09-11:ミロの軍勢~偽りの艦隊
「なるほど、では貴官はファブリカント侯爵に庇護され、デルガドの元に派遣されたという事でいいのか?」
『はい、ミロ皇子殿下』
通信用ディスプレイの向こうでギャレットは頭を垂れて答えた。
『今回の作戦行動については、デルガドの命令に従いその内容については必要以上に詮索するなとの事でした』
「なるほど……」
ミロは思考を巡らせた。
学園宇宙船のすぐ前方にはリープ閘門。周囲には合流したローボ・ロッホ艦隊、ギャレット艦隊、そして勝手に付いてきている豪華宇宙ヨット『マダム・バタフライ』。
これからどこへ向かうかを検討中なのである。
このリープ閘門から突入できるリープストリームは、帝国の主要な星系には通じていない。
主要星系に向かうには他のリープ閘門を使いリープストリームを乗り換えなければならない。
それにはファブリカント侯爵領を通過する事になる。ただでは済むまい。
学園宇宙船内にはまだ多くの負傷者がおり、早急に医療設備が整った場所へ到着しなければならない。時間は余り残されていないのだ。
ミロは決心した。
「よろしい。ファブリカント侯爵に挨拶せねばなるまい。このままファブリカント侯爵領内に向かう。そして侯爵の屋敷がある惑星近くでリープストリームを降りる事とする」
さらりとそう言うミロに、隣席のスカーレットはもちろん、ピネラ中尉以下の管制室内の乗員、
そして通信ディスプレイの向こうにいるギャレット司令やアルフォンゾも驚きを隠せない。
「ミロ、ファブリカント侯爵は前王朝派を匿っているのだぞ。そこに直接赴くとは……」
泡を食ったスカーレットが反論したところで、ミロが動じるはずもない。
「だからこそ行くのだ。ファブリカント侯爵の真意を確かめにな」
「真意も何も……」
スカーレットが言い終える前に通信用ディスプレイから笑い声が響いた。アルフォンゾだ。
『わはははは、面白え。やってみようぜ。俺もそのファブ何とか侯爵の面を拝みたいと思っていた所だ』
『……そうですな。悪くない考えです。代々シュトラウス王朝皇帝に仕えていたファブリカント侯爵家ですが、現当主はシュトラウス家とは無縁。もともと前王朝派とは温度差があるのではないかと思っておりました』
しばし黙考していたギャレットも賛意を示した。ミロは無言でピネラ中尉に視線を巡らせた。
「異論はございません。ファブリカント侯爵家がある惑星ならば、医療設備も整っている事でしょう。まだ緊急警戒警報が発動しておりますので、私の権限で学園長殿には事後承諾していただくという形式になります」
ミロはピネラ中尉に肯き、そしてシートから立ち上がり命じた。
「全艦、
バーナクル辺境空域に出現した時は学園宇宙船一隻だけだった。
しかし今や帝国学園宇宙船ヴィクトリー校に従うのは宇宙海賊ローボ・ロッホの駆逐艦、宙雷艇の計五隻。
ギャレット艦隊の巡洋艦一隻に駆逐艦三隻。ローボ・ロッホに勝手に付いてきた宇宙海賊の艦四隻。
そして直接の意思表示はしていないが、学園宇宙船に併走している宇宙ヨット『マダム・バタフライ』。
いつの間にかちょっとした艦隊を形成していた。
そのすべてが己の自由意思でミロに従い、着いて行こうとしている。
まさに『ミロの軍勢』だ。
しかしその正体が知れぬ『偽りの艦隊』でもある。
その偽りの艦隊が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます