第2章 104 共有の秘密
「クラウディア……お前は一体何を言っているんだ?宰相がどのような勝負を持ちかけてくるかも分からない状況で、勝算はあるのか?」
今までにない慌てた様子のアルベルトに、戸惑いながらも答えた。
「それはまだ分かりませんが、出来る限りのことはしてみようと思っています」
「そんなことを言って、もし負けた場合はどうするのだ?俺があの場にいたら止めることも出来たのに、お前は宰相の前で勝負に挑んだのだろう?神殿との結びつきの強い宰相の決めたことを覆すのは難しいのだぞ?ましてや『聖なる巫女』を連れてきたことで、ますます権力を強めていると言うのに……」
ため息をつくアルベルトの顔色は酷いものだった。やはりこの国の陰の支配者は宰相だったのだ。
回帰前もアルベルトは宰相に逆らえず、私を処刑したのだろうか?
「とにかく、何とか手を打って宰相に勝負を取り消すように言わなければ……」
イライラした様子で爪を噛むアルベルト。
「その必要はありません」
「いい加減にしてくれ!俺はお前のことが心配でたまらないんだ!そのことが分からないのか?!」
「アルベルト様……」
アルベルトは本当に私のことを心配しているのかもしれない。けれど、私の脳裏に断頭台に立たされた私を冷たい瞳で見つめていたアルベルトの姿が今も焼き付いて離れないのだ。
彼を見る度に、その時の光景が鮮明に蘇ってくる。
カチュアの肩を抱き、私に処刑執行を命じたアルベルトの言葉が……。
「どうした?クラウディア。顔色が悪いぞ、やはり勝負のことが不安なのだろう?大丈夫だ……何としても俺が宰相を説得して勝負の取り下げを命じよう」
アルベルトが私の両肩に手を置いた。
「待って下さい、そのようなことをすればアルベルト様の立場だって悪くなってしまいますよ?敗戦国から来た王女の肩を持つ国王だと触れ回る者が出てくるかもしれません」
「クラウディア……」
「ましてやアルベルト様は王位を継いだばかりなのですよ?人々の信頼を得無ければならない大事な時期なのですから。それに全く勝てる見込みが無いのなら、私だってわざわざ勝負に乗りません」
「その話は本当なのか?」
信じられないとばかりにアルベルトは首を傾げた。
「はい。ではアルベルト様。そこまで私の身を案じて下さるのならお願いがあります」
「どんな願いだ?」
「はい。誰にも知られることのない……私だけの隠れ家が欲しいのです。出来れば人里離れた場所に」
「何故そんな物が必要なのかは、その顔を見る限り答えてはくれなさそうだな」
そしてため息をつくアルベルト。
「申し訳ございません。いずれはお話出来るときがくるかもしれせんが……今はまだ何も話せません」
けれど、本当にいつかアルベルトに私の秘密を話せる日が来るのだろうか?
私が実は錬金術師であるという秘密を……。
「分かった、クラウディアが望むなら何も聞くまい。なるべく急ぎで用意しよう」
「ありがとうございます。アルベルト様。ですが……」
「ああ、分かっている。この話は俺とお前だけの秘密だ」
アルベルトは安堵したのか、少しだけ口元に笑みを浮かべた――。
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