第8話 ウタカとカガミの戦い
「追いついた!」
倒れ伏すマリカとカガミの間に一同が急停止すると、ハルトシが声を上げた。
「ハルトシ君たちか……。生きていたとは」
「メネラオスの奴! やっぱ甘いんだよ、あのデカブツは!」
堂々と佇むキヨラがサカキへと指先を向ける。
「サカキ、あなたの暴挙、断じて捨て置けま……」
最後まで言い終えることなく、キヨラは棒のようにうつ伏せに倒れる。その指先がまっすぐ伸ばされているのが、キヨラの無念さを表していた。
「あっ、キヨラちゃんがぶっ倒れた!」
「やっぱりー、わたしたちを加護で運んだのは負荷が大きかったんだわー」
騒がしい一同を目にして、サカキたちは二の句が継がないようである。
「ハル君、クシズちゃんとウタカを開花させて」
慌ててハルトシは二人に接吻、クシズとウタカが開花する。
「マリカちゃんとキヨラちゃんを治療してあげて」
「はいー」
クシズが倒れる二人を傘で覆う。
開花した〈
「マリカちゃん、大丈夫ー?」
「クシズ、何で追いかけてきたの? 殺されちゃうよ」
「サカキさんの企みを止めなきゃならないものー」
マリカは
「どうして傷だらけなのー。マリカちゃんとサカキさんは仲間だったんじゃー?」
「……ううん。仲間じゃなかったみたい。私は、ガルガンチュアの依代になるためだけの存在だったんだって」
クシズが自身のことのように表情を歪めた。
「あの二人を死なせたのは、私じゃなくて、〈花の戦団〉だって信じたかった。……サカキさんの言う〈真実の世界〉なら、それが分かると思って……」
「マリカちゃんー……」
「でもね、本当は気付いていたんだ。私が臆病だから、二人よりも自分のことを守ろうとして……」
マリカの閉じた両目から透明の雫が流れ落ちる。
「ごめんね、クシズ。友達だったのに、あなたを傷つけた。仲間を死なせて、友達を裏切った私がこうなるのは、当然の報いなのよ」
「そんなこと無いよー。わたしたちが生きているのはー、マリカちゃんが助けてくれたからだって知ってるものー」
「もう私は生きている価値なんかないんだよ」
そう言ってマリカは黙り込む。
「ゆーるーせーなーいー!」
クシズの日傘を握る両手が震えていた。ゆっくりとサカキを振り向くクシズの白皙の面には、常にない赫怒が宿っている。
様子を見ていたカガミがサカキを守るように移動した。
「死に損ないが、何を言ったって無駄さ。とっとと棺桶に戻りな」
「あなたの相手はウタカだよ」
カガミがウタカに視線を移した。
「見たところ、まともに戦えるのはあんただけだろ? 小娘一人であたしに勝てると思うわけ?」
「こう見えても、ウタカは結構強いんだけどな」
臆することなくカガミに相対するウタカ。不安げなハルトシが声を放った。
「大丈夫か、ウタカ? 今はウタカしか戦えないから、無理するんじゃないぞ」
「心配しない。ウタカが本気を出せば、この人くらい倒せるよ」
「本気?」
「うん。本気にならないと守れないものがあるって、ウタカにも分かったからね」
天才であるが故に、これまで物事に本気を出したことが無いウタカの宣言だった。
「あたしも甘く見られたもんだね。いいだろ、かかってきな」
「一番、ウタカ、いっきまーす!」
睨み合うウタカとカガミの間で不可視の火花が散っていた。
ウタカの視線がサカキへ向いたのに気付き、カガミが口を開く。
「サカキ、離れていな! こいつ、多分〈軽砲士〉だ。あんたが狙われたら面倒だからね」
「うむ。分かった」
後退するサカキを視野の端に映すウタカが唇を尖らせる。直接サカキを攻撃する目論見を看破され、悔しさを抑えられないのだろう。
「サカキに手を出したら、あんたのお友だちは生かしちゃおかないよ」
「ちょっと順番が変わるだけだから、ウタカにとっては問題無いかな」
ウタカが小首を傾げる。
瞬時にウタカが指先でカガミを照準。その背後に並列したハネから光弾が射出される。
カガミは片腕を身体の前に立てて光弾を防ぎながら横へと疾駆。ウタカはその場で身体の向きを変え、カガミを照準し続ける。
カガミは殺到する黄色の光弾の間隙を縫って走り、拳を突き出した。鮮紅色の光弾がウタカのそれを打ち砕きつつ宙を走る。
「ひぇ!」
慌ててウタカが回避。足首まで伸びた金色の髪が翻った後ろで爆発が起こった。
爆破の衝撃でよろめいたウタカの隙を突き、カガミが両手を交互に繰り出して光弾を連射する。
「うわ! ちょっ! おっと……!」
連続する爆光のなかを泳ぐように、ウタカが辛うじて攻勢を避け続けていた。
「こっちだって!」
ウタカのハネから放たれた十本の光条が虚空を
カガミは攻撃の手を止め、両腕を交差させて防御の構えをとる。十条の光の柱は、カガミの両腕から発生する光に直撃して爆発とともに霧散した。
「げっ! あの人、やっぱり強い……」
「ウタカだっけ? あんたじゃ、あたしには勝てないよ」
「
たゆたう白煙を振り払ったカガミが朱唇を歪める。
「そうさ。あたしの加護、〈戦士は苛烈たれ〉の前に敵は無い!」
カガミが片手で防壁を形成したまま突撃をかける。
近づかせまいとウタカが迎撃。迫る光弾を打ち落としつつカガミが肉薄する。
「これなら、どうだっ!」
ウタカが握り拳を作る。それに連動して右側の五つのハネが飛翔、カガミを取り囲んだ。
カガミを包囲したハネから光弾が連射される。さすがにカガミは足を止めて防御に専念。
「邪魔だね!」
カガミが手を横に薙ぎ、全方位に鮮紅の光が放射される。その衝撃でハネが弾き飛ばされた。
さらにカガミが正拳突きを繰り出す。
その拳から小さな光が散弾となってウタカを襲撃、避けきれずにウタカの身に幾つかの飛礫が炸裂した。
たたらを踏んだウタカへと肉薄し、カガミが拳を振り被った。
「あたしの〈戦士は苛烈たれ〉は、対象に接近するほど威力が増す。これは耐えられるか!」
ウタカが咄嗟に残った五枚のハネを前方に並べて盾とする。
その瞬間、カガミが振り抜いた拳から閃光が放たれた。鮮紅色の光撃はハネを破砕しつつウタカを押し包む。
「ウタカッ⁉」
観戦していたハルトシが思わず悲鳴に近い声を上げるほどの眩さだった。
立ち上った噴煙を破ってウタカが吹き飛ばされ、宙を飛んで背中を地面に打ちつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます