第2章 108 突然の訪問者
とりあえず、魔術に関する書棚を一通り見て回ることにした。
しかし、どの書棚にも錬金術に関する本は何処にも無かった。
「こんなに魔術に関する本はあるのに、錬金術の本が一冊も無いなんて……」
ここは『エデル』の王宮図書館。この国で1番大きな図書館であるはずなのに置いていないとなると……。
「ひょっとして、この国では錬金術は禁忌の術なのかしら?それであえて意図的に隠してある……?」
けれど、いくら考えても答えが出ない。
やはりここはアルベルトに尋ねるべきなのだろうが……。
「でも駄目だわ。私はまだ彼を信用しきれない……。それにいつカチュアに心を奪われるか分からない状況で自分の秘密を明かすわけにはいかないもの……」
一瞬浮かんだ愚かな考えを払拭する為に首を振ると、無駄とは思いつ再び私は本を探し始めた――。
****
2時間後――。
「どうでしたか?お目当ての本は見つかりましたか?」
図書館を出ると、私を迎えに来たハインリヒがすぐに尋ねてきた。
「ええ。そうね。良い時間を過ごせたわ」
歩きながら返事をする。
結局錬金術に関する記述本が見当たることは無かった。けれど図書館にいれば宰相にもカチュアにも会うことは無い。あの2人に極力会わないようにするには、もってこいの場所だった。
「陛下から伝言を承っております」
前を歩くハインリヒがこちらを振り向きもせずに言う。
「何かしら?」
「今夜も一緒に食事を取ろうと言うことでした」
今夜もアルベルトと食事なんて……。
「分かったわ」
憂鬱な気持ちで返事をした。
****
19時――
私はアルベルトと2人でダイニングルームで向かい合わせに座っていた。
給仕のフットマンがテーブルの上に置かれたグラスにワインを注ぐ様子を見つめながらアルベルトが尋ねてきた。
「ハインリヒから聞いたが、今日も図書館に行ったそうだな?」
「はい」
どうやら私の行動は全てアルベルトに筒抜けのようだ。回帰前は私に関心すら寄せなかったのに。
「それでどんな本を探していたんだ?」
「いえ、特には……ただ、図書館にいれば宰相やカチュアさんに会うことも無いだろうと思っただけですから」
「ふむ……そうか。確かに王宮図書館は、いくら宰相と言えど立入禁止にしてあるからな。あそこには禁呪の本も置いてあるし……」
アルベルトが意味深な台詞を口にした。
「禁呪……ですか?」
「ああ、そうだ」
禁呪とはどのような本なのだろう?給仕のフットマンが部屋を出た後に尋ねてみよう……そう思った矢先――。
コンコン
扉のノック音が響き渡った。
「誰だ?食事時だと言うのに……まぁいい。対応してくれ」
アルベルトは傍らに立つフットマンに声を掛けた。
「かしこまりした」
フットマンはうなずき、扉に向かった。
食事時にも関わらず訪ねてくる相手は……恐らくあの人物しかいない。アルベルトもそれを分かっているはずだ。
やがて扉が開く音が聞こえ、フットマンが会話をしている様子が見えた。
話を終えたフットマンがこちらを振り向き、声を掛けてきた。
「アルベルト様、リシュリー宰相がクラウディア様のことでいらっしゃいました」
「「……」」
私とアルベルトが顔を見合わせたのは言うまでも無い――。
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