第2章 74 1つ目の町『ソリス』
「アルベルト様、今から向かう領地はどのような場所なのでしょうか?」
「『ソリス』という町だ。人口約5千人程の中規模都市に当たる。町には用水路が流れているのだが水を引いているため池の水が殆ど枯渇してしまったのだ」
余程切羽詰まっているのだろう。アルベルトの顔が歪む。
「町の人達は今どうしているのですか?」
「とりあえず、町の至るところに井戸があるので、何とかそれでまかなえているが………そろそろ限界が近いかもしれない」
「そうですか……」
人々は大丈夫なのだろうか……。
足の上に置いた手をギュット握りしめた――。
****
『ソリス』という町は王都から馬車で小一時間程の場所にあった。
馬車が時計台の大きな広場に到着すると、国王自らが視察に訪れたということで町を管理する領主が多くの町民たちを引き連れて既に待っていた。
「陛下、本日はわざわざ『ソリス』へお越し頂き誠にありがとうございます」
私達の前に挨拶に現れた領主は、年の頃は50代半ばの男性だった。
彼の着衣には豪華な金糸の刺繍が施されており、かなり贅沢な衣服に見える。
「この国を収める国王としては当然の努めだからな」
アルベルトが答えると、次に領主は私の方をチラリと見た。
「あの……そちらのお方は……?」
「彼女は私の妻となる女性だ。いずれは王妃となる、クラウディア・シューマッハだ」
「えっ?!お、王妃となられるお方ですか……?」
領主は驚きの顔で私を見る。しかし、驚かれるのも無理はない。私は平民にしか見えない服を着ているのだから」
「クラウディア・シューマッハと申します」
まだアルベルトとは婚姻していない身。ましてや私は敗戦国の姫である為、丁寧に頭を下げて挨拶をした。
「私はカルロス・マーフィーと申します。この領地を管理する伯爵です。どうぞ宜しくお願い致します」
カルロスと名乗る伯爵は挨拶こそ丁寧だったが、その目には侮蔑の色が宿っていることにすぐ気づいた。
何しろ、私は過去に置いて散々周囲から見下された目で見られていたからだ。そしてアルベルトは黙認し……ますます私の立場は悪化していったのだ。
「それでは早速御案内させて頂きます」
こうして伯爵の案内の下、私はアルベルト達と一緒に街の様子を視察することになった――。
「こちらが用水路になります」
伯爵が案内した場所は町の沿道に張り巡らされた用水路だった。しかし、今は完全に水が干上がっている。
「これは酷いな……」
アルベルトが眉をしかめた。
「はい、酷いものです。それに水不足で困っている近隣の町や村に水を分けていた為に、ため池の水も半分以下に減ってしまいました。その為に用水路まで水が引けなくなってしまったのです」
「用水路の水かさが減ってしまっては確かに水は引けないな」
アルベルトが神妙そうな顔で頷く。
先程から2人の話を黙って聞いていたが、私は伯爵の様子がずっと気になって仕方がなかった――。
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