Episode.17 賢者がいなくとも
目覚めると見慣れない青空が広がっていた。
「あれ? 俺、確か昼寝してたはず……」
辺りには森林が広がっており、自分が屋敷内ではなく外にいる事が判明する。
「あっ、賢者様お目覚めになりましたか?」
不意に寝ているベッドの下方から声がし、視線を向けると真下から今朝話したロナが顔だけ出して
「…………」
状況が飲み込めず、自分の寝ているベッドの周りをゆっくり見回すと……
「えっほ、えっほ」
ベッドは不自然に宙を浮き、下から男二人の
その状況を分析して導き出された答えは――
「なんじゃこりゃー!?」
例の三人にベッドごと屋敷から運び出されている、というものだった。
Episode.17 賢者がいなくとも
「で、これはどういう事だ?」
状況を理解した俺は、ひとまず三人に降ろしてもらい経緯の説明を求めた。
「はい、賢者様が屋敷に入ってしまわれたので外でお待ちしていたら親切な妖精さんが中に入れてくれたんです」
ロナが元気よく俺の問いに答える。
親切な妖精って誰だ……?
「屋敷の中に入り、賢者様を訪ねたら就寝していて困っていたのですが妖精の方が寝たまま連れて行って良いと」
続いてエリックが説明し、事の経緯がだんだんと判明する。
そして、さっきから出てる妖精って……
「言ったでしょ? あたしにも考えがあるって」
やっぱり、お前かぁーっ!
「俺なんか行ったって何の役にも立たねぇだろ!」
「そんなの行ってみないと分からないでしょ?」
「それに
「うっ」
ぐうの音も出ない正論を言われ、俺は黙るしか出来なくなってしまう。
「ま、まぁまぁ、
そんな俺達のやり取りを聞き、ロナが慌てた様子で
他二人も心配そうに此方を伺っている。
「安心しなさい、ルドルフがいなくても盗賊ぐらいあたしが何とかしてやるわ」
「……はぁ、分かったよ」
フィオのその言葉がトドメになり、俺はロナ達の町へ行く事を決意した。
「賢者様、それじゃあ……?」
会話を聞いていたロナが期待に満ちた表情で俺を見つめている。
「ああ、役に立つか分からないが行くだけ行ってみるよ」
そんな彼女に応える様に口を開き、決意を表明した。
「ありがとうございます、賢者様」
「あと何度も言ってるが、俺はただの
これ以上誤解されたままだとまずいと判断し、俺は再び賢者様である事を否定する。
「
ロナは喜びのあまり俺の両手で握り、ぶんぶんと何度も握手を求めてきた。
「行くのはもういいが……」
「?」
俺はそう呟きながら振り返り、目の前に置かれたベッドに視線を向ける。
「これ、屋敷に戻しに帰るぞ? あとルドルフさんに置き手紙もしたいし」
「そうね、ここに置いて行くのは流石にまずいわ」
フィオも俺の意見に同意し、一旦屋敷に戻る事を決めた。
「ほら、あんた達戻しに行くわよ?」
フィオの掛け声に運んできた男二人がまじかよ……って表情を浮かべている。
だが、俺は同情しない、運んできたのは彼らだからだ。
しんどそうな二人を横に俺達は屋敷に一旦引き返し、斧や寝具など旅に必要なものを
向かう道中、ロナ達から町の話を色々聞かされた。
町の名前はウィンミルトンと言い、風車が建ち並び小麦
他にも様々な作物を栽培しており、年に一度
屋敷からもそんなには離れてなく、朝早くから向かえば半日で辿り着く事が可能と言っていた。
ただ今回は向かった時間が昼過ぎだった為、俺達は途中で
ラットヴィルへ向かった時と同じ様に
野営のスタイルは何処も同じ様なものみたいだ。
その後、食事の時間となったがフィオは先に寝ると言って休んでしまった。
彼女は妖精なので食事を必要としないから、疲労が溜まっているのなら先に休むという選択はおかしくない。
ただ俺は盗賊退治に万全な状態で挑む為に休むという選択をした、と勝手に
「はい、ロストさんの分」
考え込んでいると既に食事が完成しており、ロナが焚火で煮込んで作ったシチューを俺に手渡してくれる。
「ありがとう」
道中で話していた為か、気付けば賢者様呼びはしなくなった様だ。
エリックやトールとも打ち解け、昼間よりは気さくに話せる関係になった。
「ロストさん、ロナのシチューは絶品だぞ」
シチューを受け取ると同じ様によそってもらっているトールが笑顔で美味しさを伝えてくれる。
「へぇ〜」
俺は内心楽しみにしながら、渡された木の茶碗から一口
「うん、美味しい」
それはトールが言っていた通り、本当に美味しかった。
「良かった、二人以外に振る舞うのは初めてだから緊張してたんだー」
ロナは少し照れ臭そうにしながら、俺の味の感想に満足気な表情を浮かべている。
「細かく刻まれた野菜と肉、これが良い味出して最高に――」
旨いと続けようとして俺はある事を思い出した。
「……肉?」
肉と呟き、蘇る
それを思い出した途端、俺の手がピタッと止まった。
「ん、ロストさん、どうかした?」
その動きを見て変に思ったのか、ロナが心配そうに此方を見つめてくる。
「あの、つかぬことを伺いますがこの肉は何の肉でしょうか?」
恐怖から自然と敬語になり、今一番聞きたい事を
「え、お肉? 私が獲った
「……兎、ぎりぎり食べれる」
ロナのその発言で俺は何とか胸を撫で下ろした。
肉の心配がなくなり、彼女から話を聞くとロナの家系は代々猟師であると教えてくれた。
どおりでシチューも美味しい訳である。
俺は鼠の一件を未だに気にしている事を恥じ、こんな世界に来た以上はどんな肉でも食べれる様になろうと心に決めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます