第2章 75 現れた2人
「それにしても、率先的に近隣の町や村に水を分け与えているとは大したものだな?伯爵」
アルベルトはマーフィー伯爵に声を掛けた。
「ええ、勿論です。困ったときはお互い様ですから……そうだよな?お前たち」
伯爵は後ろに控えていた町人達を振り返った。
「え、ええ。そうですね……」
「はい、当然のことですから」
数人の人々が返事をした。彼らは皆、何処か疲れた様子に見えた。
「よし、では伯爵。次に井戸を案内して貰えるか?」
「はい、勿論でございます。では一番大きな井戸のある場所へ御案内致します。すぐそこなので歩いて参りましょう」
私達は再び伯爵に案内されて、この町で一番大きな井戸があるという場所へ案内さしてもらった。
****
「こちらが一番大きな井戸になります」
案内された井戸は町の中心部にあった。石畳が綺麗に敷かれた広場の中に設置されている井戸は確かに伯爵の言う通りかなり大きな物だった。
「ほう……かなり大きな井戸だな。深さもありそうだ」
アルベルトが感心したように伯爵に声を掛けた。
「はい、そうです。この井戸は直径が約1m、深さは約15m程です。どうぞ中を御覧下さい」
伯爵に勧められ、アルベルトは井戸を覗き込み……眉をしかめた。
「これは……殆ど水が無いではないか」
「はい。ここ最近の日照り続きの上、先程御覧になった通りため池も枯渇してしまいました。更に近隣の町や村に水を分けてあげたものですから……今ではこのありさまです」
「そうか……何とかしないとな……」
アルベルトが考え込んだ時、突然背後から声が聞こえた。
「陛下、我々が何とか致しましょうか?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこに現れたのはリシュリー宰相とカチュア、それに護衛と思しき3人の騎士たちだった。
「リシュリー……何故ここにいる?」
「陛下が朝から外出されるお姿を見かけたからです。そこでどちらへ行かれたのかを使用人たちに尋ねたところ、クラウディア様と水不足で困っている領地の視察に行かれたと言うではありませんか」
アルベルトはまるで苦虫を潰したかのような目で宰相を見ている。
「それにしても陛下、酷いではありませんか。私はこの国の宰相ですぞ?先代の頃から宰相を務めてきた私に行き先を告げずに出かけられるとは」
「何故いちいちお前に報告せねばならないのだ?」
アルベルトの声には苛立ちが混じっている。
「それは私なら解決方法を知っているからです。そうであろう?カチュア」
宰相はそれまで口を閉ざしていたカチュアに声を掛けた。
「はい、そうです」
カチュアは返事をすると私達の前に進み出てきた。
「陛下に御挨拶申し上げます」
アルベルトに頭を下げると、次にカチュアは私に視線を移した。
「クラウディア様もご一緒だったのですね?」
「はい、そうです」
「クラウディアはじきにこの国の王妃となるのだから連れてくるのは当然だ」
そしてアルベルトが私の肩を抱き寄せて来る。
え?一体何を……?まさか、アルベルトがカチュアの目の前でこんな事をしてくるとは思いもしなかった。
「そう言えばそうでしたね……失礼致しました」
「さぁ、カチュア。陛下にどのような方法で解決すれば良いのか話して差し上げなさい」
「はい、宰相」
カチュアはニッコリと微笑んだ――。
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