをお忘れではありませんか?毎年世界中からどれほどの人々が聖地を訪ねてくるのか、お分かりですよね?」
「俺はまだあの女を『聖なる巫女』だと認めた覚えはない。大体あの女を連れてきたのはリシュリー、お前だろう?お前が相手をすれば十分ではないか」
イライラした口調でアルベルトは宰相に言い返す。
「陛下!何という罰当たりな……この国に天罰が下っても宜しいのですか?!」
「その話はもういい!それよりも宰相!早く用件を述べよ!クラウディアのことで話があって、わざわざこの時間を狙ってやって来たのだろう?!」
「いえ、別に意図していたわけではありませんが……でもクラウディア様がいらっしゃるのは好都合です。実はカチュア殿とクラウディア様の勝負の内容が決定したのでご報告に参ったのですよ」
宰相はチラリと私に目をやる。
「リシュリー!お前……本気であの女とクラウディアを勝負させようとするのか?!」
声を荒げるアルベルト。
「ええ。勿論ですとも。大体言い出したのは……そちらにいらっしゃるクラウディア様ご自身ですからな」
「ええ、そうですね。それでは彼女との勝負の内容をお聞かせ願えますか?」
「成程。流石は己の力を弁えずに戦争をけしかけた敗戦国『レノスト』の元・王女でいらっしゃいますな」
「宰相!」
明らかに喧嘩をふっかけてくるような宰相の物言いにアルベルトが叱責する。
「構いません。事実ですから」
「宜しい。では申し上げましょう……」
リシュリーは不敵な笑みを浮かべた――。
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