恋って。

さっきから課題をしてるけど、机の上のスマホがすごく気になって全然進まない。

音が聞こえた気がして、スマホに手をのばす。ディスプレイはなんの変化もなく暗いまま。



幻聴まで聴こえるようになってきたなんて、かなりの重症だ。

あの高下蓮から呼び出されてあんな話をされたんだから、正気ではいられなくて当然だ、と開き直る。



もしかして、と思ってサイレントになっていないか確認してみる。これも三回目。でもやっぱり何も来ていない。

今日の今日で来るわけないか、連絡なんて。



LINE、思い切ってわたしからしちゃおうかな。

してもいいってことだよね。連絡先、交換したんだし。

全然信じられないけど・・・・・・一応、彼女なんだし。



実際にするとなると、なんて送っていいか全然分からない。

彼氏ができたのは初めてだし。正確に言うと期限付きではあるけれど。

何であれわたしは初めての経験をスマートにこなせるほど器用なタイプじゃない。くるくると髪を指に巻き付けながら、自分から連絡する勇気なんて微塵もないくせに一応、文を考えてみる。


今、何してる? 

わたしは課題をしてたのだけれど、なんだか集中できないの。

急に馴れ馴れしいし、なんかバカっぽい。



今、何をしていましたか? わたしは課題をすすめていました。

堅苦しいし、これじゃまるで小学生の感想文だ。



もともと彼と親しかったわけじゃないし、正直今の距離感というものがよく分からない。保健室に運んでくれた後は、偶然会っても無視されていたし、友達っていう期間もなくいきなり交際が始まったのだ。

もう少し色々話せるようになったらいろんなこと訊いてみたい。

彼に訊きたいことは山のようにある。



こんなことなら二人に聞いておけば良かったな。

はづきは現在進行形の彼氏がいるし、美咲は今はいないけど中学の時は付き合ってる人がいたみたいだから、恋愛に関しては二人ともわたしより先輩だ。



時計をちらりと見る。

かれこれ一時間も前から課題にとりかかっているのに、ほとんど進んでないのはどういうことだろう。参考書やノートの余白がぐちゃぐちゃと意味の分からない丸や線で埋め尽くされている。


あ~もうっ!


眼につくところにあるから気になるんだ。スマホをベッドの上に放り投げた。

よし、真面目にやろう。

机に向かったものの、ノートの上に突っ伏した。全然集中できない。

やっぱりわたしから連絡しようかなぁ。



思った瞬間、スマホの音が鳴った。素早く手を伸ばしてスマホを手に取る。

美咲からの電話だった。


「今、高下からだと期待したでしょ?」笑ってる。


「もう、からかって!」


スマホから美咲の爆笑が聞こえてきた。


「ごめん、ごめん。もしかして高下から連絡あった?」


「ううん」わたしは唇を噛んだ。

「わたしから連絡した方がいいのかな、とかいろいろ考えてたら課題も終わらなくて」


「そうやってもんもんとしてるんじゃないかと思って電話したの。今日はまだ初日なんだから、焦って冬桜から連絡しちゃだめだよ」


「そうなの?」


「そう、じらさなくちゃ。冬桜はただ待ってればいいの。相手からの連絡を。最初が肝心なんだから」


美咲は釘をさした


「じらすね……」じらすも何も、わたしはすでに大好きだって言ってある。


「高下は今まで沢山の女子をふってきて、想われるってことしかしらないでしょ。だから一度、逆の立場って言うのを経験したほうがいい。そうすれば女心が少しは分かるってもんでしょうよ。それにね、冬桜にとってもその方が絶対いいって。両想いでも二人が全く同じくらい好きってことはないんだから。冬桜の想いより向こうの想いが強いほうが、一生懸命尽くしてくれるはず」


「なるほど・・・・・・分かった」


半ば、美咲の迫力に気圧されながら、忠告を聞き入れることにした。


「どっちにしろ今日は舞い上がってて、眠れないんじゃない? 明日、間違いなく寝不足で眼の下にクマを貼りつけて来ることになるね」



思わず苦笑いした。わたしのことがよく分かってる。

電話を切った後、課題は一旦諦めて先にお風呂に入ることにした。

浴槽に大好きなアロマをいれて時間をかけて入る。

髪にタオルを巻き付けて、自分の部屋に戻った時、ちょうどスマホが鳴った。


ずっと待っていた彼から。

すごく短い文だったけど、それでもたったその数文字がわたしの心をとろかした。


今日は驚かしてごめん。

また、明日。


一気に頬の筋肉が緩む。幸せすぎてほとんど気を失いそうになりながらベッドに倒れこんだ。


ああ、神様。

恋ってサイコー。

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