クリスマスの予定は?②

昼休みの授業が始まる十分前。

直井くんの席ので立ち話しているところに、大崎くんも加わる。


「聞いた? 生徒会長がクリスマスに慰問するんだってな。今、そのボランティアを募集してるらしいぜ」 


背と声だけはクラスで一番大きい。


「それなら知ってる。老人ホームとかでクリスマス会を開くらしいね」

直井くんが言った。


「なんだ、ずいぶん情報早いな」

大崎くんは腕組みして、直井くんの机に座った。


「クリスマス会でチェロを弾いてくれって、吉武さんに頼まれたんだ」

直井くんが答える。


「相変わらず、優秀なチェリストは引く手あまただな。ボランティアは生徒会長が呼びかけるとなれば、あっという間に集まるだろうな」 


直井くんとは表面上では今まで通りクラスメイトだ。

正直、告白された直後は、ちょっとだけ気まずいと感じたこともあったけど。わたしも森徳に来て最初にできた大切な友達を失いたくはない。だから極力意識しないようにしているし、美咲とはづきにも直井くんに告白されたことは黙っていた。


「直井の演奏の他には何やるの?」


「僕ひとりで演奏するわけじゃないよ。あとは、小児科病棟では紙芝居とか人形劇とか、ちょっとしたプレゼント交換っていってたかな」


「えっ、病院も行くの?」


「そうみたいだよ。あ、そうだ。吉野もやらない? 吹部のみんなにはもう声をかけたんだ」


「うん。そのつもり」


「なんだ。吉野もスカウトされてたの?」


「まさか。スカウトなんて、直井くんじゃないんだから。でもボランティアの話はわたしも聞いていたから、やってみようと思ってたの。前からそういうのちょっと興味あったし」


本当は、万華さんと蓮が一緒に過ごすクリスマスが不安だから参加するの、なんて言えない。


「他の吹部の部員も参加することになるのかな」


「そうなるだろうね。吉武さんから演奏のメンバーと曲の選択を一任されてる」


「そっか。何の曲にするの?」


「空いた時間で練習するしかないから、まとまった練習時間はとれないと思うんだ。だからみんなが知ってる曲で難しくないものを選ぶつもり」


「なんかみんなで楽しそうだな」大崎くんがいじけた表情をする。


「大崎くんも一緒にやろうよ」わたしは誘った。

大崎くんみたいな元気なキャラはきっと子供達にもウケがいいはず。


「楽器なんてできねーよ」


「他にもやることいっぱいあるよ。ほら、大崎くん声も大きいし司会とかどう?」


「それは適任だな。でもクリスマスだしなぁ」意味ありげに言って、ニヤリと笑う。


「こいつさ」直井くんが口を挟む。


「最近彼女できたんだよ」


「え、本当なの?」大崎くんの顔を見る。


「そう。だからクリスマスは予定あるんだ」

ピースサイン。


「嘘でしょ。ショックだわ。大崎に先を越されるなんて」

前から歩いてきた美咲が、天を仰いだ。


「わりいね。お先で」大崎くんはドヤ顔をする。


「その彼女っていうのは誰なのよ?」美咲が訊く。


「部活の後輩」


「あ~かわいそうに。たぶらかされちゃったのね」美咲は頭を振った。

「大切にしなさいよ。大崎を好きになってくれる世にも希少な存在なんだから」


「まったく・・・・・・言いたい放題だな」

大崎くんが苦笑いした。


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