10-03:「私のせいなのでしょうか」
一ヶ月前、襲撃事件の直後。帝国学園宇宙船ヴィクトリー校はファブリカント侯爵領惑星ハウンに到着。
ミロはファブリカント侯爵から協力を取り付けた。怪我人の治療、応急修理、そして帝国警察の到着を待ち、船内に潜入したテロリストの引き渡しを終えた後、帝国学園宇宙船ヴィクトリーは別のリープ閘門を使い自由経済恒星系ハンズに向かった。
帝国主要星系の一つであるハンズ恒星系の惑星ハンズIV軌道上では、今回の襲撃事件による犠牲者を追悼する式典が行われていたところだった。
ジマーマン学園長は命には別状無いものの、精神的なショックが大きいとされ欠席。代わりにウィルハム宇宙港に取り残されていた副学園長が弔辞を述べた。
自治会長であるカスガ・ミナモトも友人を失い少なからぬ精神的な動揺があると言われたものの、短いながら立派な態度で弔辞を述べたところだ。
式典会場に設定されたハンズIV衛星軌道上のステーションには、皇族を含めて多くの参列者が集まっていたが、別室でその様子を見ている者たちもいた。
大半が襲撃事件で怪我を負い、心身共に参列がまだ難しい状態の生徒、学生、教職員たち。
ポーラ・シモンもその一人だった。特別に設けられた個室で、窓の向こうとモニターディスプレイに映る式典の様子を見ていた。
車いすに乗っているのは、太ももの怪我が完治していない為。歩行をはじめとした運動機能に障害が残る可能性はないが、動脈を傷つけた事もあり、傷口が何かの衝撃で開かぬよう注意しての措置だ。
部屋にいるのはポーラだけではない。その傍らには椅子に座ったルーシアの姿もあった。
◆ ◆ ◆
「……私のせいなのでしょうか」
ルーシアはぽつりとそうつぶやいた。
「私がシュトラウスの姫だから……。だからポーラや皆さんが巻き添えに……」
「それは違います。テロリストたちはギル皇子を狙って学園宇宙船に侵入したのです。ルーシアは無関係です」
ポーラは静かだが、しっかりとした口調で答えた。
「でもポーラ。ギル皇子は私を妻にすると言ったのでしょう? そんな事を言わなければ命を狙われる事は無かった。ポーラも皆さんも、こんな目に……」
車いすはポーラの意思を反映して自動的にルーシアの元へ向かう。涙を溜めるルーシアの手を取りポーラは言った。
「ギル皇子の性格から言って、恐れか早かれあのような事になっていたと思います。ルーシアが気に病む事はありません。犠牲になった生徒や学生たちも、貴族や裕福な市民の産まれ。常にテロの標的になる危険性はありました。それがたまたま今回だけだったという事です」
「でも……」
釈然としない顔のルーシアにポーラは続けた。
「納得できないのならば、なおさら胸を張って生きて下さい。犠牲になられた方々の分も。生きられぬ人の分も生きていくのが、生き延びた人の責任です」
「……分かりました。私に出来るだけの事はします」
ルーシアはポーラの手を力強く握り返すと、その瞳を見て言った。
「それからポーラ、一つ約束して下さい。もう二度とあんな無茶はしないで下さい。何があっても、まず私に相談して下さい。友達でしょう?」
「そうですね。約束します。友達ですから」
ポーラはルーシアに肯き微笑み返した。しかしその胸中は葛藤が渦巻いていた。
ああ、私、また嘘をついてしまった。
テロリストの一部は最初からルーシアを拉致する事を目的としていた。ルーシアの存在を公表したくないシュライデン家が八方手を尽くしてこの情報を隠蔽。
ポーラもミロから口止めされていた。
テロリストを送り込んだ神聖派の指導者ビンガムも自殺してしまった為、事実はそのまま闇に葬られるだろう。
もっともそんな事が無くても、ポーラはこの件をルーシアに話すつもりなどなかった。
しかしそんな事はどうでもいい。もう一つ、なによりの嘘をついている。ポーラにはその自覚があった。
ルーシア。私は同じ事があれば、また迷わず貴女を助けます。間違いなく、自分の命に代えてでも……。
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