四人でランチ
あの鞄の一件から教室を空ける時は、机に置いてある持ち物全部を鍵付きのロッカーにしまっていたし、学校にいる間は、美咲がわたしのボディーガードのようにぴったり張り付き眼を光らせているからか、あれから不穏な動きはなく平和な日々が続いていた。
そういえば、日課のように下駄箱に入れらどkれていたメモ紙の嫌がらせも、最近ピタリとなくなった。
今日は気分を変えて、三人で学校の食堂でランチ。
入り口で食券を先に買って列に並ぶ。美咲とわたしは唐揚げ定食、はづきはエビフライ定食。
食堂の中の大きな掲示板に、生徒会の立候補者の名前の一覧が貼ってある。前の人に続き、食堂のおばさんに食券を渡す。
安くて美味しいから、学生達でいつも混んでいる。
「明日かぁ、立会演説会」はづきが呟く。
今年の選挙は、始まる前から関心を集めていた。森徳の女王こと吉武万華が生徒会長に立候補するからだ。森徳で圧倒的な人気と知名度を誇る彼女。男子はもちろん、女子からも人気がある。
「間違いなく生徒会長は女王で決まりだろうね」美咲が言った。
かなり前から、今年は万華さんが立候補するらしいと生徒の間で噂になっていた。もちろん、彼女以外には立候補者はいない。勝算がまるでないと分かっている戦いに挑もうと思う者はいないから。
「はい唐揚げ定食~」学生より元気なおばさんの声。
「ありがとうございます」唐揚げの匂いにお腹が鳴った。
眺めのいい窓際の席はもういっぱいで、壁際の方の席に座る。
「毎年、生徒会長はAクラスの生徒だよね」
大きなエビフライにかぶりつきながら、はづきが言った。
「いただきます」わたしも唇で温度を確認してから、唐揚げを頬張る。
「ここ、いいかな?」
声がした方を見上げると、わたしの向かいの席に蓮が立っていた。
すかさずはづきがどうぞ、とトレイを持っている蓮のために椅子を引いた。
「ありがとう。お邪魔だったかな? 席がなくて」
テーブルにトレイを置き、椅子に座った。
「全然大丈夫です」はづきがニッコリとした。
「いつもお昼はここじゃないよね。何頼んだの?」
「時々利用するんだ。煮込みハンバーグ」
蓮は手際よくハンバーグを食べやすい大きさに切って、わたしのお皿の上に置いた。
美咲とはづきはニヤけてる。
「ここのは絶品だよ。で、何の話だったの?」
「生徒会の話。会長は毎年Aクラスから出るねって話してたの」わたしは言った。
「高下もAだけど、生徒会に立候補しなかったんだ」美咲が言う。
「まるで興味ないな」肩をすくめた。
知り合いみたいに普通に話す蓮と美咲を交互に見る。
そうだった。蓮と美咲は去年、委員会で一緒だったんだっけ。
はづきはちょっと緊張した面持ちで、いつも以上に無口だ。
「そっか。吉武が会長に立候補してたんだ」思い出したように蓮は呟く。
「会長に相応しい人だよね、万華さん」わたしは言った。
「男子から人気があるのは確かだね」
蓮がテーブルに置いてあるナプキンで口許を拭いた。
煮込みハンバーグなんて制服にソースを飛ばしたら最後だけど、一滴も垂らさずきれいに食べ終える。
黙々と食べていたはづきが口を開いた。
「・・・・・・食べ方が本当にきれいだね」
「ありがとう。母親が厳格な人でね、特に食事のマナーや食べ方には厳しく躾られたんだ」
「じゃあ、やっぱり勉強も?」はづきが質問する。
「いや、勉強については逆に何も言わなかった。でも幸運なことに学ぶことは嫌いじゃなかったから、小さい頃からいつも本を読んでいたし、机に向かって勉強し始めると気がつくと数時間は経ってるってことがよくあったね」
「それって・・・・・・何か自慢に聞こえるのは私だけ?」美咲がツッコむ。
蓮はふっと表情を緩め、楽しそうな表情になる。
・・・・・・じゃあ、と言って蓮は席を立つ。
「邪魔したね。先に失礼するよ」
二人に軽く頭を下げた。
「高下くんて、本当に紳士だね~」はづきは感激したような声で言った。
うん、と言いながら、わたしは他のことを考えていた。
蓮の口から万華さんの名前が出て、この前のことを思い出していたのだ。
彼女の熱い宣戦布告。
蓮に告白した人をいちいち気にしていたらキリがないのは分かっているけど、万華さんのことだけはどうしても気になってしまう。
わたしと蓮の期限付きの交際。
もう何度もしてきた。その時が来たら蓮の隣にわたしじゃなくて、代わりに万華さんがいるって想像を──。
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