第19話 剣術大会1
そして迎えた剣術大会当日。
剣術大会は二日間行われ、一日目は一年生と二年生が出場し、二日目は最終学年の三年生が出場することになっている。
「わっ……、すごい人」
会場である学園所有の競技場の参加者用の出入口から観客席を眺める。
学園の生徒も見物することが可能で、見に来ている生徒は多い。女子生徒も木剣ということもあり、婚約者や意中の相手を応援するために見に来ている子もいる。
ちなみに、参加はしないけどロイスは王族のため陛下の隣で観戦することになっている。見ると大臣たちに囲まれて話しかけられている。御愁傷様。
「あ、オーレリアにアロラ」
貴賓席から視線を変えると、アロラとオーレリアを見つける。宣言どおり一番前の席に座って仲良く二人で話している。その光景に口許が緩んでしまう。
「……よし、頑張ろう」
自分に言い聞かせるように呟いて鼓舞する。大丈夫、自主練習はしたし、やれることはやった。あとはその成果を出し切るだけだ。
「メルディ、ここにいたんだ」
「……ライリー?」
すると私に声をかけてくる相手がいて振り返る。
だが、その相手が従兄のライリーで瞠目する。ここは参加者用の出入口なのにどうして参加者じゃないライリーが?
「どうして? ここは参加者用の出入口なのに」
「アルビーに忘れ物を届けにね。それで特別に入れてもらってね。で、帰りにメルディを見つけたから声かけたっわけ」
「ああ……」
ライリーの言葉に納得する。またアルビーが何か忘れ物したらしい。アルビーは結構そんなこと仕出かすから今さら驚かないけど。
「いい加減忘れ物はやめてほしいよ。部屋出る前にちゃんと確認してほしいよ」
「でもちゃんとしたアルビーはアルビーじゃないみたい」
「言えてるね」
「ふふ」
ライリーとそんな風に話しているとつい笑ってしまう。私とライリーの共通認識だ。
「アルビーに応援の声かけた?」
「え? かける必要ある?」
「はっきり言うね……」
ニコッと小さく笑みを浮かべながらも、バッサリというライリー。はっきり言うなと思う。
「別に僕が応援の言葉かけなくてもアルビーは勝ち残るからね。そこは信頼してるから」
「ライリー……」
その直後に微笑んだままアルビーのことを語る。
隣で見る横顔からなんだかんだ言いながらもアルビーのことを信じているのだと窺える。
「信頼してるんだ」
「双子だからね。アルビーのことはよく分かってるつもり。一応、そこは信用してるよ」
「なら私も頑張らないと」
拳を作って呟く。アルビーに負けてられない。
「初めての大会で緊張してる?」
「ううん、むしろ逆。初めての剣術大会でわくわくしてる」
この大会に参加している子は皆、一定の技術を持つ生徒ばかりだ。他クラスの生徒たちと戦えることにむしろ少し楽しみにしている。
「臆さないのはすごいね。でもまぁ、その方が本来の力出せるからいいか。狙うのは優勝?」
「ええ、勿論」
ユーグリフトに勝つのは前提条件で、私が狙うのは優勝カップだ。アロラとオーレリアにも持って帰ると宣言したので優勝しないと。
「そっか。あ、そうそう。来賓席見たら叔父上も来てたよ」
「うん、さっき見た」
ライリーが言う叔父上は私の父。つまり、予定どおり、陛下と一緒に父も来賓客として来たということだ。
「じゃあ僕はもう戻るよ。頑張って、観客席から応援してるから」
「うん。ありがとう、ライリー」
手を振るライリーに私も手を振って返す。
もうすぐ開会式が始まる。そのあとに事前にくじで決まった相手と対戦する。
私の一人目の相手は隣のB組の男子生徒だ。油断せずに頑張ろう。
そして参加者の集合場所へと歩いて行った。
***
「次、A組メルディアナ・カーロインとB組エドモン・フィーダー」
名前を呼ばれて歩いていく。目の前には一回戦の相手だ。
ちなみに、会場である競技場はとても広く、同時に四回試合出来る。
そのため、すぐ隣には絶賛二年生二グループが試合している。
「ルールは簡単です。片方が剣を手放すか片方が降参するかです。体術は必要に応じて使用して構いません。何か質問は?」
私も対戦相手も首を振る。しかし、ものの見事に目の前は何もない。死角もなければ足元はタイルで出来ているので土や砂利での攪乱が出来ない。
実際の戦場なら足元が地面なので砂や砂利を蹴り上げて相手の視界を妨害……とか出来るけど、タイルのためそんな妨害は出来ない。まぁ、足掛けは出来るだろうけど。
しかし、私はやるつもりはない。相手が先にしてきたら話は別だけど。
そう考えていると審判が頷いて再び声を出す。
「特に質問はないようですね。では──開始」
審判が開始を告げると対戦相手である男子生徒が私に向かって走ってくる。
私が公爵令嬢でも、女でも本気なのが相手の顔から読み取れる。
なのでしっかりと両手で木剣を持って構える。
そして相手の剣の動きをじっと見て、振り上げる木剣を最大限衝撃を霧散して受け止める。
「なっ……!?」
「女だから受け止められないと思った?」
驚愕の表情を見せる相手に呟く。こちとら伊達に幼少期から年上の従兄たちの訓練に混じっている。何回も何回も男と女で戦っているため衝撃を緩衝する
そして受け止めた剣を振り払って僅かに距離を取って、冷静に相手を分析していく。
突撃型で力はあるものの、特別強くはない。衝撃を緩衝したら十分受け止めることが出来る。
そう結論付けると今度はこちらが攻撃の姿勢に入り、走っていく。
「──っ!」
カァァン、と会場に木剣がぶつかり合う音が響く。
相手の表情から女の中でも強い方に分類される私の腕力に驚いているのが読み取れる。動揺している今がチャンスだ。
そのまま剣をぶつけて攻勢を続ける。相手が守りに徹して疲労していくのを観察しながら一度距離を取る。
「はぁ、はぁ……」
「……ここら辺かしら」
相手が肩で息をしているのを確認して助走をつけて走っていく。相手の息が整うのを待っていたらまた打ち続けることになって私の体力も消費するので御免だ。
そして懐に入り込んで、明確に剣柄を狙って振り上げる。
「なっ──」
カァァン、と剣先と剣柄が衝突し、相手の手から木剣が落ちるのを確認する。
「ふぅ。……審判、判定をよろしくお願いします」
「は、はい。勝者、メルディアナ・カーロイン!」
わぁっ、と観客席から声がなる。よし、第一回戦は突破出来た。
オーレリアとアロラの方も見ると、二人で手を取り合って喜んでいる。いいな、私も混ざりたい。
判定されて互いに礼をしてそれぞれ退場する。これで次の試合まで休憩出来る。
特に危なげなく一回戦は勝てたので、この調子で次も挑もうと考える。
「……!」
そんな風に若干浮かれながら考え事して歩いていると、後ろから見知った気配がして振り返る。
「あ、アルビー」
「よぅ、メルディ。よー分かったな」
「だって気配隠してないじゃん」
「そっか」
はははっと笑いながらアルビーが隣を歩いていくので特に何も指摘せずそのまま歩いていく。
「にしてもさっきのやるじゃん。初戦にしてはよかったぜ」
「ありがとう。アルビーもここにいるってことは勝ったのね」
「ああ、勿論。去年は惜しくもベスト四位だったからなー。今年は優勝を目指すつもりだ」
「奇遇ね。私も優勝を狙ってるの」
「お、なら俺も負けてらんねーな」
互いに優勝狙いだと語り、その後も試合についてアルビーと軽口を言いながら笑いあう。
「あ、そう言えば開会式の前にライリーと会ったよ」
「ライリーに?」
「そう。アルビーの忘れ物届きにね。ライリーも応援してたから頑張らないとね」
「へぇ、アイツが?」
「うん」
「なら期待に応えてやるか」
腕を上にを伸ばしながらニヤリと笑ってアルビーが宣言する。普段はよく口喧嘩している双子だけど、相手のことを認めてるのが読み取れる。
「次、二回戦です。二年B組アルビー・ウェルデン来てください」
「お、二回戦か。じゃあ行ってくるわ」
「うん、頑張って」
「お前もな」
そう言って私の髪をくしゃくしゃと手で乱す。って、ちょっ! せっかくポニーテールにしてひとまとめにしてるのに!
「ちょっと、やめてよ!」
「へいへい。ま、見てろよ」
そう言うと勝気な笑みを浮かべながら手を振って歩いて行った。おのれ、解せぬ。
それからしばらくすると私も二回戦に呼ばれ、次も難なく勝利した。
そして三回戦、四回戦と順調に勝ち進んでいき、ついに準決勝まで登り詰めた。
残りは四人。私に同じクラスのジェフリー様とC組のルモー様に奴、ユーグリフトだ。
宣戦布告したが準決勝まで残るとは。剣術の腕は確かにいいのだろう。
この準決勝に勝てば決勝戦だ。誰と当たるのだろう。もし、ユーグリフトと準決勝で当たれば叩きのめしてやる所存だ。
「次、一年準決勝の対戦相手を言います。Aコート、A組ジェフリー・アルノーとB組ユーグリフト・スターツ。隣のBコートはA組メルディアナ・カーロインとC組ルモー・ラドレア」
対戦相手が発表される。準決勝でもユーグリフトと当たらなかった。
準決勝まで残っているということは相手は中々の強敵だ。油断せずに頑張ろう。
ユーグリフトの対戦相手であるジェフリー様は同じクラスのため知っているけど、中々の強敵だ。これは、どうだろうか。出来たら剣術大会で勝敗を付けたいのが本音だけど。
「それでは四人は試合場へ向かってください」
考えながら大会関係者に指示され、そして試合場へと歩いて行った。
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