Episode.31 敗北
ソムニア歴1000年 再生の月(冬)
町に帰還した俺達はエリックとトールを呼び、クリフさんの家に集まる事になった。
「二人共、急に呼び出してすまない」
「いえ、構いませんよ」
来てもらった二人に挨拶をし、この事態をどうするか話し合いを始める。
「それで一体どうしたんだ?」
「実は……」
呼び出された理由を尋ねるトールにロナが事情を説明した。
……
…………
………………
……………………
「盗賊の次は
事情を説明されたトールが最初に発した言葉はそれだった。
「あのまま橋を
クリフさんが詳しく説明してくれたが、何でもあの橋は安全にウィンミルトンとアクアポリスを行き来する為に
なので、あの橋が使えないとなると互いの町に食品や
「どうしますか? 王都の騎士団に頼みますか?」
「いや、前回の盗賊の事もあるし、動いてはもらえないだろう」
エリックが王都の騎士団を頼るか尋ねるが、クリフさんは困った様な表情を浮かべて首を横に振った。
「なら、解決策は一つだね」
そんなクリフさんの反応を目にし、ロナはもう一つの解決策を提案する。
もう一つの解決策……それは自分達であの猪の瘴魔を倒すというものだ。
「よし、事態が深刻になる前にちゃっちゃと倒しちまおうぜ」
話を聞いていたトールも同調し、ロナの提案に賛同する。
姉が酒場を経営しているトールにとって食品が届かなくなるのは死活問題なのだろう。
「すまない、やってもらえるかい?」
「分かりました、任せてください」
クリフさんの問いに俺達を代表してエリックが答え、瘴魔討伐が決定した。
「ありがとう、橋の前までは馬車で送ろう」
話し合いは終わり、各自準備の為に一度解散する。
「ロナ、俺も行かせてくれ」
自宅に戻り、準備をするロナに俺は同行を申し出た。
「え? でも、危険だよ?」
「分かってる、危険なのは
以前までの俺なら町で待つという決断をしてただろう。
でも、ロナの狩りを手伝っている内に恐怖に対する耐性が身についた気がするのだ。
「俺も皆の役に立ちたいんだ」
「……分かった、じゃあお願い」
こうして俺も瘴魔討伐のメンバーに加わったのである。
Episode.31 敗北
俺達は馬車で送ってもらった後、瘴魔との戦いに備えて橋周辺の地形を調べる事にした。
その結果、橋の周辺は草花が生えているだけで隠れられそうな木や戦闘を有利にさせる岩の様なものが一切ないと判明した。
「どうする? 落とし穴でも仕掛ける?」
ロナが
「いやいや、どれだけ時間かける気だよ? 穴を掘るのだって簡単じゃないんだぞ? さっさと倒して町に帰ろうぜ」
それを面倒と感じたトールがロナの提案を却下する。
「四人もいるんだ、負ける訳ないって」
「……分かった」
そのトールの一言でロナも提案するのを止め、戦いの準備を始めた。
「何なら俺が速攻で倒してやるからよ」
トールはそう意気込むと槍を片手に先頭を走る。
「トール、気持ちは分かるが一人で突っ走るなよ?」
先走るトールをエリックが制し、剣を
「ロストも無理しないでね?」
「ああ、危なくなったら素直に下がるよ」
後方にいる俺とロナも武器を携え、何時でも戦闘が行える態勢をとる。
「グオ゛ォォォ」
その直後、橋を
「来るぞっ!」
大声で叫ぶエリックの声が響き渡り、俺達は
と同時に瘴魔が此方に向けて突進を始め、俺達はそれを左右に別れて避けた。
避けた事により瘴魔の背後に回った俺達は、手にした武器でそれぞれ攻撃を仕掛ける。
「喰らえっ!」
エリックとトールが先に攻撃し、俺は追撃する形で刃を瘴魔に直撃させた。
「あ、当たった」
この世界に来て初めて攻撃が命中した瞬間である。
「グオ゛ォォォ」
しかし、瘴魔は俺達の攻撃を喰らっても全く
体に付いた傷を見るにダメージは確実に与えられているはずだ。
だが、この瘴魔には痛感というものがないのか、平然とした様子でその場に立っている。
「ま、まじかよ」
トールがその様子に動揺し、動きを止めたタイミングで瘴魔が暴れ出したので俺達は急いで距離をとった。
ただ動揺して出遅れたトールは離脱するのに遅れ、暴れる瘴魔が目前に迫る。
「トール、離れろっ!」
俺がその言葉を叫ぶ頃には間に合わず、瘴魔の突進がトールに直撃した。
「ぐぁ」
声にならない
「トールっ!」
ロナがトールの身を案じ、声をかけるが反応はない。
「グオ゛ォォォ」
その間にも瘴魔は突進を続け、吹き飛んだトールに追撃を仕掛けようと迫る。
俺とロナはエリックに目で合図を送り、後方で動けずにいるトールを抱き起こす。
エリックが瘴魔を足止めしている間に俺とロナでトールを救出する、そう考えていたのだ。
しかし、次の瞬間――
「うあっ」
エリックも瘴魔の突進に耐えられず吹き飛ばされてしまった。
その結果、トールの両肩を支えていた俺とロナは無防備の状態に
「グオ゛ォォォ」
瘴魔が再び雄叫びをあげる、さっきまでの奴の習性からして突進を仕掛けてくるのは予想できた。
このままでは俺達三人ともただでは済まないだろう。
何より二度目の突進をトールが受けたら命の危険があるかもしれない。
「くそっ」
そう考えた末、俺は
本音を言うならこの行為に意味なんかない。
瘴魔は俺を吹き飛ばした後に再び二人を襲うだろう。
でも、ルドルフさんやフィオの時の様に何もせずに逃げ出すのはもう嫌なのだ。
「ロスト、やめてっ!」
背後からロナが俺の行動を止めようと叫ぶが、当然聞く気はない。
「グオ゛ォォォ」
雄叫びと共に猪の瘴魔が間近に迫る。
……これで死んだら元の世界に帰れたりしないかな?
俺は覚悟を決め、瞳を閉じた。
……
…………
………………
……………………
おかしい、あの距離ならもうとっくに俺は吹き飛ばされているはずだ。
恐る恐る目を開き、前方の様子を確認すると……
俺に触れるか触れないかという距離で瘴魔が、石の様に固まっている。
「あ、あれ?」
ありえない状況に俺は困惑し、間抜けな声をあげた。
「ロスト、逃げるから手伝って!」
「お、おう」
全く動かなくなった瘴魔の横を通り過ぎ、俺達はエリックとトールを肩で支えながら逃走した。
最悪な事態は
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