第2章 106 責める騎士に微笑む私
昼食後、図書館へ行く準備をしていると部屋の扉がノックされた。
コンコン
『クラウディア様、いらっしゃいますか?』
扉越しに聞こえて来たのはハインリヒの声だった。
「え?ハインリヒ?」
一体私に何の用があるのだろう?訝し気に思いながら扉へ向かった。
「どうしたの?」
扉を開けると彼は一瞬驚いた様に目を見開いた。
「まさかクラウディア様自らが扉を開けられるとは思いませんでした。お1人だったのですか?侍女やメイドはついていないのですか?」
「ええ。彼女たちは仕事が忙しいだろうから私に構わず自分達の仕事をするように伝えてあるのよ」
「そうですか。まぁ確かに侍女が1人に専属メイドが2人では数が少ないかもしれませんね。それなのに、あの女は何人もメイドをつけて……」
ハインリヒの口調はどこか苛ついているようにみえる。
「いいのよ、彼女はこの国の『聖なる巫女』なのだから」
「本当にそう思われているのですか?」
私の言葉に訝し気な眼差しを向けて来るハインリヒ。
「え?ええ。そうよ」
「ですが、クラウディア様は宰相達に喧嘩を売ったと噂が流れていますよ?」
その言葉に思わずため息がもれてしまう。
「私は別に喧嘩を売ったつもりはないわ」
「ですが、現に城中の者達が口々にそう話しております。何故貴女は陛下を困らせるようなことをされるのですか?」
ハインリヒは明らかに私を非難してきた。
「宰相達が大げさに触れ回っているのじゃないかしら?何しろ、圧倒的にこの城の中で信頼を得ているのはカチュアさんの方なのだから」
「でしたら尚更、軽はずみな行動は取らないで頂きたいものです」
彼の態度はあくまでも強固だ。
「……分かったわ。今後はなるべく気を付けるようにするわ。そのことを伝えに来たのね?」
今の彼には何を言っても無駄だろう。しかし、彼の口から出た言葉は意外なものだった。
「いえ、違います。私はクラウディア様の専属護衛騎士ですから参りました」
「そうだったのね?」
「ええ。それに先ほどの話の件ですが、あれは私にも責任がありますからね。クラウディア様の置かれている状況を考えれば、いかなる時も側にいなければなりませんでした。その事については、大変申し訳ございませんでした。」
まさか、謝ってくるとは思いもしなかった。ひょっとすると、アルベルトに注意されたのだろうか?
「別に謝らなくてもいいわ。貴方だって1日中、私の護衛をしているわけにもいかないでしょうから」
「……」
しかし、そのことについては口を閉ざしている。
「ではハインリヒ。私はこれから図書館に行くので、護衛をお願い出来るかしら?」
「図書館ですか?はい、分かりました。では参りましょう」
「ええ」
そして、私とハインリヒは連れ立って図書館を目指した。
****
「ところでクラウディア様。噂によると、あの女と何やら勝負をするそうですね」
前を歩くハインリヒが尋ねて来た。
「ええ。話の成り行き上、なんとなくね」
「何故、そのようなことをされたのです?勝負の内容も分からないうちから」
ハインリヒの口調は責めているような……また、何処か心配しているような口調にも取れた。
「確かに内容は分からないけれど、カチュアさんに出来る事なら私にも出来るのでは無いかと思ったのよ」
「何故そのような浅はかな事を……。負けたらどうされるのですか?」
ハインリヒはため息をついた。
「そのことだけど……何故、アルベルト様も貴方も私が負けることを前提で話をしているのかしら?私が勝つとは思えない?」
「え‥‥…?」
足を止めて振り返るハインリヒに私は笑みを浮かべた――。
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